桜恋録ニ | ナノ


4


《原田 side 》



千鶴「色白だし髪も顔も綺麗だし足も長いし……」

名前「……ち、千鶴?」




……何だか聞き覚えのある声が聞こえて、俺は閉じていた目をゆっくり開いた。

今は新八と平助と露天風呂に浸かっているところなのだが……。
目の前にいる新八と平助も、「ん?」と不思議そうな顔をしている。

……まさか、この壁のすぐ向こうに女湯があるのだろうか。



千鶴「胸もすごく綺麗だよね……!」

名前「千鶴どうした!?」




聞こえてきた会話に、風呂の中で思わず足を滑らしそうになった。

……千鶴でもそういうことを言う時もあるのか。
名前ならともかく、千鶴は意外だな。

つーか、こっちに丸聞こえだぞお前ら……。

平助と新八に至っては、顔を真っ赤に染めている。
……まさか、人の女で変な想像してるんじゃねえだろうなお前ら。



名前「待って千鶴、なんか目が据わってるよ怖いよ」

千鶴「……名前の触ったら、私も大きくなるかな……」

名前「……いやあの、そんな神社みたいなことはないからね?『ご利益あります』みたいなものじゃないからね?」




藤堂「……オ、オレ、ちょっとのぼせてきたから先に上がる!!!」



会話の先を想像してしまい聞いていられなくなったのか、平助が真っ赤な顔のまま慌てて風呂から出ようとしている。

………しかし、



千鶴「お、お願い!少しだけ!」

名前「仕方ねえな愛する千鶴の頼みだ!!」

千鶴「ありがとう!失礼します……!」




そんな会話が聞こえた瞬間、風呂から上がりかけていた平助が足を滑らして、再び風呂に落っこちた。

物凄い水しぶきが上がる。



永倉「平助!?大丈夫か!?」



頭から風呂に落ちた平助を見て、新八が驚いたように声を上げた。

……そういうお前も鼻血出てるが大丈夫か?



原田「………おい、中に戻るぞ」



……自分でも驚くほど、低い声が出た。



永倉「……さ、左之……そんなに怒るなって。今のはさすがに不可抗力だろ……?」

原田「別に怒っちゃいねえよ」



口ではそう言ったものの、言葉とは裏腹に不機嫌そうな声が出てしまう。

あまりにもわかりやすすぎる自分に、心の中で思わず苦笑いした。

……だが、此奴らが名前の体を想像するのが不愉快で仕方ねえ。
俺だって、まだ見てねえんだぜ?



千鶴「あ、ありがとう……!ご利益ありそう!」

名前「いやあの、私の胸を拝まないで……」




その間にも、絶えず聞こえてくる会話。

新八と平助は、俺から逃げるように慌てて露天風呂から出ていった。

……いやもう遅せぇだろうが。



"千鶴「色白だし髪も顔も綺麗だし足も長いし」"


"千鶴「胸もすごく綺麗だよね……!)"





先程聞こえてきた千鶴の言葉が、脳内でずっと回っている。

……あー、くそ。
こんなの、想像しちまうじゃねえか。


大きな溜息をついて、俺はその場を後にするのだった……。

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