ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


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日向はだんだんボールに手が当たるようになってきた。

そして、18対15で音駒のリード。
しかしここで音駒の7番が下がり、1番を背負う主将 ─── てっちゃんが前衛に出てきた。


黒尾「20cm以上の身長差で犬岡と互角以上に戦うなんて、すげーなチビちゃん」

日向「うぬあっ!?チビって言う方がチビなんだぞコラァ」


と、てっちゃんに突っかかっている日向を影山が引っ張り、なにか耳打ちし始めた。
そして試合が再開されると、日向と影山はいつもの変人速攻に切り替えた。


烏養「いい判断だな」

武田「え?」

烏養「今は、あの3年のミドルブロッカーには変人速攻の方が有効だと思う」

名前「私たちは変人速攻を見慣れてますけど、あっちは違いますからね。手練のミドルブロッカーなら普通の速攻の方が止めやすいですし」


そして、音駒の攻撃。
4番のモヒカンが来るかと思いきや、前衛3人が囮で6番の華麗なバックアタックだ。
ボールが日向にぶつかってなんとか落とさずには済んだけど、続く音駒のチャンスボールで今度はてっちゃんのAクイック。
烏野も旭さんが力強いスパイクを打ち込んだが、相手のリベロにレシーブされてしまった。

そして ───。


烏養「……っ、」

名前「うあー、上手いなぁてっちゃん……」


さっきのAクイックを警戒した旭さんとツッキーがブロックに跳んだが、速攻に跳ぶと見せかけたてっちゃんは一瞬動きを止めて、ブロックを避ける。
完璧な一人時間差だ。
旭さんもツッキーも見事に引っかかってしまっている。


武田「……なんというか、あの1番くんが前衛に上がってから、あっちは攻撃に熟練感みたいなものがありますね」

烏養「そうだな。1年がスタメンの半数を占めて、しかもこの間メンバーが揃ったばっかのウチのレベルが1だとすると、向こうは10も20も上だ」

武田「向こうは立派な大人猫で、こっちは生まれたての雛烏、ですか……」

烏養「あー、それ。そんな感じだ。守備力とか攻撃の多彩さじゃ、どう足掻いたって勝ち目はない。今はまだ、な。……だったら、」


そう言って、烏養コーチは立ち上がった。


烏養「がむしゃらに食らいつくのみ!パワーとスピードでガンガン攻めろ!」

田中「力でねじ伏せろって事だなァ!?」

日向「なんかそれ、悪役っぽい……」


コーチの言葉に、田中が悪い顔をしている。


烏養「良いじゃねえか、悪役!烏っつーのも悪役っぽいしよォ!下手くそな速攻もレシーブも、力技で何とかする!粗削りで不格好な、お前らの武器だ!今持っているお前らの武器ありったけで、攻めて攻めて攻めまくれ!!」


安定感のある音駒に、うちも必死に食らいつく。
攻撃力だけなら烏野のほうが上らしく、こちらも音駒を追いかけて20点台に乗った。

しかしその攻撃は、音駒の守備力を上回ってはいない。
旭さんや田中、日向がスパイクを打ち込んでもなかなか決まらない。
音駒は、ボールを落とさない……。

ピピーッ、と笛が鳴った。
セットカウント2-0で、結果は音駒の勝ち。


武田「あああ……」


武ちゃんが力の抜けたような声を零す。


烏養「……完敗だな。ウチにしてはミスも少なかったし、ウチの強力な武器はキッチリ機能してた。……あれが、個人じゃなくチームとして鍛えられたチームなんだろうな」


と、その時。


日向「もう一回!!」


日向がそう叫んだ。
物足りない、まだやりたいと彼の顔が言っている。


猫又「おう、そのつもりだ!もう一回がありえるのが練習試合だからな」


その後、もう2試合。
どちらも烏野は負けてしまったけれど、最後はデュースに持ち込む試合となり、まさに高め合う試合だった。
もう3試合もやっているというのに、日向はもう一回と言い続けている。
どんだけ体力あるの、底なしじゃん。
けれど、音駒も新幹線の時間があるため今回はここで終わった。

選手たちは相手側の監督、コーチの所へ集まる。
私と潔子さんは一歩後ろに下がった場所で、烏養コーチと武ちゃんの話を音駒の選手と共に聞いていた。

"全国の舞台で、ゴミ捨て場の決戦をやろう"と残し、練習試合は幕を閉じたのである。

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