ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


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─── それは、合宿まで残り1週間となったある日のこと。


澤村「 ─── よし!明日は7時から朝練だからな!解散!」

全員「「「オーッス!!」」」


いつものように澤村の号令で、練習が終わった。
名前も部員に混じって片付けを始める。
しかし名前が部員達のボトルを回収していると、「すんません、ちょっといいっスか!!」と西谷が声を上げた。


西谷「例のブツができたんで、みんなちょっと残ってもらっていいっスか?」

菅原「あー、あのTシャツな!」


"例のブツ" とは、とボトルを抱えたまま首を傾げた名前。
しかし菅原の言葉で、「ああ、去年もやったアレか」と納得する。


日向「何のTシャツですか?」

菅原「西谷御用達の店で、Tシャツに四字熟語とか好きな字を入れてくれるサービスやってんだよ」

日向「へえー!」

西谷「もちろんお前ら1年の分もあるからな!」

日向「やったぁ!!」


目をキラキラと輝かせて飛び跳ねる日向。

その一方で、名前はふと考える。
去年も四字熟語Tシャツをみんなで作ったのだが、その時は何の字がいいか聞かれたはず。
しかし、今回名前は何も聞かれていない。

……それなのに全員分あるということは、つまり。


月島「……何か嫌な予感がするんですけど」

名前「……奇遇だなツッキー、私もだよ」

月島「いい加減その呼び方やめてください」

澤村「まあ安かったし、体育館の中で着とけばそう問題もないだろ」

名前「問題はそこじゃないんです、大地さん……」


名前の頭にあるのは、西谷のセンスのことである。
お世辞にも良いとは言えない彼のセンスで選ばれたであろう四字熟語のTシャツ……嫌な予感しかない。


月島「そもそも僕、注文してないんですけど」

名前「同じく」

田中「なァに言ってやがる!なんと今回は、Tシャツ代と四字熟語のプリント代込み込みで500円ポッキリ!持ってけ泥棒!」


やはり、1年生と名前の分は勝手に作られてしまったようだ。
なんだか頭が痛くなってきた名前。

その間にもTシャツお披露目会が始まり、まずは最初に西谷と田中がTシャツを着用する。
西谷のTシャツには "猪突猛進"、田中のTシャツには "弱肉強食" という文字がデカデカと書かれていた。
確かに2人のイメージには合っているものの、自分が着るというのになぜその四字熟語にしたのか……。


月島「……両方とも普通あんまり良い意味じゃ使わないですよね?」

菅原「まあ、そうかもな」

西谷「マジすか!?猪のように脇目も振らず猛然と突き進むって、超ポジティブじゃないですか!?」

菅原「んー、世間的には周りをよく見てから進んだ方が良いってことになってるから……」

西谷「まずはがむしゃらに進む!考えるのは後からでいいじゃないですか!」

日向「かっけえ!!」

菅原「確かに西谷に言われるとなんだかカッコよく思えてくるから不思議だよなぁ」

名前「ノヤのポジティブパワー強すぎる」


菅原の言う通り、西谷が言うと猪突猛進が良い意味に聞こえてくるから不思議である。
ちなみに田中はなぜ弱肉強食なのかと山口が尋ねると……。


田中「強きが食い、弱きがその肉となる!そんな生きるか死ぬかの世界なんて、スゲェ男らしいじゃねえか!ハードボイルドっつうか!」


……とのことであった。

そして1年生にもTシャツが配られた。
日向は "大器晩成" だが、"成" の字が一角足りていない。
「"成る" に成ってない的な(笑)」と月島が鼻で笑っている。
しかしそんな月島のTシャツには "草食動物" 、山口のTシャツには "軟体動物" と書かれている。
これは四字熟語……なのだろうか。

