ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


2

「ゴーゴーレッツゴーレッツゴー伊達工!!」

「伊達工ファイッ!!!」

「オオーー!!」


観客席へ上れば、会場はまさに伊達工一色であった。

カメラを設置していると、嫌でも耳に入ってくるバカでかい声援。
手早く設置を終えて烏野の方に目を向ければ、日向が怯えているのが遠目でもわかった。
他のみんなも緊張した面持ちだ。


「伊達工こえー……一緒のコートにいたら呑まれるわー」

「一回戦で伊達工と当たってたチームのスパイカー、すげーかわいそうだったよなー」

「文字通り "何もさせてもらえない" って感じだったもんな」


近くで試合を観戦している他校の生徒の話し声が聞こえてくる。
彼らの言葉で蘇るのは、3月の試合の記憶。
……ダメだ、応援する私がこんなんでどうする。
乗り越えなくては、前に進めないのに。

ウォームアップでレシーブを始める烏野を見て、この伊達工一色の空気をどうしようかと考え込んでいた時だった。


西谷「んローリングッサンダァァァッ アゲインッ!!」


響き渡ったのは、ノヤの大声。
どうやら、以前もやっていた回転レシーブを披露したらしい。

しかしその声の大きさに、烏野だけではなく伊達工とその応援までもが静かになり、ポカンとしてノヤに視線を向けている。
時が止まったようにしんと静まり返ったその場で、一番最初に口を開いたのは田中だった。


田中「ノヤっさんナイスレシーブ!キレッキレじゃねーか!技名以外」

西谷「技名もキレッキレだろうが!!」


吹き出しながら放たれた田中の言葉にノヤが怒ると、ようやく時が動き出したようにコート内は騒がしくなった。


日向「教えて!!アゲインも教えてええ!!!」

影山「前のと何が違うんですか?」

菅原「今のは普通に拾えただろ」

澤村「また西谷は……」

東峰「こら西谷、また大地に怒られるよ..….!」


途端に目を輝かせる日向、真面目な顔で質問をする影山、呆れたように声を出すスガさんと大地さん、そして慌てている旭さん。

しかしそれは、緊張による表情の強張りが解けた瞬間だった。
観客席のここからでも、彼らの空気が少しだけ和んだのがすぐにわかった。


西谷「よっしゃあ!!心配することなんか何も無え!!皆前だけ見てけよォ!!」


ノヤのよく通る声が、会場全体に響き渡る。


西谷「背中は俺が護ってやるぜ」


それは、この場で誰よりも力強いリベロの鼓舞。
大きく手を広げて笑った彼の言葉に、烏野がいつもの色を取り戻したのがわかった。
自分のチーム内だけではなく、会場の雰囲気をガラッと変えてしまった幼馴染みに、思わず感嘆の溜息がもれる。

やっぱり、ノヤは誰よりも眩しい。
私も、彼を見習わなければ。

……さっきは、あの人に何と声をかけていいかわからなかった。
だけど、今なら絶対に大丈夫。
ノヤの言葉に鼓舞されたのは、私も同じ。
このままなんて絶対にダメだ。


名前「 ─── っ旭さあああああん!!!」

東峰「っ!?は、はいっ!!?」


観客席から身を乗り出し、大きく息を吸い込んで、腹の底から声を出す。
反射的に発されたのであろうその返事は、驚いたせいか少しだけ裏返っていた。

ノヤに集まっていた視線が、私に集中するのがわかった。
だけど恥ずかしがっている場合ではない。
私が、応援をしなくて誰がする。


名前「旭さんっ!!!コートには!!?」

東峰「っ!み、みんなが、います!!!」

名前「よし、OKですっ!!!」


グッと親指を立てて笑えば、旭さんが真っ直ぐな瞳で力強く頷いてくれたのがわかった。


名前「皆さんご安心を!!皆の背中を守るのがノヤなら、コートの外は私が守ります!!伊達工コールは、私が全部吹っ飛ばしてやりますよ!!」


仁王立ちをして胸を張り、声を張り上げる。
目に入るのは、みんなの笑顔だった。


田中「おいおい、うちの低身長2トップは2人してカッケェな!!」

名前・西谷「「低身長言うな!!!」」

菅原「名前ー!俺も応援してー!」

名前「もちろんです!! 愛してるぜマイエンジェルーーー!!

田中「応援っつーかラブコールじゃねえか!!」

日向「カッケェ!!苗字さんカッケェ!!」

名前「ありがとう!!だけど試合の時の日向の方が何倍もかっこいいぞー!!」

日向「あざっす!!!」

東峰「い、イケメンだ、名前……」

澤村「どっかのへなちょこエーススパイカーの何倍もな。全く、どっちが年上なんだか」

東峰「(._."U)」

田中「大地さんオブラート!!」

烏養「ったく、アイツにゃ恥じらいってもんがねぇのか?……頼もしい女だな、ホント」


ああ、いつもの烏野だ。
みんなで楽しくバカ騒ぎして、ひたすら真剣にバレーに向き合う烏野だ。

その時、ノヤと目が合う。
1回戦の時と同じように、私に向けて拳を突き出してくる彼。
私も笑って、思い切り拳を突き出した。
今の烏野なら絶対に大丈夫だと、そう信じていた。


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