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──── 名前が目を覚ますのは、それから5時間後であった。
シロ「イヤーーーーーーーッ!!!!」
名前「ひいぃっ!!?」
突然耳をつんざくような悲鳴が響き渡り、名前は飛び起きた。
寝惚けた頭で何事かと周りを見れば、隣には既に体を起こしている鬼灯。
そしてベッドの脇には、いつの間にやって来たのか桃太郎ブラザーズがいた。
さっきの悲鳴は確実にシロのものだろう。
シロは、恐怖映像を見るかのように目を見開いて名前を見ていた。
シロ「お、お、俺以外に……白い犬がいる!!鬼灯様が、俺以外の犬と寝てるうううう!!!」
うわああああ!とまるで子供のように泣き出すシロ。
未だに状況を飲み込めていない名前の頭には、?マークがいくつも浮かんでいた。
そんな名前とシロを、ぽんぽんと撫でる鬼灯。
鬼灯「シロさん、落ち着いてください。まず、この子は犬ではないですよ、狼です」
シロ「え……?」
鬼灯「そしてこの狼は名前さんですよ」
シロ・柿助・ルリオ「「「え」」」
目を点にして、ベッドの上の狼を見る桃太郎ブラザーズ。
そういえば狼姿のままだったと思い出し、名前はボフンッと人間の姿に戻った。
渦巻く白い煙が消えた頃、ベッドにちょこんと座っているのはいつもの人の姿の名前である。
シロ「……ええええええええーーーーーーっ!!!」
再び、シロの大きな叫び声が部屋中に響き渡ったのであった……。
──── その数時間後、名前と鬼灯は桃太郎ブラザーズを連れて、桃源郷を訪れていた。
シロたちが鬼灯の部屋を訪れていたのは、夜叉一とクッキーの結婚祝いに仙桃をあげたかったかららしい。
そこで鬼灯と名前は三匹を連れて、あの世絶景百選である桃源郷に来たのである。
元々鬼灯も桃源郷に用事があって、今日か明日に訪れる予定だったそうだ。
テクテクと歩きながら、シロは鬼灯と名前を見上げた。
シロ「そういえば、なんで鬼灯様は名前ちゃんと寝てたの?」
名前「……なんか紛らわしいから止めてね、その言い方……」
シロ「うぇ?」
シロは名前の言ったことの意味がわかっていない様子だ。
柿助とルリオには伝わったのか、二匹は若干苦笑いしている。
シロの質問には、鬼灯が淡々としながら答えた。
鬼灯「名前さんにはいつも、狼の姿になってもらってもふもふさせてもらっていたんですよ」
シロ「え、そうなの!?」
鬼灯「ええ。ここ数日はできていなかったので、もふもふさせてもらっていたらそのまま寝てしまったようで……」
名前「(……それにしてはだいぶ強引だったような……)」
先程のことを思い出して、名前は顔から火が出そうになった。
どうやら鬼灯は、先程のことをあまり覚えていないようなのである。
シロ「なあんだ、そうだったんだ」
柿助・ルリオ「「(……いや、それはそれである意味拙いような……)」」
狼を抱き枕にしていたとはいえ、その狼は名前である。
ある意味危ない光景だ、と柿助とルリオは同時に思った。
話しながら歩くうち、一行は少し小高い丘の上にやってくる。
眼下の絶景に、三匹が目を輝かせた。
柿助「わぁ! さすが観光名所!」
ルリオ「建物は中華風だな…」
鬼灯「ここは日本と中国の境にあるので、双方の交易の場にもなっています」
シロ「あ、そうなんだ!じゃあ小籠包食べ放題?」
鬼灯「……何で中国=小籠包食べ放題になるんですか」
名前「た、確かに中華街とかは小籠包のお店多いよね……」
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