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シロ「……あ、そうだ!不喜処地獄の御局様と先輩の結婚祝いに仙桃をあげたいんだけど、貰ってもいい?」
白澤「いいよ!桃には邪気を払って不老長寿を与える力があるって言われてるんだ。お祝い事には最高だね。桃タロー君は、桃を食べたお爺さんとお婆さんがハッスルして出来た子供なんでしょう?」
桃太郎「違います!!」
真っ赤になる桃太郎に、白澤はニヤニヤ顔だ。
自分の親のそういう事情は正直聞きたくないものである。
鬼灯「それより、注文していた金丹は?」
白澤「あぁハイハイ、それはきっちり本物を…」
鬼灯「偽物があるのが前提ですか」
白澤「100円ショップに売ってるトラベル中国語会話にすら、『這是真的?(これは本物ですか?)』っていう例文が載ってるくらいだからねえ」
名前「大事な文章なんでしょうね……」
その会話を聞いていた桃太郎が首をかしげて訊く。
桃太郎「あの、金丹って何ですか?」
鬼灯「中国の妙薬ですよ」
白澤がポケットから金丹を取り出した。
白澤「コレだよ」
桃太郎「うわぁ、宝石みたいっすねぇ」
白澤「すっごく貴重なんだよ? 医療研究の一環じゃなきゃ、こんなヤローに渡したくないんだけどさ」
すると、その様子を見ていた鬼灯がつかつかと白澤に歩み寄った。
白澤「な、何だよ……」
明らかに動揺している白澤の手に、鬼灯は自分の手を重ねた。
白澤「え、ちょ……何?気持ち悪い……」
鬼灯「バルス!!!」
──── バギイィッ!!!
白澤「ギャーーーッ!!手が!!手がァーーーッ!!」
鬼灯は滅びの呪文と共に、白澤の手を関節と逆方向に曲げて粉砕した。
白澤の手はあらぬ方向に曲がってしまっている。
白澤「それは何か!?"滅びよ"ってことかオイ!!お前はジ〇リマニアか!!これだからコイツは嫌なんだよ、人でなし!!」
鬼灯「人でもないですよ」
白澤「この手は男の硬い手じゃなくて、女の子の柔らかい手を握るためにあるんだ!名前ちゃんみたいな、ね?」
名前「……悪寒がした。ちょっと凍っててもらえますか」
白澤「名前ちゃんどうしちゃったの!?昔はこんなダイレクトな物言いする子じゃなかったよ、とんだ悪影響与えてんじゃねえか常闇鬼神!!」
鬼灯「素晴らしい。もっと言ってやりなさい、名前さん」
背負った大太刀の柄に手をかけている名前と、ショックを受けている様子の白澤。
そしてそれを見て拍手をしている鬼灯。
なんだか異様な光景である。
鬼灯「……忠告しても無駄でしょうが、貴方いつか奈落へ落ちますよ」
白澤「それより、金丹の代金5000元。くふふっ、10万円でいいよ〜」
鬼灯「金額盛ってんじゃねぇぞ白豚……あぁ、あとついでに高麗人参もください」
白澤「それはあっち、採ってくる〜。名前ちゃん、寂しいだろうけどちょっとだけ待っててね」
ツッコむのも面倒なのか、名前は何も言わずに大きな溜息を履いた。
るんるんと浮き足立った足取りで、畑の方へと向かう白澤。
その様子を見て、桃太郎はハッとした。
桃太郎「あ、雑用なら俺が、」
鬼灯「良いのです。あれに採りに行かせなさい」
白澤を追いかけようとした桃太郎を鬼灯は制した。
そして白澤に向かって声を張り上げる。
鬼灯「白澤さん、一つ言います。由緒ある神獣でもバチは当たりますよ」
白澤「当たらないも〜ん。むしろお前に当たれ」
白澤がいつものように軽口を返した、その時だった。
──── ベキッ……
白澤「ん?」
普段聞きなれない音と地面が沈むような感覚に、白澤は自分の足元を見る。
──── メキメキッ……
ズボッ!!
白澤「ギャーーーッ!!?」
突然、白澤が目の前から消えた。
悲鳴は聞こえるが、その声はどんどん遠ざかっていく。
やがて、
白澤「ボケナス!!!」
という声が、随分遠くから聞こえてきた。
どうやら白澤は、かなり大規模な落とし穴に落ちてしまったらしい。
鬼灯「これが本当の奈落の底……人がゴミのようだ!!」
白澤「うるせえジ〇リマニア!!」
それから約1分後……
白澤「イテテ……昨日までこんな穴なかったのに……何コレ怖っ」
穴から、ボロボロになった白澤が這い上がってきた。
桃太郎「(さすが神獣……どうやって上がってきたんだろう)」
鬼灯「私自らが不眠で6時間かけて掘りました」
名前「まさかの三徹の原因の1つ!!?」
名前が目を白黒させている横で、鬼灯はぽんぽんとスコップを手の平に打ちつけていた。
鬼灯「落ちたことを誇りに思え」
白澤「仕事しろよ、馬鹿じゃないのか!!?」
……こればっかりは、白澤の方が正論かもしれない。
鬼灯「貴方が人間ならとっくに大量受苦悩処地獄へ堕ちているでしょう。いやぁ、徹夜した甲斐がありました」
白澤「薬代払って、とっとと地獄に帰れ!!名前ちゃんを置いて!!」
名前・鬼灯「「なんでだよ」」
……性根の似たもの同士とは、意外にも仲は悪いものである。
鬼灯達はその後、名前にベタベタと引っ付いてくる白澤を引き剥がしながら、何とか地獄へ戻ったのだった。
シロは無事、結婚祝いの仙桃をを渡せたそうである。
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