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犬「う〜……自信ないなぁ」
桃太郎「シロ! とりあえず何か挑発しとけ!」
シロ「え〜?ん〜と……か、亀みたいなつり目!」
鬼灯「ソフトバ〇クのお父さん!」
懸命に絞り出した罵倒だったのだろうが、それを鬼灯は軽く跳ね返してしまった。
シロと呼ばれた犬は深手のダメージを負ったらしく、バタンと倒れる。
シロ「ぐはっ……それだけは言われたくなかった……でも上戸彩なら娘に欲しい……」
名前「わかる」
鬼灯「なんで貴方が共感してるんですか。それどころか、もうお嫁に行かれましたけど?」
シロ「ぬぁっ!?」
チーーーン……。
シロ、撃沈。
桃太郎「うわああっ、シロぉぉぉ!」
猿「くっ、今のはひどい!」
雉「おのれっ、負け犬シロの仇、我らが!」
シロ「……負け犬言うな……」
というわけで、次に出てきたのは猿だ。
柿助「ウキーッ! チームのブレーン、柿助!」
鬼灯「柿助……? あぁ、あなた、確か600年前にカニの御一家から傷害罪で訴えられてますよね? 謝りましたか?」
柿助「ひぅ……っ」
桃太郎「お、おいどうした? 柿助?」
柿助「か、過去の過ちは許してくれ……」
チーーーン……。
此方も早々に撃沈である。
ルリオ「おのれ!ロケットランチャー、雉のルリオ!」
次に出てきたのは雉だ。
しかし……。
鬼灯「あなたは……そうですね、思ったよりデカイ鳥だなぁと思った以外、特にありません」
ルリオ「ぐあっ……雉って……」
チーーーン……。
三匹は揃って、為す術なくその場に倒れた。
桃太郎が青ざめて駆け寄る。
桃太郎「うわああぁぁぁ同志いいぃぃっ!」
ルリオ「……桃太郎よぉ、やっぱり鬼は強ぇよ」
シロ「ムダな喧嘩は売るもんじゃないね……」
完全に心を折られた三匹を見て、桃太郎は刀を握った。
桃太郎「おのれ鬼めっ、所詮は血も涙もない奴よ! いざっ、桃太郎の剣術、受けてみよ!」
どうやら、本気で鬼灯や名前とやり合うつもりになったようだ。
ピンと張り詰めた空気を察知し、名前は小声で鬼灯に声をかける。
名前「……鬼灯様、どうします?凍らせましょうか」
鬼灯「いえ、いりませんよ。貴方は下がっていてください」
名前「……そうですか?わかりました」
背負っている大太刀の柄に右手をかけた名前だったが、鬼灯に止められるとすぐに手を引いて1歩下がった。
それと同時に金棒を構える鬼灯。
暫く2人はそれぞれの武器を構えたまま対峙していたが……。
──── シュッ……
パキンッ
ガゴン!!!
桃太郎「いやあああああああ!!?」
鬼灯が一振した金棒により、桃太郎の刀はあっという間に折れてしまっていた。
折れた鋒は勢いよく近くの岩に突き刺さった。
これには桃太郎も真っ青である。
まるで蛇VS蛙の試合を見ているようで、名前は小さく溜息を吐いた。
鬼灯「……なんで鬼ヶ島で勝てたんでしょう、この人」
シロ「いや〜正直、あの時は鬼もベロッベロに酔ってて……」
桃太郎「こらシロ! バラすな!」
柿助「若さと勢いと、ビギナーズラックだよな」
桃太郎「柿助までっ」
名前「あの有名な物語にそんな裏事情が!?」
シロと柿助の言葉に若干ショックを受けているのは名前である。
シロ「そりゃあ村のみんなは喜んでくれたし俺たちも誇らしかったけど……」
ルリオ「そのあと自惚れちゃったよな」
桃太郎「ルリオもかよっ!」
桃太郎が悔しげに唇を噛んだ、その時である。
──── パンッ……
桃太郎「ふがっ!?」
突然、鬼灯の強烈な平手打ちが桃太郎の頬に炸裂した。
殴られた桃太郎は、唖然とした顔で鬼灯を見つめていた。
鬼灯「あなた、せっかく英雄として生きたというのに、死後こんなことしてて情けなくないんですか」
桃太郎「何をっ……」
桃太郎を見下ろして説教をする鬼灯。
すると、シロの声も加わった。
シロ「そうだよ桃太郎」
桃太郎「シロ……」
シロ「もうやめようよ。プライド守るのに、必死だったんでしょ?」
それに続いてルリオも諭し始める。
ルリオ「桃太郎、俺も色々言ったけど、本当はアンタが好きだから一緒にいるんだ。……でもな、過去の栄光にいつまでもすがってちゃさァ、ダメなんだよ。桃太郎だから鬼に固執するなんて間違ってる」
桃太郎「お、お前たちっ……」
涙を流し始める桃太郎。
これが600年続く友情か、と名前が感心していると。
鬼灯「あの、よければ犬、猿、雉さんは、不喜処地獄へ就職しませんか?」
シロ・柿助・ルリオ「「「えっ!?」」」
感動的なムードが漂っていたにもかかわらず、それをぶち壊して鬼灯が雇用契約書を三匹に差し出した。
鬼灯「最初は契約社員、三ヶ月後には正社員で」
シロ・柿助・ルリオ「「「いいんですか!?」」」
桃太郎「おいコラーっ!」
先程までの友情は何だったのか。
光の速さで切り捨てられた桃太郎は激高している。
するとシロを撫でながら鬼灯は桃太郎の方を見た。
鬼灯「貴方にも、ぜひ就職して頂きたい就職口があります」
桃太郎「……へ?」
名前「……あ、そうか!桃源郷ですね!」
鬼灯「ええ」
桃太郎「え?え?」
──── こうしてシロ・柿助・ルリオの三匹は不喜処への就職が決まり、桃太郎は天国からの人材貸し出し要請に派遣されることになった。
桃太郎一味との揉め事を大きくせず、尚且つ不喜処の従業員不足や天国への人材派遣問題も見事に解決したのである。
鬼灯「……?閻魔大王」
閻魔「ん?なあに、鬼灯君」
鬼灯「名前さんは何処です?」
桃太郎に天国の『うさぎ漢方 極楽満月』への紹介状と地図を渡し、さらにその後はシロ達を不喜処へ案内して、ようやくひと仕事を終えた鬼灯。
法廷に戻ってくると、いつの間にか居なくなっていた部下の少女の姿を探し、鬼灯は閻魔に尋ねた。
閻魔はいつものようなおとぼけ顔をした後、「ああ、そういえば」と思い出したように口を開く。
閻魔「桃太郎君を極楽満月に案内するって、結構前に一緒に行っt」
──── ズガアアアンッ!!
閻魔「ぎゃああああっ!!」
轟音が響くとともに、閻魔の姿が椅子の上から消えた。
代わりに、金棒と一緒に壁にめり込んでいる巨体が。
鬼灯「何考えてるんですか貴方は!!あれほど名前さんだけで彼処に行かせるなと言ったでしょうが!!!」
閻魔「え、えええ!?い、いや、桃太郎君もいるから、1人じゃないと思って、うぐっ……」
鬼灯「どこまで馬鹿なんですか貴方は!!」
閻魔「ちょ、鬼灯君、苦しい……お腹、お腹に金棒刺さってる……!」
鬼灯は無慈悲にも閻魔には見向きもせず、金棒を引き抜くと物凄いスピードで法廷を去って行ったのである。
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