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─── 館内に戻れば、13時になる15分前だった。
みんなはそれぞれストレッチをしたり会話をしたりして、入口近くで待機している。
戻ってきた私とスガさんにいち早く気付いたのはノヤと田中だった。
西谷「お、名前!」
田中「スガさんも!どこ行ってたんスか?」
2人と目が合うよりも早く、パッとスガさんの手が私の手首から離れた。
先ほどまで握られていた部分が、内側からほんのりと熱くなっている気がする。
名前「あ、えっと……散歩?」
西谷「散歩?」
菅原「そうそう、気分転換がてらな」
名前「次、勝たなきゃだからさ」
田中「……そうだな。勝たねえとな」
先ほど縁下に説明したように散歩だと言えば、スガさんも上手く話を合わせてくれた。
2人は特に疑問を持たなかったようで、次の試合に向けて集中しているようだ。
旭さんの姿を探せば、緊張したような面持ちで立っている様子が目に入る。
何か声を掛けるべきだろうか。
でも、もしかしたら精神統一してるのかもしれないし……。
そんな事を思っていると、
澤村「よし、そろそろ行くぞ」
大地さんの声がした。
迷ってるうちに、旭さんは深呼吸をして大地さんの後をついて行ってしまった。
やっぱり何か声、掛けたかったな……。
すると、「名前!!」と力強い声に名前を呼ばれてガシッと肩を掴まれる。
驚いて振り返れば、真剣な目付きをしたノヤがそこにいた。
名前「ノヤ……?」
西谷「勝つぞ、名前」
名前「っ!うん!」
彼の言葉にハッとして、しっかりと頷く。
……そして。
西谷「 ─── っな、!!?」
肩に置かれた手を、自分の両手で包み込む。
私よりも少しだけ大きい手を胸に引き寄せてぎゅっと握れば、驚いたような声を上げるノヤ。
名前「……おまじない」
西谷「……お、おまじない……?」
名前「うん。あんたが烏野の守護神なら、私はあんたの後ろをコートの外から守るから。私は、あんたの守護神になる!」
西谷「……名前……」
名前「今、おまじないで守護神パワー送ったから!だから、絶対大丈夫!」
ニヒッといつもように笑えば、大きく見開かれたノヤの瞳と目が合った。
すると、私の両手からノヤの手がスルッと抜け出す。
そして、
西谷「……あんま可愛いことすんなっつの」
名前「……ん?」
さっきまで包み込んでいた手にわしゃわしゃと頭を乱暴に撫でられる。
……ノヤの顔が赤く見えたのは、気のせいだろうか?
よくわからずに首を傾げていると、ノヤはいつものようにニカッと笑ってくれた。
西谷「っしゃあ!!勝つぞ!!」
名前「おうよ!!」
コートへと向かっていく小さな背中は、とてつもなく頼もしい。
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