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─── 1人では大きすぎる浴槽でゆっくりと足を伸ばして、しっかりと温まった私。
名前「にしてもやっぱ合宿は大変だなー……」
まだホカホカと体が火照る中、自分の部屋へ続く廊下を1人で歩く。
なんかこの合宿所暗くない……?
いや別に怖くはないけどさ?
……早く部屋に戻ろうか(震)
と、歩く足を少し速めた時だった。
田中「おー、風呂上がりか?」
名前「ぎゃああっ!!!」
田中「ばっか俺だよ!」
名前「た、田中!びっくりさせないでよ!」
田中「いや別にそんなつもりは……」
突然後ろから声をかけられて、飛び上がりながら振り返ればそこにいたのは田中である。
ああ、びっくりした!!
どうやら田中も風呂上がりのようで顔が少しだけ火照っている。
田中「そうだ、一年見てねえか?」
名前「いや、見てないけど……」
田中「そうか。いや、次一年風呂だからよ」
名前「部屋にいるんじゃない?」
そんな会話をしながら二人で歩く。
すると、ちょうど少し前の方に日向がいた。
名前「お、いいところに」
田中「本当だ。次、一年風呂だぞー」
日向に向かって声をかける田中。
……しかし、なんだか日向の様子がおかしい。
田中の言葉に反応せず、固まって突っ立っているのである。
田中「どうした日向」
田中が声をかけると、日向はようやくこちらを振り返った。
しかしその顔はなぜか青ざめており、日向はか細い声で話し始めた。
日向「知らない人がいるんです……この建物の中に……」
名前「え」
日向の言葉に、全身に鳥肌が立った。
その瞬間になんだか全方位から誰かに見られているような気がして、見えない針が体中に突き刺さってくるような感覚に襲われる。
田中「はあ!?んなわけあるか、今日ここ使ってんの俺たちだけだぞ」
日向「けどおれ見たんです!」
田中「……つか名前、そんな強くつかむな!Tシャツちぎれるだろうが!」
名前「やだむりこのままにしておねがい(ガクブル)」
田中「いや怖がりすぎだろーが!……ったく、わかったからそんな強く掴むな。……で、日向、どんな奴だったんだ?」
日向「……なんか、こども……」
名前「ひっ……」
こ、こ、こども……?
ゴクリ、と唾を飲み込む。
喉がカラカラに乾いていた。
日向「まさか……まさか、幽r」
田中「やめなさああい!!か、鏡に映った自分とかだろ!よし大丈夫だ、すぐみんなのトコに戻ろう大丈夫だ、大丈夫大丈夫。おい、名前も戻るぞ」
名前「やばい田中足動かない」
田中「はあ!?しっかりしろよ、大丈夫だって!」
完全に固まってしまった私の体。
田中に手を引かれて、私は何とか歩き出す。
……と、その時。
─── ヒタッ
背後で、足音が聞こえた。
名前・田中・日向「「「でたああああああああ!!!」」」
3人で同時に悲鳴を上げて飛び上がる。
恐怖のあまり、無意識に田中の背中に隠れるが……。
西谷「何騒いでんだ?大地さんに怒られるぞ」
名前「のっ、ノヤ!?」
田中「ってただのノヤじゃねえか!何が子供だ同じくらいの背のくせに」
現れたのは幽霊ではなくノヤだった。
よ、よかったあ……!!
途端に体から力が抜ける。
日向「ノヤっさん……?で、でも……ノヤっさんの身長が縮んだ怖いいい!」
名前「ブフッwwwち、縮んだwww」
田中「ブワーッハッハッハッ!!確かにお前は髪の分まで身長だぜ!」
西谷「龍、名前ー!!!笑ってんじゃねー!!!」
確かに風呂上がりのノヤはいつもは逆立てている髪を下ろしており、普段よりも小さい。
日向が子供と見間違えたのはノヤだったのだろう。
しかし、田中と一緒になってゲラゲラと笑っていたその時である。
……ぽん、と誰かの手がノヤの肩に置かれた。
西谷「ん?」
そこにいたのは、髪の長くて恐ろしい形相の、
?「あんまり騒ぐな、大地におk」
名前・田中・西谷・日向「「「「ぎゃあああああああああああ!!!!!!」」」」
東峰「俺だよ旭だよ!」
澤村「お前ら、うるさーい!!!!!!」
……その後、騒ぎを聞きつけた大地さんにめちゃくちゃ怒られた。
*******
名前「 ─── はぁ、やっと終わった……」
大騒ぎをしたせいで大地さんに連行された私たち。
長い長い説教から解放され、私はげっそりとして歩き出す。
すると、一緒にお説教を食らってたノヤが私に声をかけてきた。
西谷「……お前、部屋どこだ?」
名前「コーチと武ちゃんの部屋の隣だけど……?」
西谷「……送ってく」
ノヤは何故かムスッとした表情でそう言った。
あれ、なんか不機嫌……?
名前「……ありがと。でも、何か怒ってる?」
西谷「別に怒ってねーよ、行くぞ」
ノヤはそう言って、私の手を引っ張って歩き出した。
名前「……ねー、ノヤってば」
西谷「……うるせ」
やっぱり何か怒ってるじゃん、と私は口を尖らせた。
だが教えてくれそうもないので、それ以上は追及しなかった。
そこからはずっと、部屋の前まで沈黙が続く。
名前「……ありがと」
律儀に私の部屋の前まで送ってくれたノヤ。
着いてから、私はノヤにそう言って笑いかける。
すると、今まで黙り込んでいたノヤがやっと口を開いた。
西谷「……だよ……」
名前「え?何?」
ノヤにしては珍しく、小さい声。
だから上手く聞き取れず、私はもう一度聞き返す。
西谷「……何で龍と、手ェ繋いでたんだよ……」
名前「……へ?」
一瞬何のことだかわからず、私は記憶を遡った。
そういえばさっき、怖すぎて足が動かなくなってた時に田中に引っ張ってもらったような……。
……え、もしかしてそれを怒ってたの?
名前「……ブハッ!」
西谷「んなっ…何笑ってんだよ!」
名前「だ、だってさー!それってもしかして、田中に嫉妬したってこと?」
西谷「んなっ…!!」
名前「なんだなんだ、ノヤも可愛いトコあるじゃ〜ん!」
西谷「〜〜〜っ!!!」
─── ゴスッ
名前「いだいいいいいっ!!?」
その瞬間、今日一の鉄拳が私の頭に落ちた。
名前「ちょ、鉄拳て!女の子に鉄拳て!」
西谷「早く寝ろ!!!」
名前「ほぎゃっ」
ノヤは顔を真っ赤にしながらそう言って私を部屋に押し込めると、ズカズカと歩いて行ってしまった。
……一体何だったんだ???
不思議に思いながらもノヤの背中を見送り、私は部屋に入ったのだった。
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