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名前「 ──── 土方さん!!」
土方「出てけ」
名前「何でですか!?」
スパーンと勢いよく障子戸を開けるなり、出て行けと言われた。
さすがに酷すぎない!?
土方「てめえの日頃の行いのせいだろうが」
名前「え、私何も言ってないんですけど」
え、何怖い、心読まれてる?
名前「ちゃんと用事があるんですってば!土方さん、鋏持ってません?」
土方「……鋏だァ?」
土方さんに尋ねると、彼の鋭い目がこちらを見た。
土方「……変なことに使うんじゃねえだろうな」
名前「まさか。前髪切るだけですよ」
私はそう言って、前髪を切る仕草をして見せる。
土方さんってば、まだ私の事警戒してるのか?
なんか、めちゃくちゃジト目で見られてる気がするんだけど。
土方さんは大きな溜息をついた。
土方「……そこに座れ」
名前「えぇ、またお説教ですか?……もしかして、土方さんの発句集を沖田さんの部屋の天井に貼り付けたのバレました?」
土方「てめえ何してやがる!!!」
名前「えっ違うんですか!?もう2週間も前ですよ!?」
土方「ふざけるな、後で取ってこい!!髪切ってやるから座れっつってんだよ!!」
…………ん?
名前「…………え、土方さんが切ってくれるんですか?」
土方「お前に鋏なんか渡したら何するかわからねえだろうが」
名前「私の事何だと思ってるんですか、さすがにもうあんなことはしませんよ」
土方「いいからさっさと座れ」
土方さんが本当に髪を切れるのだろうか……。
一抹の不安どころか物凄く不安なんですけど。
……でも確かに、誰かに切ってもらう方がいいのかもしれない。
私は髪を切る時は大きい鏡を見ながらでないと切れないのだが、生憎私が持っているのは小さな手鏡だけ。
鋏を貸してもらったとしても上手く切れないかもしれない。
そう考えた私は素直に土方さんの前に座った。
名前「……じゃあ、お願いします」
土方「ああ。どの辺まで切りゃいいんだ」
名前「眉毛が出ない程度でお願いします」
土方「そんなの意味ねえだろうが、今と大して変わらねえじゃねえか」
名前「変わりますよ!!前髪は女の命なんです!!それに眉毛出るの嫌なんです、似合わないし」
土方「わかったわかった、とりあえず少し切りゃいいんだろ」
名前「頼みますよ本当に」
ゴソゴソと机の中を漁って鋏を取り出し、私の真正面に座った土方さん。
グッと前髪を掴まれて引っ張られ、土方さんの顔がドアップになる。
うわっ、近っ!!!
私は思わずギョッとして後ろに飛び退いた。
土方「おい、動くんじゃねえ!前髪消し飛ぶぞ」
名前「恐ろしいこと言わないでください!!」
土方「嫌なら黙って目ェ瞑ってろ」
名前「いだだだだ!あんまり引っ張らないでください禿げる!!」
土方「勝手に禿げてろ」
名前「酷い!土方さんも道連れにしてやる、前髪が後退する呪いを掛けてやる!」
土方「……おっと、今日は手が滑りそうな日だな」
名前「ごめんなさい!!」
全く、なんて乱暴な人なんだ!
千鶴が相手だったらもっと優しくするクセに!!
しかしすぐにジョキッと前髪に鋏が入る音がしたので、私は渋々目を閉じたのだった……。
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