桜恋録ニ | ナノ


3


《原田 side 》


──── 巡察を終えて帰る途中、急に雨が降ってきた。

幸い小雨だったからそれほど問題は無かったが、隊服や着物はしっとりと濡れている。

気持ち悪ぃな、早く風呂に入りてえ。

屯所に着いて、一息ついた時だった。



沖田「 ──── 左之さんお帰り。ねえ、名前ちゃん見なかった?」



玄関で草履を脱いでいると、ひょいと総司が顔を覗かせた。



原田「名前?見てねえが……なんだ、居ねえのか?」

沖田「今日炊事当番なのにどこにも居ないみたいで。探して来いって一君に言われたんだ」

原田「……本当に何処にも居ねえのか?」

沖田「居ないんだよねえ、平助にも手伝ってもらってるんだけど。部屋も厠も風呂場も庭も探したんだけどさ……」



……なんだか、嫌な予感がした。

名前が居なくなったと言われると、名前が蔵で拷問されそうになっていたあの事件がどうしても脳裏を過ぎる。

まさか、また……?



原田「……蔵は見たか?」

沖田「ああ、蔵なら多分平助が、」

藤堂「 ──── 総司、蔵には居なかったぜ?」

沖田「あ、丁度来た」

藤堂「ん?あ、左之さんお帰り」

原田「ああ……」



どうやら平助が蔵を探してきたらしい。

蔵にも居ねえとなると……。



原田「土方さんの使いじゃねえのか?」

藤堂「いや、聞いてみたんだけど今日は頼んでねえってさ」

沖田「……じゃあ、脱走とか?」

原田「まさか。彼奴はそんな事はしねえよ」

沖田「……ま、そうだよね。せっかく外出許可貰えてるのにわざわざ脱走なんてしないか」



……しかし、なんだか嫌な予感が拭えない。



原田「……探してくる」

沖田「僕も行くよ、一君に怒られるの嫌だし」

藤堂「オレも行く。あ、俺は裏の方探してくる」

原田「わかった、頼む。総司、行くぞ」

沖田「はーい」



俺は総司と一緒に再び屯所の外に出る。

先程よりも、雨は強くなっていた。
俺と総司は傘を差して外を探し始めた。


──── そして、暫く屯所の周りを歩いていた時だった。



沖田「……ねえ、左之さん」

原田「なんだ?」

沖田「……あれ、名前ちゃんの羽織じゃない?」



総司の指差した方を見れば、見覚えのある羽織が地面に落ちていた。

拾ってみれば、確かに名前の羽織のようだ。
雨に濡れてびしょ濡れになってしまっている。

……羽織だけ、何故ここに。
それだけで、嫌な想像を掻き立てるには十分だった。

……まさか、誰かに脱がされたのか?
まさかまた、あんな事に 、



沖田「左之さん」



総司に声をかけられ、俺はハッと我に返る。



沖田「悪いことを想像するのはやめましょ、きっと見つかるよ」

原田「……そう、だな」



……ったく、情けねえぜ。
そんなに余裕が無いように見えているのか、俺は。

まあ、自分の女が居なくなって冷静で居られる奴の方がおかしいと思うが、焦っても仕方ねえしな。

そう思い、俺はその羽織についていた泥を丁寧に払った……。

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