ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


1

─── 5月中旬。

今日も今日とて辺りが暗くなるまで練習である。
しかし今日はちょっとだけ特別だ。
部活に来た時、私が普段は体育館に持って来ないはずのトートバッグを見た途端に、部員のほとんどが目を輝かせてこちらを見ていたことにはちゃんと気付いている。


名前「さぁ野郎共、お待ちかねの差し入れだァ!!1人2個ずつ持ってけーーーっ!!!」

西谷「ッしゃあーーーーっ!!!」

日向「うおおおっ、差し入れーーーっ!!!」

田中「腹減ったーーーっ!!!」


パンパンに膨れているトートバッグを掲げて叫べば、我先にと誰よりも早くこちらへダッシュで向かってくる3人。
他のみんなも続々とこちらへ向かってくる。


西谷「うおっ、何だこれ美味そうだな!!」

田中「しかも2個ずつ!!豪華!!」

名前「今日は紅茶のマフィンだよー!インハイ近いしみんな頑張ってるから、ちょっと奮発して2個ずつにしてみました!」

澤村「いつも悪いな、名前」

菅原「名前、ありがとな」

名前「全然ですよ、えへへえへへ」


皆がわらわらとトートバッグに群がる中、大地さんとスガさんは私の所に来てくれた。
大地さんには背中を、スガさんには頭をポンポンされて、これ以上ないほどに私の顔はニヤけた。


名前「……ちょ、コラコラそんなに押し合い圧し合いしない!ちゃんと人数分あるし、同じ大きさで作ってるんだから全部一緒です!!1人2個ずつ、順番に並んで取りなさーい!!」

澤村・菅原「「((お母さん……?))」」

名前「あっ、大地さんとスガさんもどうぞ!」

澤村「ああ、ありがとう」

菅原「名前の作るお菓子、本当に美味いよなー」

名前「うへへへへへへへ」

縁下「笑い方怖いぞー」

名前「怖いとはなんだ縁下!……あ、烏養コーチもよかったらどうぞー!!」

烏養「お、おう、悪ぃな俺まで (切り替え早いな……)」

名前「いえいえ!」


トートバッグから包まれたマフィンを2個取り、烏養コーチに手渡す。
みんなは既にその場に座って、マフィンにかぶりついていた。
あちこちから「うめー!!」という声が上がっていて、嬉しくて口角が上がってしまう。

すると、みんなの輪から離れていくベージュ色のくせっ毛が視界の端に入った。
チラリとそちらを見れば、ツッキーがスクバにマフィンを仕舞っているところだった。

そういえば、この間おからドーナツを差し入れで持って行った時も、ツッキーは食べずにバッグに仕舞ってたような気がする。
あの時は旭さんのことで頭がいっぱいだったからあんまり気にしなかったけど、これはもしや……。


名前「ツッキー!!」


ツッキーの背後に回ってひょっこりと顔を覗き込めば、ギョッとしたような顔をされた。
ツッキーの表情がこんなに変わるのは珍しい気がする。


月島「……なんですか?あと、その呼び方止めてください」

名前「ごめんって!ねぇツッキー、好きな食べ物とかある?あ、飲み物でもいいよ!あったら教えてほしいな!」


全然話聞いてないなこの人、みたいな目でツッキーに見られたけど、今更そんな事を気にするような私ではない。


月島「……別に、何も。なんでそんな事聞くんですか」

名前「ん?いや、ツッキーさ、バッグの中にマフィン仕舞ってたから。この間のおからドーナツも仕舞ってたし……甘い物苦手なんでしょ?」

月島「!」

名前「いやー、気付かなくてごめんね!予め1年生にも聞いておくべきだったわ。だからさ、明日ツッキー用に何か甘くない物作ってくるよ!だから何かリクエストある?」

月島「……いや、これは、……」

名前「……うん?」


何かを言いかけて口を閉じてしまったツッキー。
何やら周りを気にしているようで、チラリとみんながいる方に視線を向けている。

……甘い物が苦手だって、みんなに気付かれたくないのかな?
それとも、自分だけリクエストするのが嫌とかかな。


名前「あ、大丈夫だよ。みんな今は食べる事に意識が向いてるから。誰もこっちに気付いてないよ」


ちょっと声を潜めて告げれば、一瞬ツッキーの眉間に皺が寄った。
あれ、余計なこと言っちゃったかな?
背の高いツッキーを見上げながら、彼の言葉を待っていた時である。


山口「苗字さん、ツッキーは甘い物好きですよ。好物はショートケーキだし」

月島「ちょっと山口、」

名前「うおっ、ぐっちーいつの間に私の背後を!?……って、え?」


いつの間にかぐっちーが私の後ろにいてびっくりするのと同時に、彼の言葉に耳を疑った。
好物が、ショートケーキ……?


