ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


4

─── 翌日の日曜日。


澤村「 ─── で、練習試合のポジションだけど、コレでいこうと思う」


火曜日の青城戦でのポジションが発表された。
WSが大地さんと田中と縁下、Sが影山、MBが日向とツッキー。
中でも高さが重要なMBというポジションに置かれた日向に、私を含めてみんなも驚きが隠せない。


影山「いいか日向!お前は最強の囮だ!」

日向「おおおおっ!?最強の!!おと、り……?」


影山の言葉に最初は目を輝かせた日向だったが、徐々にその興奮が萎んでいった。
どうやら日向にとってはあまりパッとしないポジションらしく、何やら肩を落としている。


影山「速攻でガンガン点を稼いで敵ブロックの注意をお前に向けさせる。そうすれば他のスパイカーが生きてくる!」

日向「っ!」

影山「月島みたいなデカい奴が何人もお前の動きにアホみたいに引っかかったら気持ちいいだろ?」

日向「おおおっ!!いいっ!!それいいっ!!」


再び目を輝かせる日向。
テンションの上がり下がりが激しすぎて、見ていて面白い。


影山「逆に、お前が機能しなきゃ他の攻撃が総崩れになると思え」

日向「っ!!そ、総崩れ……そうくずれ……そうくずれ……」


……日向の様子がまたもやおかしくなった。
さっきまでの目の輝きはどこへやら、呆然とした表情で「総崩れ」という単語を何度も繰り返している。
日向ほど一喜一憂を体現できる人は初めて見たかもしれない。

すると、肝心のブロックはどうするんだという疑問の声が田中から上がった。
影山の説明によると、日向のブロックはドシャットよりも触ることを目的とし、それによってボールの勢いを落として確実に拾い、カウンターを仕掛ける作戦らしい。

試合は2日後。
いきなり全てが上手くいくとは思えない。
ましてや、相手は県ベスト4。
それでも、せっかくの練習試合なのだ。
こうやって手探りで武器を探していくことも大切なのである。
全ては、本番……夏のIHに向けて。


澤村「……何より空中戦で日向の高さに敵う奴、ウチのチームじゃ月島と影山くらいだ。だから日向、自信持って ─── 」

日向「はいぃぃっ!!おれ、がんばりますっ!!いっぱい点とって!囮もやって!サーブもブロックも速攻も、」

澤村「ちょちょちょ、落ち着け!」


─── ボフンッ!!


澤村「ショートした!日向がショートした!!」

田中「うわああああああ!!?」


一気に緊張してしまったのかショートする日向、慌てふためく大地さんに叫ぶ田中。
なんともカオスな光景であり、まるで動物園のような騒がしさだ。


名前「……大丈夫、ですかね」

清水「……どうだろう」


それは、一抹の不安どころか物凄く大きな不安を抱かずにはいられない光景だった……。





─── 月曜日の放課後。

掃除をしようと箒とチリトリ、ゴミ袋を持って私は部室へと向かっていた。
階段を上っていると、


日向「……あ……ち、ちわっす……」

名前「ちわ!……って、どうした日向!?」


お腹を押さえながら顔面蒼白でフラフラと降りてくる日向と遭遇した。
魂の抜けたような顔をしていて、私はぎょっとして日向を引き止める。


日向「あ……ちょ、ちょっと、お腹の調子が……」

名前「えっ、お腹痛いの!?顔色やばいよ、大丈夫!?鎮痛剤持ってこようか!?」

日向「いっ、イエッ、だだだ大丈夫ですっ……すみませんっ、すみませんっ……ヘマしちゃダメだ、ヘマしちゃダメだ……」


私の言葉に物凄い勢いでブンブンと首を横に振った日向。
そしてそのまま、何やらブツブツと唱えながらフラフラと階段を降りていった。

……あれは、本当に大丈夫なのだろうか。
昨日は影山の一言がプレッシャーになってショートしていたし、もしやまた何か言われて緊張してしまっているのだろうか。
なんだか不安を覚えながらも、とりあえず私は部室へと向かう。


