ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


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─── 5月3日。

今はロードワーク中である。
だが誰かが怪我をしたり倒れたり迷子になったりした時のために、マネージャーも念の為参加する(さすがに高校生にもなって迷子はないと思うけど)。

暑い日差しの中で潔子さんにこんな重労働をしてもらうわけには絶対にいかない!
というわけで洗濯の方を潔子さんに任せ、私は自転車でみんなの横を走っていた。


日向「うおおおおらあああああ」


みんなが一定のペースで走る中、何やら張り切りすぎている人物が1人。
どうやら日向は影山と競走しているらしく、雄叫びを上げながら走っている。

日向観察日記。
今日も日向は元気いっぱいです。


澤村「日向!無駄に叫ぶと後でへばるぞ!……って日向!どこに行く……」


大地さんの声など聞こえていないようで、全力疾走する日向はどんどん走り去ってしまい、ついにはコースを外れてしまった。
足の速い日向なので、背中はあっという間に見えなくなってしまう。

……これはもしや、迷子?
高校生にもなって迷子なんて、と考えていたことがフラグになってしまっていたようだ。


澤村「……名前」

名前「はーい」

澤村「GO!」

名前「うおおおおおおお!!」

「「「「「犬!?」」」」」


大地さんの声を合図に、私は全力でペダルを漕いで日向の後を追った。

この辺の道は入り組んでいるため、しばらくあちこちを探し回れば、遠くにオレンジ色が見えた。
日向は見つけやすくていいなー。
つか、足疲れてきた。


名前「うぬおおおおお日向あああああ!!!」

日向「えっ、苗字さん!?」

名前「コース……ゼエゼエ……外れて、るよ……」

日向「すっ、すすすみません!」

名前「もー、ちゃんと周りを……」


見て、と言いかけて、私は途中で言葉を切った。
日向の陰に隠れて、誰かが座っていたからである。
なんだかこの辺ではあまり見かけない、真っ赤なジャージだ。


名前「あ、えっと……友達?」

日向「研磨っていうんですけど、迷子になっちゃったみたいで」

名前「迷子?大丈夫?この辺なら案内するけど……」

孤爪「……大丈夫……友達、呼んだから……」

名前「あ、そうなの?それならいいんだけど……」


なんだか、独特な雰囲気の子だ。
髪も金髪だが上の方は黒髪に戻りかけており……なんだかプリンみたいである(失礼極まりない)。


日向「研磨、この人は苗字名前さんだよ。マネージャーなんだ」

名前「こんにちは、初めまして」

孤爪「…どうも…」

日向「そうだ、研磨はポジションどこ?」

孤爪「……セッター」

名前「あ、研磨もバレーやるんだ」

孤爪「……うん。友達がやってるから……」

名前「そうなんだ!すごい偶然だねー!」


たまたま迷子同士で遭遇した上、お互いにバレー部員だというのは何とも面白い偶然である。
それにしても、研磨はセッターなのか。
影山みたいに超ストイックでバレー馬鹿な感じはなく、むしろ真逆の印象である。


日向「おれはミドルブロッカー!」

孤爪「……へー」

日向「やっぱり変だと思う?ミドルブロッカーは背のでかいやつがやるポジションだもんな」

孤爪「…まぁそうだろうけど…別に」


それほど興味無さげな返答をする研磨。
話を聞けば、どうやら研磨もよく同じようなことを言われてきたらしい。
セッターは1番能力の高い人がやるポジションなのにどうしてお前なんだ、と。
さすがにそれは言い過ぎだとも思うけど……。

うちの部員もバレー馬鹿や熱血タイプが目立っているので、研磨のように物静かなタイプもいるのだということを時々忘れてしまう。


日向「じゃあ、お前の学校強い?」

孤爪「…昔は強かったらしいけど一回衰えて…でも最近は、強いと思うよ」


まるで相手を射抜くような視線。
研磨の瞳を見た私は、なぜかゾクッと鳥肌が立った。

なんだろう、この感じ……。
ザワザワと胸騒ぎがした。

─── と、その時。


?「研磨!」


向こう側から声が聞こえた。
そちらを見てみれば……なんかトサカみたいな凄い髪形の人がいる。


孤爪「あ、クロだ」


研磨の声のトーンがほんの少しだけ明るくなった気がした。
恐らく、研磨が呼んだ友達なのだろう。


孤爪「じゃあまたね翔陽、名前」


そう言って研磨はヒラヒラと手を振り、友達らしき人のもとへと戻っていく。


?「……」

名前「……ん?」


私も研磨に手を振っていると、トサカみたいな髪型の人がじっと私を見ていた。
……何だろう?


孤爪「……クロ、行こ」

?「……あ、あぁ。悪い」


私から視線が逸らされて、その場を去っていく2つの赤いジャージ。
私は彼らの……正確にはトサカみたいな髪型の人の背中を、ぼんやりと見つめていた。

なぜ自分でも彼が気になるのかわからない。
ただ、言葉では表し辛い感情に支配されていく。
強いて表すとするなら……"違和感" 、だろうか。


日向「……苗字さん?」

名前「え?ああ、ごめんごめん!……ってやべ!日向、ロードワーク戻るよ!」

日向「あっ、はい!」


ロードワーク中だったことをハッと思い出した私。
日向を促して、私たちは急いでその場を去る。

…だけど、なんだろう。
この、懐かしい感じは ─── 。


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