ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


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─── 「私のスペシャルウルトラスーパーハイパーなお守り作り」を開始してから3日ほどが経った。

平日は朝と昼休みを使って美紀と一緒に作り、土日は1日中部活なので夜寝る前に2時間ほど時間をとってプスプスしている。
慣れるまでは2日で1個、慣れたら1日1個が目標だ。

でも夜だと眠気のせいで間違って指を刺してしまうことがあり、私の指には日に日に絆創膏が増えていった。
部活に行くたびにその手はどうしたんだと聞かれるので、「料理をしてたら眠くて指を切ってしまった」と伝えている。

だけど流石に切りすぎだろってくらい絆創膏が増えてきたので、今日は眠気覚ましのお供を召喚したぜ!!


名前「というわけで今日はwithてっちゃんでお送りしまーす!」

黒尾《誰に言ってんの》

名前「読者の皆様」

黒尾《何の話?》

名前「こっちの話」


今日は土曜日なので、てっちゃんを電話で召喚してみた。
てっちゃんも勉強をしなきゃいけないらしく、お互いに眠気覚ましにちょうどいいということで通話中なのだ。
お互いに明日も部活があるので日付が変わるまでという約束だけどね。
スピーカーからはカリカリというペンを走らせる音が聞こえてくる。


黒尾《……てかさっきから謎の音聞こえんだけど、何やってんの?勉強?》

名前「んーん、『私のスペシャルウルトラスーパーハイパーなお守り作り』実施中だよ」

黒尾《ん、なんて!?》

名前「お守り作ってるの。ほら、インハイ予選近いからさ」

黒尾《へぇー、マネっぽいことしてんねェ。名前ちゃん、意外とそういう事するタイプなの?》

名前「意外とって何」


ツッコミは入れたものの、てっちゃんの言いたいことはわかる。

てっちゃんと会った頃の私はノヤの影響か男の子みたいな格好をしていて、しかもバレーばかりやってるスポーツ少女だった。
だからてっちゃんの中の私は男っぽい印象だろうし、てっちゃんに限らず私の周りもそう感じることが多いらしく、家事が苦手そうに見えるらしい。

実際去年に初めて差し入れをした時、田中に「え、お前……料理とかできんのか?毒入ってねえよな?」とかなり失礼なことを言われた。
だけどすぐに私の差し入れを気に入ってくれたので、自分で言うのもあれだが実力で黙らせたというやつだ。


名前「去年はお菓子作って差し入れしたんだけど、お菓子って食べたら終わりじゃん?それに、お菓子の差し入れは普段からやっててさ……。やっぱりこういう時くらいは形に残る物がいいかなって」

黒尾《ふーん。名前ちゃんの気持ちが籠ってれば、君んトコの主将クンたちは何でも喜ぶと思うけど》

名前「あはは、サラッと嬉しいこと言ってくれるね。てっちゃんってモテそう」

黒尾《モテんなら今頃彼女とランデブーだわ》

名前「え、いないの?」

黒尾《残念ながらバレー一筋》

名前「そうなんだ、なんか意外」

黒尾《名前ちゃん、立候補する?》

名前「え、何に?」

黒尾《俺の彼女》

名前「遠慮しとく」

黒尾《即答なのね》


テンポよく会話のラリーをしながらも、お互い手は止めていない。
スピーカーからはペンの音やページを捲る音が聞こえてくるし、私もずっとプスプスしてる。


黒尾《……ああ、そうそう。ウチにマネージャー入るかもしれないわ》

名前「えっ、マジで!?」


驚いて、思わず作業を中断した。


黒尾《そ。3日前に来て、今は仮入部中》

名前「えーそうなの!?男子?女子?」

黒尾《女子》

名前「マジでか!そっちの、山本くんだっけ?めっちゃ喜んでるんじゃない?」


田中と仲良くなったらしい、音駒の4番・山本猛虎くんの話はよく田中から聞いている。
なんでも、潔子さんの良さを語り合えるらしく意気投合したらしい。
羨ましい、私もその同盟に入りたい。
『潔子さんを語り隊』っていう同盟作りたい。
田中いわく、潔子さんに話しかけてガン無視されるのも良いと山本くんにオススメしているのだとか。


黒尾《それがさ、山本が連れて来た子なんだよねェ》

名前「え、そうなの?彼女さん?」

黒尾《アイツに彼女いるわけねえだろ》

名前「めちゃくちゃ失礼だよ、それ」


山本くんと話したことがないけれど、田中のおかげで人となりは少し知っている。
田中の分身みたいな感じだ。
でも田中の話を聞く限り、山本くんは女性への免疫がない感じがしてたけど……。


黒尾《でも正直驚いたわ。前々から女子マネほしいっては騒いでたんだけど、女子に話しかけんのは無理とか言っててさ。迷走して恋愛ゲームで練習した事もあったな。そんなに欲しけりゃ自分で連れて来いとは言ったけど、まさか本当に連れてくるとはねェ……》

名前「ちょっと待って、恋愛ゲームの件が気になりすぎて話が入ってこない」

黒尾《まあ、その話は後でな。なんでも、席替えでたまたま山本の隣になったのがその子だったらしい。帰宅部だったらしくて、相当頑張ったっぽいよ、山本。詳しくは知らねーけど》

名前「……なんでかな、見てないのにその光景が目に浮かぶんだけども」


めちゃくちゃ吃りながら声をかける山本くんの姿が目に浮かんだ。
多分、田中に似てるから想像しやすいんだと思う。


名前「で、どんな子?可愛い?」

黒尾《あー、学校で結構話題の子らしいわ。音駒一の美少女だってさ》

名前「ちゃっかりSSR引き当ててる!!やるじゃん山本くん!!」

黒尾《他の女子と群れるタイプじゃなくて、教室で読書してたり大人しそうな子2、3人と一緒にいる子だったっぽいわ》

名前「あー、群れてる子よりは声掛けやすかったのかな?……じゃあそれで美少女ってなると、ほんわか系とか?」

黒尾《ああ、そうそう。それが言いたかった。周りにケサランパサラン浮いてそうな感じの子》

名前「例え斬新すぎない?」


音駒一の美少女とか気になるんだけど!!
絶対可愛いじゃんそんなの!!

……だけど、気になることが一つ。


名前「……ねえ、違ってたら悪いんだけどさ。てっちゃん、もしかしてあんまり乗り気じゃない感じ?」

黒尾《……ん?なんで?》

名前「いや、なんて言うか……他人事みたいな話し方だったから。あんまり興味無さそうっていうか……」


私がそう言うと、てっちゃんは少しの間黙り込んでしまった。
私はその間に作業を再開する。
彼が再び口を開いたのは、少し時間が経ってからだった。


黒尾《……名前ちゃんってさ、鈍いのに鋭いよねェ》

名前「なんだそれ」

黒尾《人の機微には聡いのに、肝心な所には鈍いってこと》

名前「褒めてんの?貶してんの?」

黒尾《揶揄ってる》

名前「おい」


すまんすまん、と大して悪びれてないような声で軽く謝られた。
そして、「ふー…」と小さくため息を吐く音。


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