ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


2

黒尾「……そ!せいかーい!」

名前「おわっ!?」


突然肩に逞しい腕が回されて、肩を組まれた。
私の顔のすぐ近くには彼の顔があって、彼はニッと笑みを浮かべている。
その笑顔には、面影があった。


名前「……てっちゃん……?」

黒尾「そ。黒猫のてっちゃんです」

名前「……うそ。本当に、てっちゃん……?」

黒尾「こんな事で嘘ついてどうすんの」


そう言って、彼はわしゃわしゃと私の頭を豪快に撫でてくる。


名前「……本当に、てっちゃんだ」

黒尾「そうだって言ってるでしょーが」


むに、とほっぺを軽く摘まれる。
ようやく、私も実感が湧いてきた。


名前「うそ!!え、マジか!?めっちゃ久しぶりじゃん!!何年ぶりだろ、10年ぶり?あ、11年ぶりかな!?えええ、めっちゃデカくなったねぇ!!」

黒尾「そういう名前ちゃんはあんまり育たなかったねェ」

名前「おい」


自分と私の背を比べる素振りを見せるてっちゃんの手を軽く叩く。

彼は、黒尾鉄朗。
私はてっちゃんと呼んでいる。
てっちゃんのお父さんが私のお父さんと兄弟で、つまりてっちゃんは私の従兄弟なのだ。
だけど10年か11年くらい前に一度会ったきりだった。

あの時は本当に驚いた。
たまたま公園で会って一緒にバレーをした男の子、てっちゃん。
もう夕方だからと別れて家に帰れば、てっちゃんと彼のお父さんが家に来ていたのである。

その時、私は初めて従兄弟の存在を知ったんだ。
だけど当時はスマホも持ってなかったし電話番号も知らなかったから、それっきり連絡が取れなくなってしまっていたのである。


黒尾「本当に久しぶりだねェ。元気してた?」

名前「もちろん!めっちゃ元気だよ!騒ぎすぎてよく怒られてる」

黒尾「だろうな」

名前「なんでだよ」


つんつん、とてっちゃんの脇腹を突っついてやる。

なんか、昔と性格が全然変わったなぁ。
っていっても10年以上前に1回会ったきりだから、ちょっとあやふやだけど。
だけど昔はもっと引っ込み思案で、素直な感じだったような……。


黒尾「ちょっと、失礼な事考えてない?」

名前「いや、全然?」

黒尾「嘘つけ」

名前「いだっ」


脳天にチョップを食らった。
む、昔はこんな事してこなかったのに!!


名前「それにしても凄い偶然だね!まさかてっちゃんが音駒のバレー部で、しかも主将なんて!」

黒尾「俺も名前ちゃんが烏野のマネージャーやってるとは思わなかったなァ」


そう言いながら、さりげなく私の抱えていた大量の荷物を持ってくれるてっちゃん。


名前「あっ、ありがとう!」

黒尾「いーえ」


小柄な私だと荷物に潰されそう (と潔子さんに言われた) になっていた量なのに、てっちゃんはいとも簡単に荷物のほとんどを持ち上げてしまう。
うわあ、本当に大きくなったなぁ……。
昔会った時は私の方が大きかったはずなのに。


黒尾「なになに、俺に見惚れてんの?」

名前「いや全然」

黒尾「そうかそうか、見惚れたか。黒尾さんカッコイイもんなー」

名前「話聞け」


身長と一緒にウザさも増し増しになったな、おい。
いやでも、本当にルックスが良いのが若干腹立つ。


黒尾「……で?なんでバレー辞めちゃったの?」

名前「え」


思わず、足を止めてしまう。
てっちゃんは、何かを探るように目を細めて私を見ていた。
それはまるで、猫に様子を窺われているようだった。


黒尾「……2年前の中総体、テレビで見てた。名前ちゃん、出てたよね?2年連続優勝に導いた天才少女、とか言われてたっけ?」

名前「……昔の、話だよ」

黒尾「……ねェ。何があったの」

名前「……ううん、何もないよ」


そう言って、私はてっちゃんから荷物を受け取った。


名前「……みんなを支えたかった。だから今度は、コートの外からバレーと関わることにしたの。それだけだよ」

黒尾「……そ」


……ああ、きっとバレている。
嘘はついていない。
が、一番大きな理由はこれじゃない。
それはきっと、目の前の彼にもバレている。


黒尾「……じゃ、今日はよろしく」

名前「うん、よろしく!負けないからねー!?」


どうやら見逃してもらえたらしい。
てっちゃんはアップもしなきゃいけないし、忙しいからだろう。
大きな手が降ってきてもう一度頭をわしゃわしゃと撫でられる。
そして私は、一旦てっちゃんと別れたのだった。


*******


急いで荷物を整理して潔子さんの所へ向かい、ドリンクを作るために2人で水道へと向かう。
手分けしてドリンクを作っていると、音駒の1年生2人がドリンクバッグを持って現れた。
1人は背が高く、もう1人は背が低い凹凸コンビである。
音駒にはマネージャーがいないようだったし、1年生の仕事なのだろう。


名前「ねえ!それ、私たちがやっておくよ?」

「えっ!?」


突然声をかけられたせいか、その2人は驚いたようにこちらを見てきた。


「で、でも……」

名前「君らもアップしなきゃいけないでしょ?こっちはマネージャー2人いるし、音駒の分も作るよ。……潔子さん、いいですよね?」

清水「うん」


潔子さんの方を振り返って確認すれば、すぐに頷いてくれた。
すると、1年生2人は顔を見合わせてからガバッと勢いよく頭を下げてくる。


「ありがとうございます!」

「お願いします!!」

名前「はーい、任せて!」


ニカッと笑って見せれば、その2人も嬉しそうな笑みを見せてくれた。
"猫" というよりは "犬" のように人懐っこい笑みだ。
1年生可愛い!!
私がドリンクバッグを受け取ると、パタパタと2人は走って行く。
バッグからボトルを取り出していると、潔子さんがクスリと笑った。


清水「……名前って、すごく優しいよね」

名前「き、潔子さんの微笑み……女神!!(そうですかね!?潔子さんに言ってもらえると嬉しいです!!)」

清水「建前と心の声が逆だよ」

名前「やべ」


作るドリンクが増えても慣れた作業なので、2人だとあっという間だ。
テキパキとドリンクを作り終え、私は音駒の方にドリンクを渡しに行く。


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