ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


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─── 6月2日。

いよいよ今日は、IH県予選の初日だ。
早速私たちは仙台市体育館にやって来ていた。

入口にはトーナメント表が貼りだされており、それを見ながら他校の生徒2人が何やら会話を繰り広げている。
強豪校が集結したAブロックは特に警戒されているようで色々なところで名前があがっており、その中にいる私たち烏野も注目を集めているようだ。


「……トリ……鳥野??」

「カラスノじゃね?」

「烏野?知ってる?」

「前まで強かった学校じゃん?」

「前までね。今はなんかねー、ダサい異名ついてんだよ。確か……"堕ちた強豪" '飛べない烏"」

田中「飛べない?何ですって??ん?」

名前「実は烏って天敵ほぼいないんですよ?しかも猛禽類にはモビングするんですよ?知ってます?ん?」


いつもの如く悪い顔をさらに凶悪にしてその生徒らに絡んでいく田中。
今回ばかりはイラッときたので私も田中に続いて絡みにいく。
しかし、


澤村「コラ、行くぞ」

田中「おわっ!」

名前「ぐえっ!」

澤村「すみません」

「あ、ああ、いえ……」

澤村「すぐ絡まない!」

名前・田中「「はい……」」


大地さんにジャージの首根っこを掴まれ、まるで子猫のように連行されていく私と田中。
私に至っては潰れたカエルのような声を上げてしまった。

しかし大地さんを怒らせた暁にはこの世の終わりがくるので、私も田中も大人しくついて行く。
集団の中に戻るなり、近くにいたツッキーに鼻で笑われた。


月島「やっぱり先輩って馬鹿デショ」

名前「最近ツッキーの煽りが凄い」

月島「いつもの事じゃないですか」


なんだか最近ツッキーに皮肉を飛ばされる回数が増えたのは気のせいじゃないと思う。
だけど先輩は嬉しいよ、ツッキーから話しかけてもらえてるから!(涙)


「あ、あれは……まさか……!?烏野の "アズマネ"!!北高の奴らを手下に使ってボコらせたとか、やべぇモンを売ってたとか……!」

「5年留年してるらしいぞ……!」

「おいアレ見ろ見ろ、かわいっ」

「あの小さい奴って、千鳥山の西谷だよな……?中総体でベストリベロ賞獲ってた……」

「それだけじゃない……」

「オイ、アレッてアレだろ……天才セッターって噂の ─── 」

「北川第一の "コート上の王様"……!?」


うちには中学時代に有名になった人も多いからか、何人かは注目を浴びているようだ。
旭さんに関してはちょっと違うけれども。
大会の度に旭さんの変な噂が広まっているので、それはそれで面白い。
それにクスクスと笑っていると。


「なぁ、あの女の子さ……」

「あ、だよな!?千鳥山女子の……!」

「俺めちゃくちゃ覚えてるわ、あの子とセッターの美少女コンビ!マジで可愛かったよなぁ!」

「そうそう!でも、なんでマネージャー?バレー辞めたんかな?」


聞こえてきた小声の会話に、耳を塞ぎたくなった。

あれは、確実に私のことを話している。
千鳥山女子バレー部だった人間なんて、この場で私しかいない。
まあ、去年もこういうことがあったから、予想はしていたけれど。

……すると。


名前「……ん?」

月島「……なんですか」

名前「……あ、いや……」


1歩前を歩いていたツッキーが急に速度を落としたかと思うと、私の真横に並んだ。
彼を見上げれば、文句でもあるんですかと言いたげな目で見られる。
一体どうしたんだろうと思っていたが……。


名前「……あっ、……」


明らかに私の歩幅に合わせた歩き方。
周りの視線から隠してくれているのだと、ようやく気づく。


名前「……ふへへへ」

月島「相変わらず笑い方気持ち悪いですネ」

名前「相変わらず失礼だな!?……でもありがとう、ツッキー」

月島「……別に何もしてませんけど」


いやいや、ニヤケずにはいられないよこんなの!!
ツッキーが!!私のために!!
隣に並んだことで、ツッキーのバッグに目がいく。
なんとその持ち手には、昨日私があげたストラップが付けられていた。


名前「……あ!お守り、付けてくれたの!?」


私が声を上げれば、鬱陶しそうな目でジトリと睨まれる。
それはいつもの事なので気にしないけれども。


月島「……お守りって、身につけてないと意味ないデショ」

名前「っ!そ、そうだよね!うんうん!ぐふふ」

月島「……」


呆れられたのか、今度は蔑むような目で見られた。
私の笑い方が気持ち悪いなんていつもの事だ。
それよりも、ツッキーがストラップを付けてくれたことが嬉しくて仕方がない。
だって、ツッキーってこういうの付けてくれないタイプだと思ってたし!


