鬼灯の冷徹 | ナノ


2

──── 大会中の休憩時間。

2人は会話もなくベンチに座っていたが、沈黙に耐え切れなくなった白澤が口を開いた。


白澤「……賭けようか」

鬼灯「何をですか?」

白澤「次、そこから出てくる婦人の乳周りが二尺八寸以上か以下か。勝った方が夕餉をおごる」

鬼灯「くだらないことを考えますね……ま、いいですよ 」

白澤「僕は "以上" に賭ける」

鬼灯「では私は "以下" で」



すると、足音が聞こえてきた。



白澤「おおっ……!」

鬼灯「いや、まず女人かどうか……」



二人が食い入るように見つめる中、出てきたのは、スタッフ腕章をつけた日本の鬼。

しかし男とも女とも判断しづらい鬼だった。



鬼灯「おば……いえ、おじさんでしょうか……」

白澤「と、とりあえずアレは "以上" だろっ、僕の勝ち!」



すると、次にすらりとした細身の女人が出てきた。



鬼灯「いえ、待って下さい。今出てきたお嬢さんはおそらく"以下"ですよ? 先ほどの方が男性なら、私の勝ちです」

白澤「いいや認めないね! 女人の可能性がある限りダメ!」

鬼灯「あやふやな可能性は除外して、明らかな方を基準とするのも大事です。あなたも審判でしょう?」

白澤「な、何だよ腹立つ言い方だな! ぐちゃぐちゃ言い訳しやがってっ、この倭人!」

鬼灯「ゴリ押しする人ですね、この漢人!」



2人はお互いに睨み合い火花を散らせる。

すると、ちょうどそこを通りかかった閻魔が止めに入った。



閻魔「ちょっとちょっと。 親善大会でケンカしないでよ。ほら、2人とも似てるんだし、いい顔して〜!」



言いながら、閻魔大王は2人の頭をぽんぽんと撫でる。



閻魔「は〜い、笑って〜?」



その瞬間、2人は青筋を浮かべて勢い良く振り向き、閻魔大王の胸の辺りを指で突いた。

──── ズダダダダダダダッ!



閻魔「あべしっ!!」









閻魔「そのとき受けた傷がこれってわけ……」



そう言って見せてくれたのは、閻魔の胸元に残る七つの傷跡。



名前「うわあ、くっきり……」

桃太郎「いい塩梅に……」

閻魔「元々合わなくてピリピリしてたから、あの賭けで爆発しちゃったみたい」



なんともくだらない起爆剤である。



鬼灯「いや、あの時は私もどうかしていたのです。あんな賭け。でも譲りません。あれは私の勝ちです」

閻魔「もういいじゃん!そこは!」

桃太郎「あ、あの〜、スタッフ腕章着けた日本の鬼だったんですよね? 頑張れば特定できると思うんですけど……」

名前「そうか、そうだよね!あの時の名簿くらいならあるかも」

閻魔「その人には失礼だけど、この際ハッキリさせて仲直りしたら?」



……というわけで。

千年前の記録を漁り、見つけた獄卒の元を訪ねた。



「え、あたし? ニューハーフだけど……どこもいじってないわよ?」

全員「「「「…………」」」」



その答えに鬼灯は数秒間固まっていたが、その後爆速で電話を掛けた。

相手はもちろん決まっている。



鬼灯「体が男性なら、胸囲は男性とみなします!」

白澤《いーや! 心が女性なら、僕は女性だと思うね!》



それを皮切りに始まった論争。

どちらも譲らず言い合いが続いており、終わる気配がない。



桃太郎「あの〜、俺、帰りますね……」

閻魔「あぁー、うん、ご苦労様」

名前「なんかごめんね……桃太郎、気をつけてね」



桃太郎を見送った閻魔と名前は、いつも通り口喧嘩を繰り広げる鬼灯と白澤の様子を見て、思わずため息をつくのだった。

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