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《月島 side 》
" 名前「はい、これツッキーの!ケーキ、口に合ったら嬉しいな!」"
あの人の声が、笑顔が、頭から離れない。
鬱陶しいくらいに ─── 。
山口「ねえねえツッキー!お守り付けた?」
月島「……まだ」
山口「そっか。俺はもう付けたんだ」
その日の帰り道。
見て見て、とばかりに山口は自分のバッグをこちらに向けてくる。
その持ち手には、昨日までは付いていなかったストラップが付けられている。
その小さなバレーボールには、『GUTCHI』という白い文字が刻まれていた。
山口「苗字さん、凄いよね。料理も上手で手先も器用で。俺、こんなの初めて貰った」
月島「……そうだね」
中学の頃はマネージャーなんていなかったから、こういう手作りのお守りみたいな物は初めて貰った。
黄色と青のフェルトで出来た、小さなバレーボール。
自分のはバッグの中に仕舞っている。
山口「じゃあツッキー、また明日ね」
月島「……うん。また明日」
いつの間にか分かれ道に来ていたらしい。
山口と別れていつものように暫く歩けば、家に着く。
……いつもと何も変わらない、はずなのに。
なぜか自分の足が少しだけ早足になっているのがわかった。
家に着いて「ただいま」と言えば、「お帰り」と返ってくる母の声。
リビングに行ってさっさと夕食を食べ、自分の部屋へと戻る。
バッグを開ければ、一番上に仕舞われているケーキとストラップ。
そのお守りには、『TSUKKI』と刻まれていた。
" ツッキー " って呼ぶなって何度も言ってるのに。
あの先輩は、全く話を聞いていないらしい。
うるさい人や馴れ馴れしい人、話を聞かない人は、昔から苦手だったはず。
……それなのに。
月島「……なんで、嬉しいって思うんだろう」
パウンドケーキをひと口頬張れば、優しい甘さが広がる。
その味を、なんだか苗字さんらしいと思ってしまうのは何故だろう。
" 名前「ツッキーさ、バッグの中にマフィン仕舞ってたから。この間のおからドーナツも仕舞ってたし……甘い物苦手なんでしょ?」"
" 名前「いやー、気付かなくてごめんね!予め1年生にも聞いておくべきだったわ。だからさ、明日ツッキー用に何か甘くない物作ってくるよ!だから何かリクエストある?」"
" 名前「あ、大丈夫だよ。みんな今は食に意識が向いてるから。誰もこっちに気付いてないよ」"
気遣いなんてするタイプには見えなかった。
人の領域にズケズケと躊躇いなく入ってくるような、自分が苦手な部類の人だと思っていた。
だけど、練習前と練習後は必ず何かと話しかけられる。
菅原さんが、「ああやって名前はみんなの体調とか怪我してないかとか、調子とか見てるんだよ」と言っていた。
菅原さんに言われるまでは気づかなかったけど、確かに体調を気にするような話しぶりだった気がする。
そこで初めて、あの人に気遣われていたのだと気づいた。
余計な雑談が多すぎて、あんまりそういう印象はなかったけど。
月島「……意味わかんない」
目に入るのは、バレーボールのストラップ。
あの人、全員分作ったって言ってたな。
差し入れも、毎回全員分を用意してくれてる。
しかも、ちゃんと栄養バランスを考えているらしい。
どうしてあんなに、人のために動けるのだろう。
あの人は、理解できない。
月島「……馬鹿じゃないの」
ここ数日、苗字さんの笑顔や笑い声が脳内を過ぎることが多い。
それどころか、その日交わした会話がそのまま何度も脳内でされることもある。
なんであの人のことばっかり考えてんの、僕は。
きっとあの人が、理解できない類の人だからか。
……それでも、お礼くらいは言うべきか。
素直に話したりお礼を言ったりするのは苦手だ。
あの人に調子を聞かれても、いつも素っ気なく返したり、皮肉で返したりしてしまう。
だったら、LI〇Eで言おうか。
入部して早々に、あの人にL〇NEを追加された。
それは1年生全員らしい。
だけど会話はしたことがなかった。
スマホを開き、あの人のアイコンをタップする。
すると、兎か猫かよくわからない動物が真顔でダブルピースをしているイラストがドアップになった。
月島「……」
トーク画面を開きかけて……そのまま、スマホを閉じた。
やっぱり、L〇NEで言うのはちょっと違う気がする。
明日、ドリンク作るの手伝おうかな。
何だかまたうるさく騒がれそうな気もするけど。
……あの人の笑顔が見たい、なんて。
そんなこと、微塵も思ってない。
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