ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


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─── その日の練習では、烏養コーチが旭さんのバックアタックを提案していた。

新しい攻撃手段を増やすため、練習が終わった後もみんなは居残り練習をしている。
影山は旭さんとのバックアタックを練習していて、日向はスガさんと速攻の練習をしていた。

しかし大地さんの「そろそろ居残り終われー」という声がかかり、今度は日向と影山がモップで競走をしている。
いつも競走してるなぁ、あの2人。
元気で何よりだ。

そんな事を考えながらボトルを水道に運んでいると、「あの、苗字さん」と声を掛けられる。


名前「おお、ぐっちーじゃないか。どうしたの?」

山口「あ、えっと……て、手伝います!」

名前「ん?おー、ありがとう」


いつもはネットの片付けに回るはずのぐっちーが、私の後をついて来た。
何か言いたげな顔で、相談事があるのだということは何となく伝わったので、素直に腕の中にあったボトル数本をぐっちーに渡す。
そのまま私はぐっちーと一緒に水道に行き、2人でボトルを洗い始めた。


名前「……それで、どうかしたの?悩み事?」

山口「えっ?あ、えっと……その……」


やはり、何か言いたいことがあったらしい。
ぐっちーの言葉を待っていると、彼は視線をボトルに向けたままポツリポツリと話し始めてくれた。


山口「……苗字さんは……その、し、試合に出るためには……何が必要だと思いますか……?」

名前「……えっ?」


それは、予想外の質問。
私はボトルを洗う手を止めて、ぐっちーの顔を見た。


山口「……1年で試合に出てないのは俺だけだから……このままじゃ嫌なんです。でも、どうすればいいかわからなくて……苗字さんだったら、どうしますか」

名前「……ぐっちー……」


ああ、そうか。
ぐっちーの言う通り、他の3人の1年生はもう試合に出ている。
1年生でレギュラー入りなんてかなり稀なことだけど、彼だけ置いてきぼりの状態になってしまっているのだ。
ツッキーの傍で笑いながら、心の中ではずっと気にしていたのかもしれない。

……だけど、なぜ私に聞くのだろう。
彼は今、「苗字さんならどうするか」と聞いてきた。
私は選手ではなく、マネージャーなのに。


名前「……うーん、ぐっちーの悩みはよくわかるし、私に相談してくれるのは嬉しいよ。でもそういう悩みだったら、コーチとか先輩に聞いてみた方が具体的なアドバイス貰えるんじゃないかな?」

山口「あ、その、それは……」

名前「ん?」

山口「……すみません。この間の音駒との試合の前に……音駒の主将の人が話しているのを、たまたま聞いちゃったんです。中総体で、2年連続で優勝に導いた天才少女って……」

名前「あー……」


なるほど、あの時の会話を聞かれていたのか。
それで私を頼ってきたというわけだ。
バレてしまっているのなら、彼には今更隠していても仕方がないだろう。


名前「……そうだなぁ。私なら、今の烏野に足りない部分を補うかな」

山口「烏野に、足りない部分……?」

名前「うん。足りない部分を補って、自分にしかできないことを見つける。そうすればさ、必然的に出番が回ってこない?だって自分がその分野では一番上手いんだもの。日向の囮とか、ノヤのレシーブみたいにさ」

山口「……」

名前「真っ向勝負もいいけど……せっかく新しいことやるなら、みんながやってないことをやる。そんで、1番になる!」


いつの間にかぐっちーはボトルを洗う手を止めていて、私の方を見ていた。


山口「……みんなが、やってないこと……ですか」

名前「うん、そうだよ。……ヒントはここまでかな。選手は自分で考えることも大切!」

山口「……はい」


視線を落としたぐっちーの頭を、ちゃんと手を拭いてからポンポンと撫でる。
ちなみにかなり頑張って背伸びをしないと届かないし、気を遣ってくれているのか若干ぐっちーが膝を曲げてくれている。


名前「頑張って考えてみて。それで、もし行き詰まったらまたおいで。……私はもうプレーはできないけど、相談ならいつでも乗るからさ」

山口「は、はい!ありがとうございます!」

名前「いいのいいの!後輩は先輩を頼ってなんぼだよ、1人で抱え込まないで!私だけじゃなくて、現役プレーしてる先輩もジャンジャン頼っちゃえ!いやーでも嬉しいねぇ、ぐっちーに頼ってもらえるとはねぇ!」


なんだか嬉しくて、ぐっちーの背中をバシバシと叩く。
ぐっちーむせてた、ごめん。


名前「よし、そろそろあっちに戻ろうか!みんなの片付け手伝おう」

山口「はい!」


その後の片付けの最中ぐっちーは色々考えていたようだが、途中から何かを閃いたような表情へと変わった。
その様子を見て、私は静かに微笑んだのだった。

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