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──── 大会中の休憩時間。
2人は会話もなくベンチに座っていたが、沈黙に耐え切れなくなった白澤が口を開いた。
白澤「……賭けようか」
鬼灯「何をですか?」
白澤「次、そこから出てくる婦人の乳周りが二尺八寸以上か以下か。勝った方が夕餉をおごる」
鬼灯「くだらないことを考えますね……ま、いいですよ 」
白澤「僕は "以上" に賭ける」
鬼灯「では私は "以下" で」
すると、足音が聞こえてきた。
白澤「おおっ……!」
鬼灯「いや、まず女人かどうか……」
二人が食い入るように見つめる中、出てきたのは、スタッフ腕章をつけた日本の鬼。
しかし男とも女とも判断しづらい鬼だった。
鬼灯「おば……いえ、おじさんでしょうか……」
白澤「と、とりあえずアレは "以上" だろっ、僕の勝ち!」
すると、次にすらりとした細身の女人が出てきた。
鬼灯「いえ、待って下さい。今出てきたお嬢さんはおそらく"以下"ですよ? 先ほどの方が男性なら、私の勝ちです」
白澤「いいや認めないね! 女人の可能性がある限りダメ!」
鬼灯「あやふやな可能性は除外して、明らかな方を基準とするのも大事です。あなたも審判でしょう?」
白澤「な、何だよ腹立つ言い方だな! ぐちゃぐちゃ言い訳しやがってっ、この倭人!」
鬼灯「ゴリ押しする人ですね、この漢人!」
2人はお互いに睨み合い火花を散らせる。
すると、ちょうどそこを通りかかった閻魔が止めに入った。
閻魔「ちょっとちょっと。 親善大会でケンカしないでよ。ほら、2人とも似てるんだし、いい顔して〜!」
言いながら、閻魔大王は2人の頭をぽんぽんと撫でる。
閻魔「は〜い、笑って〜?」
その瞬間、2人は青筋を浮かべて勢い良く振り向き、閻魔大王の胸の辺りを指で突いた。
──── ズダダダダダダダッ!
閻魔「あべしっ!!」
閻魔「そのとき受けた傷がこれってわけ……」
そう言って見せてくれたのは、閻魔の胸元に残る七つの傷跡。
名前「うわあ、くっきり……」
桃太郎「いい塩梅に……」
閻魔「元々合わなくてピリピリしてたから、あの賭けで爆発しちゃったみたい」
なんともくだらない起爆剤である。
鬼灯「いや、あの時は私もどうかしていたのです。あんな賭け。でも譲りません。あれは私の勝ちです」
閻魔「もういいじゃん!そこは!」
桃太郎「あ、あの〜、スタッフ腕章着けた日本の鬼だったんですよね? 頑張れば特定できると思うんですけど……」
名前「そうか、そうだよね!あの時の名簿くらいならあるかも」
閻魔「その人には失礼だけど、この際ハッキリさせて仲直りしたら?」
……というわけで。
千年前の記録を漁り、見つけた獄卒の元を訪ねた。
「え、あたし? ニューハーフだけど……どこもいじってないわよ?」
全員「「「「…………」」」」
その答えに鬼灯は数秒間固まっていたが、その後爆速で電話を掛けた。
相手はもちろん決まっている。
鬼灯「体が男性なら、胸囲は男性とみなします!」
白澤《いーや! 心が女性なら、僕は女性だと思うね!》
それを皮切りに始まった論争。
どちらも譲らず言い合いが続いており、終わる気配がない。
桃太郎「あの〜、俺、帰りますね……」
閻魔「あぁー、うん、ご苦労様」
名前「なんかごめんね……桃太郎、気をつけてね」
桃太郎を見送った閻魔と名前は、いつも通り口喧嘩を繰り広げる鬼灯と白澤の様子を見て、思わずため息をつくのだった。
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