そして影山は "単細胞" 。
四字熟語どころかこちらは三文字である。
"単細胞" Tシャツを着て仁王立ちする影山を見て、月島は鼻で笑って皮肉を飛ばした。

そしてそんな光景を見てげっそりとしているのは名前である。
"草食動物" や "単細胞" を選んでしまうような西谷と田中だ。
正直、自分の分は嫌な予感しかしない。


名前「さーて、私は片付けに戻ろうかなぁ……」

西谷「あっ、どこ行くんだよ名前!お前の分もあるんだから着ろよ!」

名前「げっ」

田中「げってなんだよ!」

西谷「お前のは俺が決めたんだからな!自信作だ!!」


さりげなくその場を去ろうとした名前だったが、なぜか名前の気配には目敏い西谷と田中。

呆気なく捕まり、名前の目の前にずいっと真っ黄色のTシャツを差し出される。
その勢いに負けて渋々受け取り、名前は畳まれたTシャツを恐る恐る開いた。
そこに書かれていた文字は……。

" 元気百倍 "


名前「いやア○パンマンじゃん!!」

月島「ぷっ、アンパ○マンて……」

名前「うるさいよ草食動物!」


名前の黄色いTシャツにデカデカと書かれていたのは、"元気百倍" であった。
その文字を見る度に某幼児向けアニメのセリフが脳内を過ぎる。


菅原「"勇気百倍" だったらちゃんとした四字熟語であるけどな」

名前「そんなア○パンマンみたいな四字熟語あるんですか!?……って、何笑ってるんですかスガさん」

菅原「いや、"元気百倍" の方が名前っぽくて似合うと思うよ」

澤村「確かに」

名前「それ褒めてますか?あと大地さんは何で納得してるんですか」


Tシャツを持ったままムスッとする名前。
西谷はというと「どうだ気に入ったか!?」と豪快に笑っていた。


東峰「ところで、なんで "元気百倍" なの?」

澤村「そのままの意味じゃないか?」

影山「それなら "元気爆発" とかの方が良かったんじゃないですか?」

月島「なにそれ、小学生の考える四字熟語?"喧喧囂囂" でしょ、この人は」

名前「おい誰が喧しいって!?」

(※喧喧囂囂(けんけんごうごう)…口やかましく騒ぎたてるさま)


酷い言い様である。
お仕置だとばかりに影山と月島の髪を触ろうと手を伸ばす名前。
しかし身長が足りないだけではなく、いとも簡単に2人に交わされてしまい、悔しげな顔をする名前を月島が鼻で笑った。

すると東峰の問いに、西谷はよくぞ聞いてくれたとばかりに得意気な顔をして語り出した。


西谷「名前がいるだけでその場の空気が明るくなるじゃないですか!コイツがいる所では笑い声も絶えないし、コイツの作る差し入れを食えば元気が出る!自分も周りも元気百倍にするヤツって意味ッス!!」


諦めずに月島の髪に手を伸ばして飛び跳ねていた名前だったが、西谷的 "元気百倍" の解釈を聞き、ピタリとその動きを止めた。
澤村や菅原、東峰も「なるほど」と納得の表情を見せている。

名前は目をぱちくりさせて、もう一度Tシャツの文字を眺める。
そして……えへへ、と名前の顔が緩んだ。


名前「そっか、そっか!そういう事ね!私がアン○ンマンみたいって意味じゃないのね!」

西谷「どうだ!?気に入ったか!?」

名前「うん、めっちゃ気に入った!!これ、明日から着る!!」

西谷「よっしゃ!!」


先程までとは打って変わり、何やらご機嫌になった名前。
るんるんと嬉しそうにしながら、自分のTシャツを縁下や木下、成田に見せている。


菅原「相変わらず単純だなー、名前は」

東峰「ああいう所も西谷にそっくりだな……」

澤村「……ま、それがアイツの良さでもあるんだけどな」

菅原・東峰「「わかる、可愛いよな」」


頷きながら、温かい目で名前を見守っている3年生3人。
親バカすぎませんか、とツッコミを入れたくなった月島だが、それは口には出さなかった。


─── そして、翌日から本当に "元気百倍" Tシャツを着て来るようになった名前。

しかしそのTシャツを着ている所をクラスメイトに見られてしまい、一時期あだ名が「アンパ○マン」になったのだが、全く気にしていない様子でTシャツを着る名前であった……。

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