月島「……ていうか、お守りにまで『TSUKKI』って入れないでください。何度言えばわかるんですか」

名前「えー、だってツッキーはツッキーでしょ?それとも名前で呼ぶ?蛍って」

月島「絶対嫌です」

名前「ねえ嘘だからごめんって!そんなに嫌そうな顔せんでも!」


今の顔は本気で嫌がられてた気がする。
ごめんツッキー。
背の高いツッキーを見上げながら、ごめんごめんと謝っていると。

─── ドンッ


名前「ぶべっ」

縁下「うわっ……」


いつの間にか皆は立ち止まっていたらしい。
それに気づかなかった私は、前にいた縁下の背中に衝突した。


名前「ぎゃっ、ごめん!」

縁下「あ、ああ。大丈夫か?」

名前「う、うん。ごめんごめん」

月島「ちゃんと前見てないからですよ」

名前「ぐっ、言い返せねえ……てか、みんなどうしたの?」


背の低い私は、一番後ろにいては前の状況が見えない。
だけど何やら殺伐とした空気が流れてるような……。


縁下「……伊達工だよ」

名前「伊達工……」


どうやら伊達工の選手達と何やら揉めているらしい。
伊達工は私たちにとって因縁の相手だ。
何が起きているのかはわからないけど、「なんだてめー」というノヤの声が聞こえた。
しかしすぐに、


茂庭「ちょい、ちょいちょい!やめっ!やめなさいっ」


という慌てたような声が聞こえてくる。


茂庭「おい二口手伝えっ」

二口「はーい。すみませーん。コイツ、エースとわかるとロックオンする癖があって……だから、今回も覚悟しといてくださいね」


……エースをロックオン?
覚悟しておけという挑発も聞こえてきたため、私は慌てて皆を掻き分けて、先頭にいる3年生の所へ向かう。


名前「ちょ、大丈夫でしたか!?何されたんです!?」

澤村「……伊達工の奴らに旭がロックオンされて、睨み合いになってな」

菅原「いやー、ちょっとびっくりしたなぁ。よく目逸らさなかったな、旭……」

東峰「……き、緊張した……」

西谷「なんでコートの外だとそんなに弱いんですか!」

田中「ノヤっさんオブラート!!」


旭さんの顔を見れば、冷や汗をかいて気の抜けたような顔をしている。
大地さんとスガさん曰く、伊達工の人達にはしっかりと睨み返していたらしいけれど。
ノヤの言う通り、旭さんはコートの外だとメンタルが豆腐になるのだ。
すると、「澤村!」と大地さんを呼ぶ声が聞こえる。


澤村「おお、池尻!!」


どうやら大地さんの知り合いらしい。
中学の同級生とかかな?
私たちは大地さんから先に行くように指示を受けたのでそのまま歩き出す。


月島「……伊達工って、みんな2、3年なんですか?」


先ほどの伊達工のやり取りを見ていたらしく、ツッキーが尋ねてきた。
背が高いから後ろからでも見えたんだろうな。


名前「確かリベロが1年生だったかな。だからほとんどが2、3年だね。だけど鉄壁の主力は2年生のはずだよ」

月島「……そうなんですか」

名前「うん。主力が2年生でも、ブロックの実力は県内随一だよ」


身長ならツッキーも伊達工ブロックに負けてないから、ブロックの要になってくれたら嬉しいんだけどなぁ……。
と、試合前にそんな事を言っても仕方がないのでこれは言わなかったけれど。

……さて、そろそろアップも始まるだろうし、私は観客席に移動するかな。
よいしょ、とずり落ちかけていた機材の入ったバッグを背負い直す。


名前「スガさーん!私そろそろ上に行くんで、大地さんにも伝えといてもらえます?」

菅原「おー、わかった!もう行くのか」

名前「はい!横断幕とカメラ設置しなきゃいけないので」

菅原「そっか、そうだな。何かあったら降りてこいよ」

名前「はーい!じゃあ、」


" 頑張ってください " と言いかけて、口を閉じた。
みんなが今まで頑張ってきたのはよく知っている。
そして "頑張れ" という言葉は、練習中にたくさん言ってきた。
だから今は、違う言葉をかけたい。


名前「 ─── 勝ちましょう。絶対に!」

菅原「っ!おう!」


スガさんはニカッと笑うと、私の頭をわしゃわしゃと撫でてくれる。
他のみんなも私の言葉に「おう!!」と威勢よく応えてくれた。
またあとで、とみんなに手を振って私はその場を去る。
その去り際に、


西谷「名前!!」


名前を呼ばれた。
振り返れば、ノヤが私に向けてグッと拳を突き出していた。
握り締められている拳も、彼の目も、とても力強い。


名前「おうよ!!」


ノヤと同じように私も拳を突き出してニッと笑いかけてから、私はその場を去ったのだった……。


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