鬼灯の冷徹 | ナノ


1


──── 三途の川、川原付近。

新卒である唐瓜と茄子は掃除をしていた。



茄子「おに〜のパ〜ンツはい〜いパ〜ンツ、つよ〜いぞ〜、つよ〜いぞ〜
トラ〜のけ〜がわ〜でできている、つよ〜いぞ〜、つよ〜いぞ〜」



地面を箒で掃きながら、何やら茄子は懐かしい歌を歌っている。

その後ろで唐瓜はせっせとゴミ拾いをしていた。



茄子「履こう、履こう鬼のパンツ!ねえ、唐瓜

唐瓜「ん?」

茄子「モラルって大事だよなぁ」

唐瓜「ん〜? あー、まぁ大事だなぁ。……って、え、何?」



ゴミ拾いをしていた唐瓜はようやく茄子の方に顔を向けた。

唐瓜は、いきなり何を言い出すんだとでも言いたげな顔である。



茄子「何ってパンツのことだよ。パンツを履くことはモラルの基本だろ? だから俺は、パンツをモラルと呼んでるんだ」

唐瓜「お前の話っていっつもよく見えねぇなぁ。いいか? お前にとっての常識はみんなの常識じゃないんだ」

茄子「あ、カニだ!」

唐瓜「っておい聞けよ! そうやってすぐ気移りする癖なんとかしろ! 」

茄子「ん?あぁ、ゴメンゴメン」



とはいえ、これは今に始まったことではない。
昔からこの友人は突飛というか、話が直ぐに移るのでついて行くのが大変なのだ。

唐瓜はため息をついた。



唐瓜「んで? パンツが何だって?」

茄子「え? あぁ、いや別に? ふとパンツって大事だなってさ」

唐瓜「混乱するから思ったこと何でもすぐ口に出すな!」

茄子「ゴメンゴメン。……なあなあ、鬼のパンツと言えば唐瓜は虎皮派? ポリエステル派?」

唐瓜「綿100%派。敏感肌なんだ、俺」

茄子「へぇ〜。どこのヤツ? ピーチ・〇ョン? チュチュ・〇ンナ?」

唐瓜「いや、普通のだけど……何でお前は現世の女性下着ブランドに詳しいわけ? 健全な男子には分かんねぇだろ? 分かんねぇはずだ!」

茄子「へ? だってこの前雑誌で特集してて……そういう唐瓜は何で知ってるのさ」

唐瓜「姉ちゃんが愛用してて、実家帰るとよく届いてんだよ」

茄子「へー」

唐瓜「それより、さっさと掃除終わらすぞ。ちんたらしてたら昼飯になっちまう」

茄子「ほ〜い」



唐瓜は半ば強制的に会話を終わらせ、彼はゴミ拾いに、茄子は掃き掃除に戻った。

しかしすぐに……。



「履こう、履こう、鬼のパンツ〜!」



掃除に集中できないらしく、続きを歌い始めた。

どうしても気になってしまい、唐瓜は再び手を止める。



唐瓜「ところでさぁ、その歌って何だろうな。趣旨がよく分かんねぇよな」

茄子「え? 鬼のパンツ製作会社の販促ソングじゃないの?」

鬼灯「違いますよ」

唐瓜・茄子「「!?」」



突如後ろから聞こえてきたバリトンボイスに、二人は肩を揺らして振り向いた。

いつの間にかそこには鬼灯の姿があり、いつも通り無表情でこちらへとやってくる。



鬼灯「さっきから内容が気になって聞いてしまいましたが、お喋りばかりしてないで、仕事して下さい」

茄子「すみません……」

唐瓜「あ、あの、ところで "違うというのはどういう……」

鬼灯「あぁ……あの歌はもともと南イタリアのカンツォーネで、日本語歌詞は後づけなんです。元は"フニクリ・フニクラ"」

茄子「あ、知ってる!」

鬼灯「"フニクリ・フニクラ"は掛け声です。登山鉄道のアピールソングだったらしいですよ」

唐瓜「なーんだ、地獄のオリジナルじゃなかったんだ」

茄子「鬼灯様は何でもよく知ってるなぁ」

鬼灯「ハイハイ、いいから、この先の賽の河原まで、しっかり大掃除して下さい」

唐瓜・茄子「「はーい!」」



唐瓜はゴミ拾いを、茄子は掃き掃除を再開した。



唐瓜「……しっかし、汚ねーなぁ」



そう呟き、唐瓜は鬼灯へと目を向ける。



鬼灯「六文銭が散らばってますね。まったく最近の亡者は……」

茄子「あっ、蛇だ! アレ三途之川の主だよな! すっげー!」



後ろの方から茄子の声が聞こえてきたが、唐瓜は軽く受け流す。



唐瓜「はいはい。……うお、時計も多い」

鬼灯「遺品でよく一緒に納骨しますからね」

唐瓜「なるほど……あと眼鏡も多いですね」

茄子「あっ、カニ食われた!」

唐瓜「はいはい。……うぉわっ、ずらっとズラだらけ……」

鬼灯「壮観ですね。店が開けそうな量です」

茄子「大丈夫かなぁ……」


<< >>

目次
戻る
top
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -