ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


3

黒尾《……正直俺は、女子マネは別にそこまでいらねえかなっていう主義》

名前「……えっ、そうだったの?」

黒尾《そ。……ああ、別に名前ちゃんを否定してるわけじゃねえから。この間の練習試合の時も助けられてるし》

名前「うん、大丈夫。分かってるよ」


さすが主将、細かい部分のフォローも欠かさない。
てっちゃんはマネージャーの存在そのものを否定しているわけではなく、音駒には別にいてもいなくても変わらないということを言いたいのだと思う。


名前「……でも、マネージャーがいれば1年生の負担も減るんじゃない?この間ドリンク作りに来た子って試合出てた子でしょ?ドリンクも作って自分のアップもしてってなると大変じゃないかな」

黒尾《ああ、それは分かってる。俺も1年の頃はそうだったからな》

名前「……性格とかは、大丈夫そう?」

黒尾《あー……どうだろうな。マネの仕事は1年だから、その子は1年に任せてんだよ。それに今はまだ仮入部でお試し期間みたいな感じだから、まだそんなに関わってねぇし……今はまだ何とも言えねぇわ》

名前「そっか、そうだよね」

黒尾《まあでも、昨日も今日も芝山と一緒にいろいろ頑張ってくれてたっぽいし。悪い子じゃねえとは思うけど》


やっぱり主将ともなると、いろいろ気にすることが増えるのだろう。
人間関係を取り持つのも主将の役割になってくるだろうし。
そんな事を考えながら、てっちゃんの話に耳を傾ける。


黒尾《……あー、何て言やいいのかな。なんつーか、こう……》

名前「……うん?」

黒尾《……長いこと男所帯だった場所にさ、女子1人が入ってくるってのはどうなのかと思うワケよ》

名前「……あー……」

黒尾《……別に、アイツらを疑ってるわけじゃねえんだよ。けど、万が一の事ってのは有り得ないわけじゃねえから、何かあった時のために色々考えておかなきゃならねえんだよ。だから……いろいろ気ィ遣っちまうっつーか、扱いに困るっつーか……》


ああ、そうか。
つまりてっちゃんは……。


名前「……心配、なんだ?その子のこと」

黒尾《……》


私の言葉にてっちゃんは、口を噤んでしまった。
……照れてるのかな?
多分今のは図星だったんだと思う。


名前「……てっちゃんは、優しいんだね」

黒尾《僕が優しいのはいつものことです》

名前「…………(¬_¬)」

黒尾《……なぜだろう、今の名前ちゃんの表情が手に取るようにわかる》


電話越しでも私がジト目をしていたのがわかったらしい。
だけど何となくわかる。
今のは照れ隠しだったのだろう、と。


名前「……私はさ、大丈夫だと思うよ」

黒尾《……なんでそう思う?》

名前「何となく、だけど。でもさ……みんな真っ直ぐな人達じゃん。この間試合見ててわかったよ、みんな本当にバレーが大好きな人たちだって。音駒の人たちは、みんな真っ直ぐな目してて……すっごく良い人達ばっかりだった。それはてっちゃんが一番よく分かってるでしょ?だから、悪いようにはならないと思う」


私は感覚的に物事を捉えることが多いから、思っていることを言葉にするのはちょっと苦手だ。
だから一言一言、考えながらゆっくりと言葉を紡ぐ。


名前「……ごめん。なんか、上手くは言えないんだけどさ……」

黒尾《……ん、大丈夫、ちゃんと伝わってる。それに真っ直ぐさなら、名前ちゃんも負けてないと思うケド?》

名前「えっ、そうかな?……あ、それにさ。もし何かあったらてっちゃんがその子を守ってあげればいいじゃん」

黒尾《守るとか、キャラじゃないんですけど。どこの少女漫画だよ……》

名前「いいじゃん、意外と似合うんじゃない?王子様キャラみたいな」

黒尾《……キモすぎて反吐が出るわ》

名前「そんなに!?笑」

黒尾《反吐超えて血液》

名前「草超えて森みたいに言わないで(笑)」


そんな会話をしている間に、バレーボールのお守りが1つ完成した。


名前「よし、できたー!記念すべき1個目!上手くいった!」

黒尾《お。じゃあ一区切りついたところで今日はこのくらいにすっか》

名前「そうだね、そろそろ日付も変わるし」


"NOYA"という文字が入ったフェルトを大事に仕舞って、私は片付けを始めた。
スピーカーの向こうからもパタパタと本を閉じる音が聞こえてくる。


名前「……あ、てっちゃん!」

黒尾《ん?》

名前「……あのさ、私でよかったらいつでも相談乗るよ。あ、私なんかじゃ頼りないかもしれないけど……だけどさ、あんまり1人で溜め込まないでね。みんなの前では主将でも、私の前ではただの従兄弟のてっちゃんなんだから」


主将はみんなを引っ張り、みんなの支えとなる大黒柱。
だけどその主将のことは、誰が支えるのだろう……。
だから少しでも、彼の力になりたい。

すると、電話の向こうから大きなため息が聞こえた。


名前「……あっ、なんか気に障るようなこと言っちゃった?ごめんね、私全然デリカシーとか無くて余計なこと言っちゃう時あるみたいで、」

黒尾《あー違う違う。むしろ逆だわ、サンキュ。名前ちゃんさ、いつの間にそんないい女になったの?》

名前「……いっ、いい、おんなっ……!!?」


"いい女" というワードに、不覚にもドギマギしてしまう。
何ちょっとドキッとしてんだ、従兄弟相手なのに。


黒尾《危うく黒尾サン惚れるとこだったわー (棒)》

名前「棒読みですけども!?」

黒尾《ぶっひゃひゃひゃひゃ!》


なんか腹立つ笑い方……!
笑い方まで腹が立つとは、人を煽るスキルが半端じゃない。


名前「それよりもさ、そのマネちゃんと案外めっちゃ仲良くなったりして」

黒尾《残念ながら俺はロング派なの》

名前「別に聞いてないよ、てっちゃんのタイプは」


なるほど、マネちゃんはショートヘアなのかな?
見てみたいなぁ、音駒のショートヘア美少女……。


黒尾《つか、また話し込んでんじゃねえか。そろそろ寝るぞ》

名前「あっ、そうだね!明日も練習頑張ってね」

黒尾《ありがと。そっちもな》

名前「ありがとう!おやすみ」

黒尾《おやすみ》


電話を切ってから時計を見れば、時刻は午前0時20分。
明日も早いから、早く寝なければ。

てっちゃんは従兄弟なのに、従兄弟って感じがしない。
10年以上会ってなかったからだと思うけど、親戚という感じがあまりない。
友達みたいな感覚だし、主将という大きな肩書きを背負う彼を支えたいとも思う。

……だけど。


名前「……支えるなら、もっと近くで支えられればいいんだけどなぁ」


できないわけではないけれど、仙台と東京では距離が遠すぎる。
お互い忙しいし、LI〇Eや通話もいつでもできるわけではない。

てっちゃんはきっと、人に弱みを見せないタイプだ。
合宿中の練習を見た限りだと面倒見がいいみたいだし、簡単に弱音を吐けない立場なんだと思う。
だから、彼がいろいろ溜め込んでしまわないかが心配だ。
チラリとスマホの画面を見れば、通話の履歴に『黒尾鉄朗』の文字が加わっていた。


名前「……もっと近くに誰かいればいいんだけどな。てっちゃんの、心の拠り所になる人……」


そんな事を考えながらも、私はベッドに入ってすぐに夢の世界へと入っていったのだった……。


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