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─── その後の、帰り道。
途中まではみんなも一緒だったが、最後まで道が一緒なのはノヤだけ。
家が近いから、部活の後はほぼ毎日一緒に帰っている。
西谷「やっぱ何度見てもスゲーな、これ!」
それはもう、さっきから何度目かになるセリフ。
ノヤは目を輝かせてストラップを見ている。
そのストラップは既にノヤのスポーツバッグに付けられていた。
名前「気に入ってもらえてよかった!」
西谷「やっぱお前、器用だな!料理も上手いしこんなのも作れるし……」
名前「えー?そんなことないよ」
西谷「あるだろ!すげぇガキの頃、バレー始めた時だって……俺がまだレシーブ下手くそな時から、お前は上手かったじゃねえか」
名前「そりゃ、私の方がちょっと早く始めてたし……」
ノヤにバレーの存在を教えたのは私だ。
小さい時に私とノヤはバレーの虜になり、外で遊ぶ時はいつもバレーだった。
飽きたら2人で走り回って、そしてまたバレー。
小学生、中学生と年齢を重ねても、部活が休みの日には2人でバレーをしていた。
名前「……だけどいつの間にか、ノヤに越されてたよ」
時は瞬く間に過ぎてゆき。
いつの日かノヤは、身長も技術も私を追い抜いていた。
リベロとしての才能を発揮し、休まず前に突き進んでいくノヤ。
昔は隣を一緒に走ってたのに、私はバレーを辞めて立ち止まって。
今は彼の背中を追っている。
名前「……ねぇ、ノヤ」
西谷「ん?」
それでもバレーを嫌いにならなかったのは、彼のおかげ。
彼のプレーが、彼のバレーが大好きだから。
私も、バレーは大好きなまま変わらない
名前「……このストラップね、ノヤのを1番最初に作ったの」
西谷「……俺の、を……?」
名前「うん。誰のから作るとか、決めてなかったはずなのに……無意識に、アンタのことを思い浮かべながら作ってた。気づいたら、アンタの名前を入れてた」
不思議だよねぇ、とノヤを見上げて笑えば、ノヤはピタリと足を止めた。
彼の薄茶色の瞳が大きく見開かれている。
名前「私の中で、バレーは……ノヤのイメージになってるのかもね」
「早く帰ろ?」と言いながらいつものようにヘラッと笑って、私は歩き出す。
……しかしそんな私の手は、後ろからガシッと掴まれた。
西谷「名前」
名前「えっ……?」
いつになく真剣な声で名前を呼ばれ、私は彼の方を振り返る。
振り返った途端、真っ直ぐにこちらを見つめてくる瞳に射抜かれ、どくりと心臓が跳ねた。
名前「……の、や?」
西谷「……俺はどんな試合でも、お前と一緒に戦ってる。マネージャーとしてのお前も、選手としてのお前も、俺の中ではどっちも生きてんだよ」
名前「!」
西谷「……だから、」
私の手を握るノヤの手に、ギュッと力が篭った。
西谷「一緒に行くぞ、全国」
名前「っ!」
" 一緒に "。
この言葉が私にとってどれだけ嬉しいものなのかを、きっとノヤは分かって言っている。
私が引け目を感じていたことに、彼は気づいていたのだ。
やっぱりノヤは、不思議だ。
私が言わなくても、敏感に私の気持ちを察知してくれることがこれまでもよくあった。
私がまだ、ノヤと共に戦っているのだ、と。
そう言ってくれることが、本当に嬉しかった。
名前「うん。絶対行こう、全国!」
いつものようにニヒッと笑えば、ノヤも同じように歯を見せて笑ってくれたのだった……。
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