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《名前 side 》
黒尾「 ─── 名前ちゃん」
名前「あ、てっちゃん!」
ちょうどモップをかけ終えた時、てっちゃんがこちらにやって来た。
てっちゃんのことだから、多分私の仕事が終わるまで待っていてくれたんだと思うけど。
名前「今日はお疲れ!凄かった、めちゃくちゃ上手くなったんだね!私、びっくりしちゃったよ!」
黒尾「ありがと。あ、そうそう、ドリンクもありがとね。美味かったよ」
名前「あ、本当?口に合ってよかった!」
黒尾「『女子マネージャーが作ったドリンク……!』って、山本が感激して泣いてた」
名前「よっぽどマネージャーに飢えてるんだね……」
黒尾「マネージャーっつーか、女子な」
そう言って困ったように体育館の隅に視線を向けるてっちゃん。
彼の視線の先では田中と山本が熱く語り合っていた。
どうやら仲良くなったらしい。
黒尾「あ、そうそう。連絡先交換しない?」
名前「あっ、もちろん!」
スマホをポケットから取り出せばヒョイと取り上げられ、パパパッと自分の連絡先を私のスマホに登録するてっちゃん。
作業はやっ!!
黒尾「はい、どーぞ」
名前「て、手慣れてる……!もしや色んな女の子に、」
黒尾「名前ちゃんも山本と走る?」
名前「ごめんなさい!!」
ギラッとてっちゃんの目が光ったので、私は慌てて謝った。
冗談だよ、と頭を撫でられるけど、絶対あの目は本気だった。
黒尾「L〇NEしていい?」
名前「いいよー!」
黒尾「電話は?」
名前「もちろん!」
私が頷けば、てっちゃんがニッと笑った。
ああ、やっぱり笑顔は変わってないなぁ……。
すると、てっちゃんが私の耳元に顔を寄せてきて、コソッと耳打ちをされる。
黒尾「……で?そっちのリベロくんとはどういう関係なワケ?」
名前「……えっ?ノヤのこと?」
なぜここでノヤの名前が出てくるのかと私は首を傾げる。
名前「ノヤは幼馴染みだけど……」
黒尾「ふーん……それだけ?」
名前「えっ?それだけって……あっ、あとは幼稚園の時からずっとクラスが一緒なの。面白いよね」
黒尾「……ああ、そう。あーはいはい、なるほどねェ……」
名前「え、何が?」
てっちゃんは、納得したように1人で頷いている。
全く話が見えないんだけど?
無意識のうちにノヤの姿を探せば、案外すぐに見つかった。
ノヤは少し遠くから、じっとこちらを見ていたのである。
その視線はなぜか私たちを睨みつけているようだった。
いや、私たちというか、てっちゃんの方か……?
黒尾「じゃ、そろそろ新幹線の時間だから行くわ」
名前「あ、うん!気をつけてね」
黒尾「ん、ありがと。……あと、」
てっちゃんもなぜか、チラリとノヤと方を見る。
黒尾「そっちのリベロくんに伝えておいて。" 相当時間かかるだろうけど頑張れ " って」
名前「……?うん、わかった」
バレーの話かな……?
知らぬ間に何か、ノヤに技を伝授したのだろうか。
そんな事を考えている間に、てっちゃんは「お前らそろそろ出るぞー」と声を張り上げた。
そしてすぐに「集合!」という大地さんの声がかかり、私も彼らの元へと向かったのだった。
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《 no side 》
両チームは外で向かい合って整列し、挨拶をする。
「挨拶!」
「「「ありがとうございましたーーっ!!」」」
挨拶を終えた後は、「友よ、また会おう!!」と田中と山本が熱い握手を交わしていた。
それをドン引きしたように見ている孤爪に、黒尾が「あんま見んな」と耳打ちしている。
するとそこへ、澤村が現れた。
途端にニッコリと笑顔を浮かべる黒尾。
笑顔なのは澤村も同じである。
澤村「次は負けません」
黒尾「次も負けません」
菅原・夜久「「怖い!!怖いから!!」」
笑顔で握手を交わす2人だが、その手はギチギチと変な音を立てている。
それを見た菅原と夜久の、息ぴったりなツッコミが炸裂した。
澤村「ちなみに、うちの苗字とはどんな関係で?(ニコニコ)」
黒尾「そうですねぇ……俺にとって大切な人です(ニコニコ)」
笑顔で手を握り合ったまま、そう答えた黒尾。
その答えに澤村は笑顔を保っているが……目は明らかに笑っていない。
澤村「……大切な人……?どういう意味ですかね?(ニコニコ)」
黒尾「そのままの意味ですよ(ニコニコ)」
澤村「……なるほどねぇ(ゴゴゴゴ)」
黒尾「何か問題でも?(ゴゴゴゴ)」
澤村「いいえ、何も?(ゴゴゴゴ)」
菅原・夜久「「だから怖いって!!!」」
まるで魔王のようなオーラを醸し出し始めた2人に、再びツッコミが入った。
黒尾「(……愛されてるねェ、名前ちゃん)」
孤爪「……クロ、なんでニヤけてるの。気持ち悪いよ」
黒尾「ひでぇなオイ」
烏養「次は今日みてえにいかねえからな!」
直井「そうしてくれないと練習になんないからな!」
菅原「こっちもか!!」
夜久「大人気ない!!」
一方反対側でも同じように怖い顔でギチギチと握手をするコーチたち。
ツッコミの菅原と夜久は大忙しだ。
そうして、音駒高校は帰って行ったのだった。
影山「……今日のが公式戦だったら1試合目負けたあの瞬間に終わるんだ、全部」
手を振りながら去って行く音駒の皆を見て、影山がポツリと呟いた。
日向「知ってる」
日向が答えた。
負けを知らない人はいない。
みんなどこかで負けを経験している。
だからこそ、次こそはと頑張るのである。
烏養「そーだ、わかってんじゃねーか。そんでその公式戦……IH予選はすぐ目の前だ。さっさと戻るぞれ今日の練習試合の反省と分析と、そんで練習だ!」
「「「「あス!!!」」」
力強い返事が響き渡る。
合宿最終日は、まだ終わらない ─── 。
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