名前「こんちわー!お疲れ様ですっ!」

菅原「おー、お疲れ名前」

澤村「お疲れ」

影山「っ!ち、ちわっす」

名前「ちわ!相変わらず今日もデカイなー影山は!」

影山「う、ウス」

菅原「どんな挨拶だよ(笑)」


男子バレー部用の部室に躊躇いもなく入る私。
部室掃除は週1でやっているし、部員が目の前で着替えることなんて日常茶飯事なので、私もみんなも全く気にしていないのである。
しかしそれに慣れていないせいか、堂々と部室のドアを開けた私に影山は驚いたように目を見開いていた。


名前「部室掃除に来ましたー、田中はよ着替えろー」

田中「ちょ、待ってくれって!俺のジャージが……」


既に着替え終わっているみんなに対して、未だパンツ姿でうろうろしている田中。
どうやら下のジャージが無くなってしまったらしい。


名前「なに、無くしたの?」

田中「いやでもさっきまではここに……」

名前「どうせ無意識にその辺に放り投げたんじゃないのー?この間もあんたのくっさい靴下、隅っこに落ちてたよ!ちゃんと持って帰りなさいよ!」

田中「す、すんません……」

澤村・菅原「「((お母さん……?))」」


ジャージを探してうろうろと歩き回っている田中。
大地さんやスガさんに「母親のようだ」と思われているなんて露知らず、私は散らかった部室の整理を始める。
すると、バッグとバッグの隙間に落ちている黒い塊を発見。
広げてみれば、それは下のジャージだった。


名前「田中ー、これは?」

田中「ん?おお、それだそれ!助かった!」

名前「ほれ、とっとと着替えな!」

澤村・菅原「「((やっぱりお母さんだ……))」」


ポイッとジャージを田中に放り投げ、私は整理整頓を再開する。
そこでふと頭を過ぎったのは、さっきすれ違った日向のことだ。


名前「そういえばさっき、顔面蒼白の日向とすれ違ったんですけど……大丈夫ですかね?」

澤村「あー……実は、相当緊張してるっぽいんだよね……」

名前「ああ、やっぱり……」


苦笑いで答えてくれる大地さんに、やはりかと私は頷いた。
確か日向は、私が大地さん達と見に行った中総体のあの試合しか、試合経験が無いらしい。
加えて、元々緊張しやすい性格なのだろう。

すると、部室から出ようとしていた影山をスガさんが呼び止めた。


菅原「影山!お前日向にいつもの余計な一言で無駄にプレッシャーかけんなよ!」

影山「えっ、余計な一言……?」


スガさんの言葉を反復し、考え込む影山。
全く心当たりが無いといった様子である。

いや、自覚無しかよ……。
これ以上日向に余計なプレッシャーを与えないよう、影山を見ておかねば……。
と、そんなことを考えていた時である。


田中「あああああっ!!日向ァァァァッ!!」

名前「っ!?ちょ、田中!?」


突然田中が大声で叫んだかと思うと、上はジャージで下はパンツ姿のまま外に飛び出して行った。
何事かとそちらを見れば、手すりから身を乗り出して叫ぶ田中の姿が。


田中「お前その下、俺のジャージだよ!!」

日向「……えっ?あ、あああっ!!」


どうやら、日向が間違えて田中のジャージを着て行ってしまったらしい。
すみませんすみません、と日向の謝る声が聞こえた。

それに続けて、


「何やってんのよ田中、変態!!」

田中「えっ!?」

「バッカじゃないの、サイテー!!」

名前「ブフッwww」


どうやら他の部活の女子に目撃されてしまったらしく、女子の怒る声が聞こえてくる。
目に見えてショックを受けた様子の田中は私の笑いのツボを刺激し、日向からジャージが戻って来るまで私はゲラゲラと笑っていたのだった。




(めちゃくちゃ行きたくないです、はい)

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