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──── 三途の川、川原付近。
新卒である唐瓜と茄子は掃除をしていた。
茄子「おに〜のパ〜ンツはい〜いパ〜ンツ、つよ〜いぞ〜、つよ〜いぞ〜
トラ〜のけ〜がわ〜でできている、つよ〜いぞ〜、つよ〜いぞ〜」
地面を箒で掃きながら、何やら茄子は懐かしい歌を歌っている。
その後ろで唐瓜はせっせとゴミ拾いをしていた。
茄子「履こう、履こう鬼のパンツ!ねえ、唐瓜」
唐瓜「ん?」
茄子「モラルって大事だよなぁ」
唐瓜「ん〜? あー、まぁ大事だなぁ。……って、え、何?」
ゴミ拾いをしていた唐瓜はようやく茄子の方に顔を向けた。
唐瓜は、いきなり何を言い出すんだとでも言いたげな顔である。
茄子「何ってパンツのことだよ。パンツを履くことはモラルの基本だろ? だから俺は、パンツをモラルと呼んでるんだ」
唐瓜「お前の話っていっつもよく見えねぇなぁ。いいか? お前にとっての常識はみんなの常識じゃないんだ」
茄子「あ、カニだ!」
唐瓜「っておい聞けよ! そうやってすぐ気移りする癖なんとかしろ! 」
茄子「ん?あぁ、ゴメンゴメン」
とはいえ、これは今に始まったことではない。
昔からこの友人は突飛というか、話が直ぐに移るのでついて行くのが大変なのだ。
唐瓜はため息をついた。
唐瓜「んで? パンツが何だって?」
茄子「え? あぁ、いや別に? ふとパンツって大事だなってさ」
唐瓜「混乱するから思ったこと何でもすぐ口に出すな!」
茄子「ゴメンゴメン。……なあなあ、鬼のパンツと言えば唐瓜は虎皮派? ポリエステル派?」
唐瓜「綿100%派。敏感肌なんだ、俺」
茄子「へぇ〜。どこのヤツ? ピーチ・〇ョン? チュチュ・〇ンナ?」
唐瓜「いや、普通のだけど……何でお前は現世の女性下着ブランドに詳しいわけ? 健全な男子には分かんねぇだろ? 分かんねぇはずだ!」
茄子「へ? だってこの前雑誌で特集してて……そういう唐瓜は何で知ってるのさ」
唐瓜「姉ちゃんが愛用してて、実家帰るとよく届いてんだよ」
茄子「へー」
唐瓜「それより、さっさと掃除終わらすぞ。ちんたらしてたら昼飯になっちまう」
茄子「ほ〜い」
唐瓜は半ば強制的に会話を終わらせ、彼はゴミ拾いに、茄子は掃き掃除に戻った。
しかしすぐに……。
「履こう、履こう、鬼のパンツ〜!」
掃除に集中できないらしく、続きを歌い始めた。
どうしても気になってしまい、唐瓜は再び手を止める。
唐瓜「ところでさぁ、その歌って何だろうな。趣旨がよく分かんねぇよな」
茄子「え? 鬼のパンツ製作会社の販促ソングじゃないの?」
鬼灯「違いますよ」
唐瓜・茄子「「!?」」
突如後ろから聞こえてきたバリトンボイスに、二人は肩を揺らして振り向いた。
いつの間にかそこには鬼灯の姿があり、いつも通り無表情でこちらへとやってくる。
鬼灯「さっきから内容が気になって聞いてしまいましたが、お喋りばかりしてないで、仕事して下さい」
茄子「すみません……」
唐瓜「あ、あの、ところで "違うというのはどういう……」
鬼灯「あぁ……あの歌はもともと南イタリアのカンツォーネで、日本語歌詞は後づけなんです。元は"フニクリ・フニクラ"」
茄子「あ、知ってる!」
鬼灯「"フニクリ・フニクラ"は掛け声です。登山鉄道のアピールソングだったらしいですよ」
唐瓜「なーんだ、地獄のオリジナルじゃなかったんだ」
茄子「鬼灯様は何でもよく知ってるなぁ」
鬼灯「ハイハイ、いいから、この先の賽の河原まで、しっかり大掃除して下さい」
唐瓜・茄子「「はーい!」」
唐瓜はゴミ拾いを、茄子は掃き掃除を再開した。
唐瓜「……しっかし、汚ねーなぁ」
そう呟き、唐瓜は鬼灯へと目を向ける。
鬼灯「六文銭が散らばってますね。まったく最近の亡者は……」
茄子「あっ、蛇だ! アレ三途之川の主だよな! すっげー!」
後ろの方から茄子の声が聞こえてきたが、唐瓜は軽く受け流す。
唐瓜「はいはい。……うお、時計も多い」
鬼灯「遺品でよく一緒に納骨しますからね」
唐瓜「なるほど……あと眼鏡も多いですね」
茄子「あっ、カニ食われた!」
唐瓜「はいはい。……うぉわっ、ずらっとズラだらけ……」
鬼灯「壮観ですね。店が開けそうな量です」
茄子「大丈夫かなぁ……」
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