ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


3

─── 木陰に隠れてモキュモキュとチョコパンを頬張りながら、様子を窺う。

通りかかる人の視線が痛いけど、今更気にしない。
そんな私の視線の先には、日向と影山に向かって頭を下げているスガさん。


菅原「伊達工業は強敵だ。3か月前はあの "鉄壁" のブロックにこてんぱんにやられた」

影山「……」

菅原「でも今は "最強の囮" が居る。日向の前の道を切り開いたみたいに、旭の……エースの前の道も切り開いてくれ……!」


……なんだか、私まで複雑な心境になってしまう。
きっと、スガさんだって自分のトスで伊達工にリベンジしたいはずだ。
合宿の時は吹っ切れたようにしていたけど、それでも内心は悔しいだろう。
これから始まる試合は、スガさんが一番出たかった試合なのではないかと思う。


名前「うぬぬ……どうしたものか……」

菅原「何が?」

名前「んごふっ!げほげほっ……」

菅原「うわっ、大丈夫か!?」


木に寄りかかってパンを貪りながら呟くと、返事が返ってきた。
ギョッと振り返れば、先程は少し遠くにいたはずのスガさんが目の前に来ていたのである。

驚いた私は思わずパンを詰まらせかけて噎せてしまい、スガさんは慌てたように背中を摩ってくれた。


菅原「まーた盗み聞きしてたべ?」

名前「ひいぃっ!すすす、すみませんすみません!スガさんが出ていくの見えたので、つい……」

菅原「え、何それ可愛い」

名前「え?」

菅原「あー、何でもないよ。こっちの話」

名前「?」


首を傾げて尋ねれば、頭を抱えながら「はあぁ〜っ」と溜息を吐くスガさん。
ガシガシと自分の頭を乱暴に掻いている様子はちょっと珍しい気がする。


名前「……あの、怒ってますか?」

菅原「怒ってないよ。さっきから名前がパン食べながらこっち見てるの見えてたし」

名前「うぐっ……」

菅原「……よくわかんないんだけどさ、名前見てるとマイナスの感情が消え去ってく感じがするんだよなー」

名前「……そう、なんですか?」

菅原「うん」


何でだろうな、と言いながら私の頭をポンポンと撫でてくれるスガさん。
その手は私の結い上げた髪を優しく梳き、次第に頬を滑っていく。

そして、


菅原「……チョコ付いてる」

名前「えっ、マジですか!?どこに、」

菅原「ここ」

名前「……ひぇっ、!!?」


スガさんの親指が、私の唇の端を軽く拭った。
そしてそのまま、彼はペロリと親指を舐めたのである。
予想外の行動に自分でもわかるほどボフンッと顔が赤くなり、思わずパンを落としそうになる。

ぎょっとして後ずさりしようとしたが、トンッと背中に木の幹が当たった。


名前「あ、あ、あ……」

菅原「カ〇ナシ?」

名前「違います!!」

菅原「……あれ?顔赤いけどどうした?(ニヤニヤ)」

名前「き、気のせいです!太陽のアレがアレだからそう見えるだけですっ!!」

菅原「語彙力どこいった(笑)」


顔から火が出そうなほどに熱いし恥ずかしい。
スガさんはなんだかニヤニヤしてるし、絶対確信犯だこの人!
ダークエンジェル・スガの降臨だ!!


菅原「じゃ、そろそろ戻んべ!大地に怒られるし」

名前「は、ひぇっ!?」


スガさんがニッと笑ったかと思うと、パシッと右手首を掴まれる。
そしてそのまま、私はスガさんに手を引かれて体育館へと戻ったのであった。

スガさんの後ろを手を引かれて走りながら、熱くなった頬へ左手でパタパタと風を送っていたことには、きっと彼にも気付かれていると思う。
頬の熱はなかなか冷めない。
それどころか、握られた手首にすらも熱が篭っていくのを感じていた……。

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