桜恋録ニ | ナノ


2


猪口を置けば、ポカンとした2人の顔が目に入る。

なんだよ、その間抜け面は……。



永倉「………さ、左之。お前、名前ちゃんといい仲になって何ヶ月経った?」

原田「………三月(みつき)ほどだな」

永倉「だよな。……どうしちまったんだよ?体調でも優れねえのか?」

藤堂「確かに、左之さんがまだ手出してねえのは意外だよなー」

原田「……お前らな、俺の事を何だと思ってんだ」



手出してねえだけで何で体調不良を疑われるんだよ。
此奴らといい名前といい、俺はどんだけ手の早い男だと思われてんだ。

……いやまあ、否定はできねえが。



永倉「じゃあ、お前が何ともねえとなると……名前ちゃんにお預け食らってんのか?」

原田「お預けって、犬じゃあるめえし」



……まあ、ある意味お預けっちゃお預けだが。


思い出されるのは、名前と同じ布団で寝たあの日の記憶。
思い出して、思わず苦笑いがこぼれる。

あれは何の生殺しかと思ったぜ……。
よくあの状況で耐えられたもんだよ、俺も。



原田「……そういう雰囲気に一度だけなったことがあったんだがな。……無理矢理話を逸らされちまって、それっきりだ」

永倉「なんだ、恥ずかしがってんじゃねえのか?可愛いじゃねえか」



……いや、あれは恥ずかしがってんじゃねえ。
それもあるにはあるんだろうが……。

しかし、あれは……。



原田「……俺には、怖がっているように見えたな」

永倉「……怖がってる?」

藤堂「左之さんをってことか?」

原田「いや、俺っつうか……そういう行為自体を、だろうな」



暫しの間、沈黙が流れた。

……おそらくあの時、彼奴は怖がっていた。
彼奴は、俺に心配かけまいとしている時や隠し事をしている時、やたらと喋るからな。

あんだけ露骨に誤魔化されたら、手なんて出せるもんじゃねえ。

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