ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


2

─── 時間というものは、あっという間に過ぎていく。
いつも通りに練習に参加し、そして気づけば終了の時間になっていた。


烏養「今日は早く帰ってよく休めよ」

「「「はい!!」」」


いつも通り烏養コーチの話を聞いて、体育館にはお開きムードが漂っていた。


澤村「よし、じゃあこれで ─── 」

武田「あああっ、ちょっと待って!もう一ついいかな!?清水さんと苗字さんから!」


ナイスな切り出し方、そしてバッチリなタイミングである。
私は内心武ちゃんに拍手を送った。
一応武ちゃんと潔子さんと私の3人で、打ち合わせはしてたんだけどね。

潔子さんが今までこっそりと準備していた物のことを、先程聞いた私。
これにはもう、私もとても驚いたし泣きそうになった。
きっと潔子さんからこんなサプライズを受けたら、この場は歓喜のあまり収集がつかなくなりそうなので、まずは私からだ。


名前「はーい!じゃあまずは私から!いつもの事ですが、今日まで頑張ってきたみなさんに差し入れでーす!」

西谷「っしゃあ差し入れ!!!」

日向「差し入れ!!」

菅原「嬉しいなー!」

田中「腹減った!!今日はなんだ!?」

澤村「いつも悪いな、名前。ありがとう」


口々に喜びの声を口に出すみんなに、私はニヒッと笑ってみせる。


名前「いえいえ!でも、今日のはちょっと特別です!なので1人ずつ配りますね!」


頭に?を浮かべてこちらを見ているみんなを背に、私はステージ脇の階段から隠していたトートバッグを持ってくる。
喜んでもらえると、いいな。


名前「はい!じゃあまずは大地さんから!」

澤村「ああ。ありが、……っ!?」

名前「はい、スガさん!」

菅原「ありがと……って、ええっ!?」

名前「旭さん!」

東峰「えっ、これ……すごい!」


個別にラッピングされた小さな袋を手渡していけば、驚いたように大きく目を見開いて次々と固まっていくみんな。
その光景はちょっと面白い。


田中「名前、お前これ……!」

名前「へへっ、今日のは特別だよ!」


私が一人一人に手渡していったのは、中にパウンドケーキひと切れが入っている、ラッピングされた小袋だ。
その袋の口を閉じるビニールタイに、羊毛フェルトでできたバレーボールのストラップを付けておいたのである。
一人一人の名前が入っているので、個別に手渡したというわけだ。


菅原「すごい、名前入ってる!!どうしたんだ、これ!?」

名前「友達に教りながら作ってみました!『名前特性☆スペシャルウルトラスーパーハイパーなお守り』です!」

菅原「え、なんて!?(笑)」

西谷「お前、いつの間にこんな……!」

名前「えへへ、ノヤに見つからないようにするの大変だったんだよー!朝とか昼休みとか、あとは家に帰ってから作ってたの」

澤村「作ったって、全員分か!?」

名前「はい!選手のみんなはもちろん、武ちゃんも烏養コーチも潔子さんも私も!みんなお揃いです!」


ニッと歯を見せて笑えば、「うおおーーーっ!!!」という雄叫びが上がった。
2年生に加わって大地さん達3年生まで珍しく騒いでいるし、日向は「部活っぽい!すげえー!!」とぴょんぴょん飛び跳ねている。
影山は目を見開いたまま固まってストラップを見つめているが、何だかいつもよりも興奮しているようなのはわかった。
ツッキーはいつも通りの無表情だったけど、ぐっちーは嬉しそうにはにかんでいた。


東峰「これは嬉しいなぁ。名前、ありがとう!」

澤村「これは、ご利益ありそうなお守りだな!」

名前「ちゃんとパワー込めながら作ったんで!必勝間違い無しですよ!」

「「「あざーっス!!!」」」


勢いよく頭を下げるみんなを見て、私はホッと一息ついた。
よし、私の番はこれで無事終わりだ。


名前「……さ、みんな!次は潔子さんからですよー!」


私の声にみんなは頭を上げ、視線が潔子さんへと映る。


名前「さ、潔子さん!頑張ってください!」

清水「う、うん。……あの、激励とかそういうの……得意じゃないので……」


そう言って潔子さんが紙袋から取り出したものを武ちゃんが持って、二人でギャラリーに上っていく。
私は下で待機し、その様子を見守っていた。

「せーのっ」という武ちゃんの掛け声で広がったのは、真っ黒な横断幕。
そしてそこには、" 飛べ " という大きな二文字。

みんなの目が、再び大きく見開かれた。


菅原「こんなのあったんだ……!」

清水「……掃除してたら見つけたからきれいにした」

田中「うおおお!!燃えて来たァァ!!」

西谷「さすが潔子さん、良い仕事するっス!!」

田中・西谷「「よっしゃァ!じゃあ気合い入れて ─── 」」

澤村「まだだ!」


大地さんは上を見上げたまま、大騒ぎしている田中とノヤを手で制した。


澤村「……多分、まだ終わってない」

名前「よし、みんな静かにー!!」


大地さんと私の言葉に、みんなは改めて潔子さんを見上げた。


清水「……が、」

「「「(((が……?)))」」」

清水「……頑張れ」


恥ずかしそうに頬を赤らめてその言葉を送り、逃げるようにその場から去る潔子さん。
小さな声だったが、それはしっかりと部員に届いていたようだ。
その証拠に、2、3年全員は一斉にぶわっと涙を溢れさせた。


澤村「清水っ……こんなの、初めてっ……!!」

田中・西谷「「ッ……!!!!」」


大地さんはまるで父親のようなセリフを言って泣いているし、田中とノヤに至っては声すら出ない様子で涙を流していた。
この2人のサイレントモードは中々レアである。


「「「うおおおおおーーーっ!!!」」」

月島「ちょっと何コレ、収集つかないんだけど!?」


予想通り、感極まってほぼ全員が泣き叫ぶ状態となった。
そのカオスな光景にツッキーが珍しく焦っているようで、ちょっと面白い。


澤村「1回戦、絶対勝つぞ!!!」

全員「「「うおおおス!!!」」」

清水「名前っ……」

名前「潔子さん!お疲れ様です、めちゃくちゃ良かったです!!」


雄叫びを上げて泣いている2、3年を眺めていると、ギャラリーから降りてきた潔子さんがこちらに駆け寄ってきた。
私が笑って伝えれば、潔子さんは頬を赤らめたまま安心したように微笑んでくれた。
その女神のような微笑みに、今度は私がノックアウトされたのだった……。


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