桜恋録ニ | ナノ


5



──── その日の夜。


……ついに恐れていた時間が来てしまった。
就寝時間だ。

今日の新八っつぁんの1件で、私は布団に入るのが怖くなってしまった。


……よし、布団には何もいないな。

ペラリと布団を捲って、あの人形がいないことを確認する。
そして私はすばやく布団の中に入った。


……だけど、明日の朝起きた時に布団の中にいたらどうしよう。
目が覚めて、隣にいたら……?

ゾワーッと全身に鳥肌が立った時だった。


──── ミシ……ミシ……


外から微かに聞こえてきた、床が軋む音。
誰かが近づいてくるような音。

え、やだやだやだ。
怖いんだけど。

しかも、あろうことかその足音は私の部屋の前で止まった気がする。
気がする、というのも、怖すぎて障子の方を見れないのだ。


……ま、まさかまたあの人形が来たとかじゃないよね?
いやいやいやいや、人形が歩くわけないじゃん。


……でも、あの人形は捨てたのに千鶴の所まで戻ってきた。
燃やしたのに新八っつぁんの布団にいた。
もしかして、歩けるんじゃ………?


ドクン、と心臓が大きく跳ねる。


う、嘘。
やばいやばいやばい、考えれば考えるほどあの人形に思えてくる。

や、やめてやめて。
お願い来ないで!!!


……しかし、私の願いも虚しく。

スッ…と静かに障子戸が開く。


私は恐怖のあまり、ガタガタと震えながらギュッと目をつぶった。

そして次の瞬間、







原田「………名前?もう寝てんのか?」

名前「………さ、左之さんんんんんっ!!!(涙)」



大好きな、声が聞こえた。

正体が左之さんだとわかった瞬間、ガバッと起き上がる。



名前「……いや、ちょっと待って。左之さんに化けたあの人形とかじゃないよね?」

原田「そんなわけねえだろ」



呆れたように言う左之さん。

そ、そうだよね!さすがの人形も化けたりはしないよね!!

安心したせいか、私の瞳からはボロボロと涙が零れる。
ひいいい、怖かったああああああ!!



原田「お、おいおい、何泣いてんだ?」

名前「だ、だって怖かったんだもん!足音聞こえてきて、あの人形がまた来たんじゃないかと思って……」



グスンと鼻をすすれば、ふわりと左之さんのいい匂いが私を包んだ。

目の前には、鍛えられた大胸筋が。



原田「そりゃ、悪ぃことしちまったな。お前が眠れてねえんじゃねえかと思って様子を見に来たんだが……却って怖がらせちまったか。すまねえな」

名前「えっ………」



え、何なのこの人、神なの?

本当にこの人が私の彼氏?
いい男すぎて無理なんだけど、やばいんだけど!!



原田「………全部声に出てるぞ」

名前「!!!( ゚д゚)ハッ!!!!」



し、しまった!!!
ハッとして左之さんを見れば、めちゃくちゃ苦笑いしてた。

だってさあ!!こんないい男いないって普通!!!
そりゃ声に出したくもなるって!!!(開き直り)



原田「1人で寝れそうか?」

名前「無理です」

原田「即答かよ」



いやだって、この状況で1人で寝るのは自殺行為だってマジで。
もう無理だよ、恐怖で1人になんてなれないよ。

そんな事を思っていると、左之さんはゴロンとその場に横になった。



原田「んじゃ、今日は俺もここで寝ていいか?」

名前「どうぞどうぞ寝てください、何ならこの部屋に住んで」

原田「いや住むのはさすがに無理だけどよ…」



必死すぎるだろ、と苦笑いする左之さん。

もうこの際恥とか無いよ、うん。
だって怖いんだもん。

とりあえず今晩は左之さんが一緒に寝てくれることになったので、私は安心して布団に入った。

<< >>

目次
戻る
top
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -