ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


2

烏養「 ─── 苗字」

名前「あ、はーい!」


食堂で片付けをしていると烏養コーチに声を掛けられたので、食器を拭く手を止めて顔を向ける。


烏養「今日までの試合の記録、一通り見せてくれねえか?」

名前「わかりました!これ終わってからでもいいですかね?」

烏養「おう。忙しいのに悪いな」

名前「いえ!」


潔子さんはもう帰ってしまったので、ここからマネージャーは私一人である。
食器を拭き終えると、私は急いで部屋へと戻り、潔子さんから預かったノートを持ってコーチの所へと戻る。


名前「どうぞ!」

烏養「おう、すまねえな」


ノートは去年の試合記録と、4月からの全ての記録、そして個人技や能力などのデータを記録したもので十冊程にも及ぶ。
一番最近の試合記録は青城との試合だ。


名前「この青城との試合なんですが、青城の主将が初めは不在で、2セット目の後半からピンサーで入っていました。それに、3月の試合後からこの練習試合まで旭さんとノヤが不在だったので、チームのデータ的にはちょっと微妙ですね。なので個人技はこっちのノートに ─── 」

烏養「ちょ、ちょっと待て。これ全部お前が書いたのか?この量を?」

名前「あ、試合記録はほとんど潔子さんです。私はこっちの個人技の方を担当してます。って言っても私の目で見た限りのものですけど……あ、皆の健康状態は毎日チェックしてますよ」


烏養コーチはポカンとして私の顔を見ていた。


烏養「(いつもの喧しさからは想像がつかない程の敏腕っぷりだな……)」

名前「ちょっと、なんか失礼な事考えてません?」

烏養「いや全然 (棒)」

名前「棒読みですけども!?」


きっと、いつも喧しいのにとか何とか考えているのだろう。
どうせ喧しいですよ、私なんて。
烏養コーチはパラパラとノートを捲って眺めている。

暫くしてから、コーチの視線が私に移った。


烏養「……お前、もしかして経験者か?」


その言葉に、ドキッと心臓が跳ねる。


名前「……えっと、まあ、はい」

烏養「やっぱりか。これは経験者の着眼点ばかりだ」


うんうん、とコーチは1人で頷いている。


烏養「……実は相当いい所まで行ってたりすんのか?」

名前「あ……一応、中学の時に2年連続で全国優勝しました」

烏養「2年連続!?っつーと……千鳥山か!」

名前「はい」

烏養「そういや聞いたことあるな、千鳥山のエース・苗字とセッター・姫野の最強コンビってよ。そうか、お前か!なんだよ、お前そこそこ有名人じゃねえーか!」

名前「あはは、昔の話ですよ」


ヒラヒラと軽く手を振って、へらっと笑ってみせる。

本当にそれは、過去のこと。
あれからプレイヤーとして表舞台に立つことは無かったから、きっと私は忘れ去られた存在だ。
……それでいい、それでいいんだ。


烏養「なんで辞めちまったんだ?女バレもあるだろ?」

名前「……あ、えっと……それは……」


─── 私は、もう。
思わず、ジャージの左袖をキュッと握り締めた時。


日向「 ─── 苗字さーん!1年上がったんで、風呂どうぞ!」

名前「あっ、はいはーい!ありがとう!」


入り口から明るい声が聞こえてきた。
そちらへ顔を向ければ日向が手を振っている。
軽くお礼を言って、私は烏養コーチの方を向き直った。


名前「……私はもう、いいんです。今度はマネージャーとしてノヤを、皆を支えたかったから。じゃあ私、これで失礼しますね!」

烏養「お、おう……」


ペコッとお辞儀をして、私はパタパタと食堂を去る。
……だから、残った烏養コーチの独り言は聞こえなかった。


烏養「……訳アリだったか……」



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