名前「……ツッキー、甘い物好きなの……?」

月島「……」


もう一度ツッキーを見上げれば、彼は気まずそうに私から目を逸らした。


名前「いつも食べてなかったから、てっきりご家族の方にあげてるのかと……」

山口「あ、違いますよ!学校だとゆっくり食べられないから、家に帰ってからゆっくり味わって食べてるんです。ね?ツッキー」

月島「山口!!」

山口「ごめんツッキー!」

名前「ぐっちーはなんでそんなにツッキー事情に詳しいの」

山口「小学校から一緒なので」


再びツッキーに睨まれたぐっちーは、「ごめんツッキー!」とまたもやいつものセリフを口にしている。
私はというと、ポカンとしてツッキーを見上げていた。

え?え?何?
ツッキー可愛すぎない???


名前「むふふふふふふふふ」

月島「……笑い方気持ち悪いんですケド」

名前「ひでぇ」

月島「あとそのニヤケ顔も」

名前「追撃!!?」


そんなこと言ったってしょうがないじゃないか (某えな〇かずき召喚)。
いやいや、こんなのニヤケずにいられるかってーの!!


名前「なんだなんだ、よかったぁ!!じゃあもしかして、差し入れ楽しみにしててくれたりとか!?」

月島「……うるさいのでちょっと黙っててもらえますか」

名前「ひどいなオイ。もー、なんだよツッキーも可愛いとこあるじゃん!そんなツッキーには私の分のマフィンあげちゃう!ぐっちーも色々教えてくれてありがとう、よかったら君も貰ってよ!1個ずつね!」

山口「えっ、いいんですか!?やった!」

名前「私は自分でいつでも作れるからさ!ほれほれ、持ってけ!」

山口「わあ、ありがとうございます!」

月島「……どうも」


即座に包みを開けて顔を綻ばせながらマフィンを頬張っているぐっちーと、そそくさとバッグに仕舞い込むツッキー。
何とも対照的な2人だ。
でも、なんて可愛いんだこの子達!!


名前「みんなにはナイショね?」

山口「はい!」

月島「……」


人差し指を口に当ててニヒッと笑えば、ぐっちーは目をキラキラさせて頷いてくれた。
ツッキーは……なんだか若干頬が赤いように見えるのは気のせいだろうか。


名前「……あ、そういえばツッキー。このマフィンはそこそこ日持ちするから3個一気に食べなくても大丈夫だよ。晩御飯優先ね、じゃないと筋肉つかないからね」

月島「そんなに一気に食べませんよ、苗字さんじゃないんですから」

名前「どういう意味だコラ」


合宿でツッキーがみんな程ご飯を食べていなかったことを思い出し (といっても平均的な量なのかもしれないが) 、助言してみたのだが、見事に皮肉で返されてしまう。


月島「合宿中、誰よりも早くカレー食べ終えて西谷さん達とお代わりしてたじゃないですか」

名前「うっ、うるさいよ!カレーならいくらでも入るじゃんか!!」

月島「カレー以外もお代わりしてたデショ。あれだけ食べてるのに、なんで栄養が身長に回らないんですかねー?」

名前「こっ、このやろっ、言ったなツッキー!先輩を揶揄った罰だ、そのくせっ毛触らせろ!!しゃがめ!!」

月島「嫌ですよ。触れるものなら触ってみ…あぁ、届かないか(笑)」

名前「ムキーーーッ!!この際ぐっちーでもいいから頭撫でさせろ!!私に優越感をくれ!!」

山口「俺ですか!?」


ぐっちーの髪をわしゃわしゃして何とか心を鎮めた。
くそっ、腹は立つのになんか可愛くて憎めない!!
ツッキー、恐ろしい子……!!

だけど、なんだか少しだけツッキーとぐっちーと仲良くなれた気がして嬉しいのも事実だ。
ぐっちーは最近はそれほどでもないけど、ツッキーはみんなの輪から外れがちだったからなぁ。
まるでシャンプーをしているかの如く、ぐっちーの頭をわしゃわしゃしていると。


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