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《 名前 side 》
沖田「悪いことを想像するのはやめましょ、きっと見つかるよ」
原田「……そう、だな」
微かに聞こえた話声に、私はハッとして目を開いた。
どうやらいつの間にか、眠ってしまっていたらしい。
腕の中の子猫も安心したように眠っていたが、私が動いたことで起きたようだ。
よかった、落ちてなくて。
というか、こんな状況で寝ていられる私もすごいな。
……いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
確かにさっき、沖田さんと左之さんの声が聞こえた。
そう思って下を見れば、見覚えのある2つの傘。
……あれは、間違いない。
名前「 ──── 左之さん!沖田さん!」
慌てて、下に向かって大声で叫んだ。
すると傘から見知った顔が覗く。
原田「名前っ!!?」
沖田「やっと見つけた、探してたんだよ」
2人は一瞬驚いたような顔をしたあと、すぐに安堵の表情になった。
沖田「何してるの、濡れちゃうよ。早く降りてきなよ」
名前「………降りられなくなりました」
沖田「馬鹿なの?」
名前「ごめんなさい」
今回ばかりは沖田さんが正しいから言い返せない。
沖田「登れたんだから降りられるでしょ」
名前「無理なんだって!この子も一緒なの!」
「ニャアー」
私は黒猫を持ち上げて見せる。
原田「……なるほどな。猫を助けに行って自分も降りられなくなっちまったわけか」
沖田「猫と同じで自業自得じゃん、やっぱり馬鹿でしょ」
名前「ごめんなさい……」
原田「……ま、お前らしいけどな」
苦笑いしている左之さんと、呆れたように私を見ている沖田さん。
原田「名前、そこから飛び降りろ」
名前「飛び降りる!?さすがの私も足の1本くらいは折れるよ!?」
原田「大丈夫だ、受け止めてやるから」
傘を沖田さんに預けて、ほら、と両手を広げてみせる左之さん。
名前「いやいやいや、無理だって!左之さんまで怪我しちゃうよ!」
原田「大丈夫だ、何の為に鍛えてると思ってんだよ」
名前「……でも、私重いし……」
沖田「まあ、確かに名前ちゃんは重いよね」
名前「沖田さんうるさい」
原田「ほら、炊事当番なんだろ?早くしねえと斎藤に怒られるぞ」
名前「や、やだ!……でも、飛び降りるのは怖い……」
すると今度は、沖田さんが痺れを切らしたかのように言った。
沖田「名前ちゃん、今すぐ降りて来ないと蔵に閉じ込めるよ」
名前「っ!!?」
く、蔵!?あの蔵!?
や、やばい。
沖田さんのあの目、本気だ。
私はようやく覚悟を決める。
そして子猫をしっかりと抱きしめてギュッと目を瞑り、意を決してその場から飛び降りた ───。
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