鬼灯の冷徹 | ナノ


3

──── 一方、桃源郷の仙桃農園。



桃太郎「あぁ、天職が見つかるって素晴らしいなぁ……俺、今まで何であんなに愚かだったんだろう。心なしか、あの頃よりイケメンになった気がする……」



桃太郎は一人、せっせと仙桃を収穫していた。



桃太郎「わざわざ無駄な喧嘩ふっかけて、イタい奴だったよなぁ俺……」



天職に巡り会えたためか、以前よりも生き生きとしている桃太郎。

カゴいっぱいまで仙桃を収穫すると、店へと戻っていく。



桃太郎「白澤様〜、仙桃の収穫終わりまs」

「ホォァチョオオォォッ!」


──── ビュンッ
ドスッ……



店の戸を開けた瞬間、白澤が飛んできて桃太郎に衝突し、見事に2人は吹っ飛んだ。

桃太郎が顔を上げれば、女性が「クソが!」という捨て台詞を吐いて店を出ていった。



白澤「……イヤ、ホント、怖いよね、女の子って」

桃太郎「えーと……とりあえず、シャチホコみたいになってますよ? 白澤様」

白澤「ははは……」



軽く苦笑いしてから、白澤はくるりと身を起こした。



白澤「あ、仙桃穫ってきてくれた? 謝謝、ありがとね」

桃太郎「はい……俺がここへ来てから実に8人目の女性を見た気が……」

白澤「違うよ、厳密に言うと9人だよ」

桃太郎「……」

白澤「おかしいよねぇ。兎は年中発情しても誰も怒らないのに、僕だと女の子が怒るんだ」

桃太郎「いや、1つもおかしくないです……」



放つ言葉の一つ一つに女癖の悪さが見られ、桃太郎は白い目で自分の師匠を見つめた。

万物を知るという物凄い神獣なのに、なんて残念な人なのだろう……。



白澤「ところで、さっきはゴメンね。怪我は?」

桃太郎「いえ、大丈夫です。すみません」



白澤は桃太郎の服のホコリを払ってやる。

そこで、桃太郎の三角巾についている葉っぱに目が留まり、手に取った。



白澤「この葉っぱ、何だか分かる?」

桃太郎「え、何だろ……あ、ホオズキ?」

白澤「そう、鬼の灯りと書いて鬼灯。鬼は中国語で幽霊だから、亡者が持つ赤い提灯ってこと。根っこは生薬で、主に鎮咳剤や利尿剤として用いられる。それに、わずかだけど毒も入ってるし。昔、遊女が堕胎薬として服用していたこともある。妊婦さんは食べちゃダメ」

鬼灯「その通り。アルカロイド及びヒストニンを含みますので、流産の恐れがあります」

白澤「そうそう。……って、」



後ろから聞こえてきたバリトンボイスに、白澤は青ざめた。



鬼灯「もっとも貴方は、たらふく食って内臓出るくらい腹下せばよいのです」

白澤「伏せろ!コイツは猛毒だ!!」

桃太郎「あ、鬼灯さん!名前も!」



白澤は物凄い形相で叫ぶが、それとは対照的に桃太郎はキョトンとしている。

しかし名前が視界に入った瞬間、白澤の表情は一変した。



白澤「名前ちゃん!来てくれたんだね、すっごく嬉しいよ!!」

名前「こんにちは、お師匠様」

白澤「ねぇねぇ、来てくれたってことはこの後時間あるってことだよね!?僕の部屋でゆっくりお話でm」



──── ズドオオオンッ

……突然、白澤が金棒によって地面に埋まった。



鬼灯「私の部下を公然と口説かないでいただけますかね」

名前「うわあ、リアルモグラ叩き……」



勿論、鬼灯の仕業である。



白澤「何すんだよこの朴念仁!!」

鬼灯「部下を守るのは上司の役目です、この淫獣が」

白澤「だったら僕はこの子の師匠だもんねー!」

鬼灯「名前さん、この男を師匠と呼ぶのは今すぐ止めなさい」



顔を合わせれば必ず喧嘩をする2人。

2人の間に挟まれた名前は、またか、と小さく溜息を吐いている。



シロ「桃太郎、遊びに来たよ! ワンワン!」

桃太郎「おーっ、シロっ、柿助っ、ルリオ!」

柿助「元気? 桃太郎」

桃太郎「元気元気!何だお前ら、少しデブったんじゃねぇのか?」



一方こちらはかなり平和そうである。

殺伐とした空気の隣では穏やかな空気が流れているという、なんとも不思議な空間が出来上がった。



シロ「お仕事順調?」

桃太郎「順調順調! それに俺、薬についても学んでるんだ。今の時代、手に職かなって。不況にも強き資格と専門技能!」

シロ「大人になったね、桃太郎」

桃太郎「この漢方の権威、中国神獣の白澤様に教わってるんだ」

白澤「好、清多關照(こんにちは、よろしくね)」



白澤は、即座に鬼灯との睨み合いをやめて、桃太郎ブラザーズに向かって笑顔で手を振った。

切り替えの速さはさすがである。



桃太郎「白澤様は凄いんだぜ? 知らない薬はないんじゃないかな」

シロ「へぇ〜!」

桃太郎「俺いつか、自分印の薬作るんだ〜!」

白澤「桃太郎印のきびだんご?」

鬼灯「それ、既に動物を服従させる未来道具としてありますね」

名前「そ、そう言われてみれば……!」



頭に思い浮かぶのは青色のネコ型ロボットである。



鬼灯「……あんな物なくても、調教すればいい」

白澤「お前はな!!」



せっかく止まったと思った喧嘩が再び始まりかけている。

その様子を見た桃太郎は、首を傾げていた。



桃太郎「……あの、前から思っていたのですが、お二人は親戚か何かで……?」

鬼灯「違います」



桃太郎の質問に、心底嫌そうな顔で答えたのは鬼灯である。



鬼灯「ただの知人です。お互い東洋医学の研究をしていましてね」

白澤「そ。いろいろ付き合いがねぇ……」



2人は鏡合わせのように睨み合っている。



鬼灯「ですが極力会いません」

桃太郎「え、なんで……?」

鬼灯「まあ一言で言うと、コイツが大嫌いなんです」

白澤「僕もお前なんか大っ嫌いだよ!」



そう言い返す白澤は、天国の神獣とは思えないほどの形相だ。



白澤「大体、僕は吉兆の印だよ? こんな常闇の鬼神と親戚だったら信用ガタ落ちだよ」

桃太郎「は、はぁ……」

鬼灯「いいですか桃太郎さん。コイツの脳味噌は信用してもいいですが、口は信用してはなりませんよ」

白澤「よぉ兄ちゃん、何も言わずにコレ飲んでくれん? なぁ」



鬼灯の手は、もの凄い力で白澤の頬をつねっている。
対して白澤の手には、いかにも怪しげな毒の瓶が握られていた。

なんというか、ある意味似たもの同士である。


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