ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


3

《名前 side》

─── 結局、試合は旭さん達の入った町内会チームが勝利した。


滝ノ上「なんつーか、まだ色々バラバラな感じだけど、ちゃんとまとまったらイイとこまで行けんじゃねーか?お前ら」


その言葉に私たちは目を輝かせる。
そして大地さんの号令に合わせて頭を下げ、町内会チームのみなさんを見送った。

その後烏養コーチの講評があり、「とにもかくにもレシーブだ」と課題を指摘される。
明日からさらに忙しくなりそうだ。


東峰「負けないからな」

日向「オス!!」


澤村「ちゃんとお前も復活したな、スガ」

菅原「うじうじくよくよいじいじしててすみませんでした」


……ああ、みんな笑ってる。
みんなが元に戻ったみたいで、本当によかった。
和気藹々とするみんなの様子を見ながら、私はせっせと片づけをする。

すると、


菅原「名前〜、ちょっとおいで〜」

名前「はい今行きますマイエンジェル!」


ハッとして振り返れば、スガさんが手招きをしている。
即座に作業を中断して、私はピューッとスガさんの元へ駆け寄った。


名前「お呼びですかマイエンジェル!」


多分、今の私は飼い主に呼ばれて喜んでシッポを振っている犬みたいになっていると思う。
一体なんだろうかとスガさんの言葉を待つが、彼は何も言わずになぜかニコニコしていた。

……私は知ってるぞ、この笑顔。
ただ笑っているのではなく、なにかを企んでいるような笑み。

……嫌な予感がした。


名前「……全力疾走ランナウェーーーイ!!!」

澤村「はい、逃げない!」

名前「ぎゃあぁ!!!」


咄嗟に逃げようとしたけど、いつの間にか私の後ろに回り込んでいた大地さんに捕まった。
いつの間に!!?


名前「は、は、背後取るのは卑怯です!!」

澤村「だったら俺ぐらい交わしてみろ元バレー部」

名前「無茶言わんでくださいこの瞬発力の塊め!!」

菅原「まあまあ名前!ほら、」


大地さんとスガさんに促されて前を見る。
そこには、真剣な顔で私を見つめる旭さんがいた。


名前「むむむ無理です!わ、私、今日何か異常に涙腺が年老いてるから話なんてしたらっ、(小声)」

菅原「頑張ってな (ニコッ)」

名前「スガさんんんん!!?」


トンッと背中を背中を押されて、私は前につんのめった。
ギョッとして振り返れば、相変わらずニコニコしているスガさん。
マイエンジェルが、ダークエンジェルと化していた。

……ああ、どうしよう。




東峰「……」

名前「……」


……な、なんだこの状況は。
き、気まずすぎるっ!

私と旭さんは体育館の隅の方で向かい合って立っていた。しかし、ずっと沈黙が続いている。
気まずすぎて旭さんの顔を見ることができない。

そして、そんな私たちを遠くから見守っている部員……。
……つーか野郎ども何みんなしてこっち見てんだ、余計気まずいだろうがっ!!
いつもみたいに騒いでくれ、特に田中とノヤ!!お願いだから!!!
あああもう無理だ、耐えられない!!何か喋んなきゃ!!


名前「……あっ、あのっ……旭さん、さっきのスパイクすごかったですよ!!す、スガさんとの連携もすごくよかったし、迫力もすごかったです!!ブロック3枚吹っ飛ばすんですもん、さっすがエース!!で、でも、日向と影山だって ─── 」


私は、過去最高レベルのマシンガントークを披露した。

……旭さん。
私は、あの日のことなんてもういいんです。
お願いだから、いつもみたいにお喋りしましょうよ。

……だけどその瞬間、旭さんは勢いよく頭を下げた。


東峰「 ─── あの日といい今日といい、本当にごめん」

名前「っ!!」


ギクリ、と思わず体が固まる。

……ああ、言われてしまった。
まさか、こうも直球でこられるとは思ってなかった。


名前「……あ、えと……わ、私は全然、あはは……」


私は一歩、一歩とゆっくり後ずさる。


東峰「……あの日のことを、後悔しない日はなかったよ。俺は、いつもお前に元気づけられてきた。お前の言葉にもその笑顔にも、ずっと励まされてきた。……あの日だって、お前は俺を励ましに来てくれたのに……俺は感謝するどころか、お前を傷つけて、ケガまでさせた。……今日だって、またお前を泣かせてしまった」

名前「ち、違うんです全部私が悪いんです!旭さんの気持ち全然考えないで私っ、」

東峰「名前は何も悪くない、悪いのは俺だよ」

名前「そんなことっ、……」


やめてください、と私は必死に頭を横に振る。


東峰「……謝ったって、取り返しのつかないことをしたのはわかってる」

名前「あ、旭さん、私そんなこと全然っ、」

東峰「 ─── だから!」


急に声を張り上げた旭さんに驚き、私はビクリと体を震わせて言葉を切った。


東峰「……埋め合わせになんてなるとも思えないけど……お前に迷惑かけた分、これからプレーで取り返していきたい。─── 必ず、お前を全国の舞台に連れて行くよ」


─── ああ、もう大丈夫だ。

ぶわっと何かが込み上げてきた。


名前「……あさひさあああああああんっ!!!!」


かつてこんなに、言われて嬉しかった言葉はあっただろうか。
私は溢れ出る涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、旭さんに思いきり抱きついた。
今汚いとか思ったやつ、後でおしりぺんぺんだかんなっ……!


東峰「わっ、 名前!!?」

名前「旭さん大好き愛してる一生ついて行きますぅ!!!(グスグス)」

田中「うっわお前、顔やばいことなってんぞ汚ぇ!」

名前「うるせー!坊主は黙ってそこでハゲてな!!」

田中「いやこれハゲじゃねーし!!!」

名前「あっ、田中あとでおしりぺんぺんな!」

田中「シュールすぎる!!!」

月島「…ティッシュありますけど」

名前「ツッキー愛してる」

月島「その呼び方やめてください」


それは、いつも通りのにぎやかな光景。

─── ああ、やっと繋がった。
私も、みんなと繋がったんだ。


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