ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


1

黒尾《 ─── いやもう可愛すぎんのなんのって、マジで!!》

名前「…………」


……私は一体、何を聞かされているのだろう。




─── それは、IH予選まであと2日となった日のこと。


黒尾[話があるんだけど。夜大丈夫?]


部活を終えてスマホを確認すれば、てっちゃんからそんなメッセージが入っていた。
一体なんだろう。
文字だと感情が伝わってこないから、この字面だとかなり深刻な話のように感じる。

とりあえず今から帰るところなので、真顔でダブルピースをしたう○まるスタンプを送っておく。
ちなみにこのうさ○るスタンプ、私のお気に入りだ。


西谷「名前ー!大地さんが肉まん奢ってくれるってよ!」

名前「うあーマジかごめん!私ちょっと今日は急ぎなの」

西谷「そうなのか?暗いし送ってやるよ」

名前「ううん、大丈夫!ノヤは肉まん食べてきなよ。じゃあまた明日ね!」

西谷「ん、そうか。じゃあなー!」


私はノヤにヒラヒラと手を振って、急いで家へと帰った。
てっちゃんには、私でよければ何でも相談に乗ると言っているし、きっと何かあったのだろう。
てっちゃんには悩みを抱え込んでほしくない。

通話は何時でもいいと言われたけど、お互いに明日は学校もあるのであまり遅くまではできない。
だからなるべく早く始められるように大急ぎでご飯を食べて、お風呂にも入って準備を済ませた。
そして私がてっちゃんに電話をかけたのは21時頃だった。


名前「ごめん、お待たせ!」

黒尾《おー。……ん?もしかしてだいぶ急がせた?》

名前「だって、明日も学校じゃん。お互いIH前だし、夜更かしして寝不足になる訳にはいかないからさ」

黒尾《あー……なんか悪ぃな》

名前「全然!それで、どうしたの?何かあった?大丈夫?」

黒尾《……あー……いや、そんな重大なことでもねえんだけどさ》

名前「うん?」


なんだか思ってたよりも落ち込んでいる感じがしない。
むしろいつも通り飄々とした声だ。
……いやいやわからんぞ、こういうタイプは本心を隠すのが上手いからな。
一体なんだろう、と思いながら私は彼の言葉を待つ。


黒尾《……この間話したマネージャーの子、いるじゃん。2週間くらい前に正式に入部したんだけどさ》

名前「ああ、噂の美少女ね!その子がどうかしたの?」

黒尾《……可愛すぎるんだけど、どうしたらいい?》

名前「…………は?」


今年一の、いや恐らくこれまでの人生で最大の、渾身の「は?」が飛び出した。


黒尾《だから、マネの仔猫ちゃんが可愛すぎるんだけどどうしたらいい?》

名前「いやあの、聞こえてるから。てか仔猫ちゃんって何」

黒尾《俺が追いかけると必死に逃げ惑ってて可愛いから "仔猫ちゃん"》

名前「今すぐやめたげて!?女の子を追いかけるな!!そんでもって "仔猫ちゃん" はやめろ、気持ち悪いから!!」

黒尾《じゃあ、子うさぎちゃん》

名前「そういうことじゃないよ!?」


一体何なんだ、この人は。
2週間前まではあんなに乗り気じゃなかったというのに。
もしかして2週間前のてっちゃんは別人だったのか?


名前「……ねえ。まさかとは思うけど、話って……」

黒尾《仔猫ちゃんが可愛すぎる件について》

名前「あんた私の心配と肉まん返せよ!!」


……という経緯があり、話の冒頭に至るのである。
私にできることなら!と思って急いで帰ってきたというのに。
肉まんを振り切って帰ってきたというのに!!


黒尾《なになに、心配してくれたの?》

名前「当たり前でしょ!てっちゃんは主将なんだし色々抱え込むことも多いだろうから力になれたらとか思ってた数時間前の私に、助走をつけてドロップキックをかましたい」

黒尾《へぇ、そんなこと考えててくれたんだ?嬉しいねェ》

名前「……あんたホントマジで、もう、マジで」

黒尾《語彙力どこ行った?》

名前「アンタのせいだよ!!」


私は惚気話を聞かされるために召喚されたのか?
冗談じゃない。


名前「通話切るぞ」

黒尾《ちょ、待て切るなって!深刻な相談だから!!》

名前「深刻でも重大でもないわ!!」

黒尾《こっちは仔猫ちゃんの可愛さに身悶えしながら練習に励んでるというのに!!》

名前「知るか!!あと女の子をあんまり苛めるな!!」

黒尾《可愛すぎて苛めたくなるんだよ、なんだあの可愛い生き物》

名前「小学生かあんたは!!」

黒尾《男はみんなこんなモンだって》


……なんかもう、言葉が出てこない。
IH予選を2日前に控えた相手にしてくる話ではないことだけはわかる、確実に。

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