桜恋録ニ | ナノ


2


木の上で鳴いていたのは黒くて可愛らしい子猫。



名前「……って、怪我してるの!?」

「ニャアー」

名前「そっかそっか、痛かったねぇ。今手当してあげるからね」



子猫の小さな足は血で汚れていた。
カラスにでもやられたのかな、可哀想に……。

とりあえず私は猫を抱き上げたまま近くの太い枝に腰掛け、手拭いをビリッと破く。
完全に応急処置だけど、それを猫の足に巻き付けた。



名前「これでよしっと。下に降りたらちゃんと手当してあげるからね」

「ニャア」

名前「よしよし。……さーて、そろそろ降り、」



そこまで言いかけて、私は思わず言葉を切った。

………待って、高くね?
こんなに高い所まで登ってきたのか私は。

地面が随分遠くに見える。
猫を片手に抱えて、もう片方の手だけで木に掴まりながら降りるというのは……さすがに無理な気がする。

というか、足が竦んで降りられない。



名前「……やばい、どうしよう……」

「ニャアー」

名前「……私も、君と同じになっちゃった……」

「ニャア」



……まずいな、日が沈んで暗くなってきた。

暗くなってしまえば、見つけてもらえる可能性は低い。

ましてや私がいる所は葉で覆われているのだ、木の下に来なければ私の姿は見えないだろう。



名前「……巡察の人達が帰って来たら助けを呼ぼう」

「ニャア」

名前「ごめんね、痛いよね。もうちょっとだけ待ってね」

「ニャアー」



子猫をよしよしと撫でながら、私は小さく溜息をついた。

その時だった。


──── ポツ……ポツ……ポツ……


葉に滴る雫。



名前「……えっ、嘘でしょ」



なんと、雨まで降ってきたのだ。

さっきまであんなに晴れていたのに!



名前「……君も私もツイてないねぇ」

「ニャア……」



だけど大量の葉が傘になってくれているおかげで、雨はそれほど当たらない。

少し空気もひんやりとしてきたけれど、子猫の温かさでそれも緩和されそうだ。



名前「早く誰か来ないかなぁ……」


「ニャア……」



私と子猫の声だけが、その場に響いた……。

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