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東峰「 ─── 思うよ」
突然そんな声が聞こえ、名前はハッと現実に引き戻される。
名前は、久しぶりに東峰の声をしっかりと聞いた気がした。
東峰はぐっと顔を上げて、真っ直ぐにコートの向こう側を見つめる。
東峰「何回ブラックにぶつかっても、もう一回、打ちたいと思うよ」
名前「 ─── っ!」
西谷とすれ違いざまに、東峰ははっきりとそう言った。
きっとそれは、西谷に向かって発した言葉なのだろう。
しかし名前には、彼のその言葉が嬉しかった。
昨日、日向と影山の前でバレーを続けることを拒絶するような発言をしていた東峰。
それでもやはり、彼はバレーが好きなのだと。
ブロックの恐怖を感じながらも、それ以上にバレーが好きなのだと。
そう思わせるような言葉で、名前の胸はぎゅっと締め付けられた。
西谷「 ─── それならいいです」
東峰「?」
西谷「それが聞ければ十分です」
東峰「??」
フ、と口角を上げた西谷。
東峰は西谷の言葉を聞いて不思議そうな顔をしているが、西谷はゆっくりと息を吸い、集中力を高めていた。
そして、試合が再開する。
日向が打ったサーブはネットに当たるが、ギリギリでネットイン。
町内会チームは体勢が崩されたものの、ボールはまだ落ちていない。
「 ─── そこのロン毛の兄ちゃん、ラスト頼む!」
名前「……旭さん」
ラストを託された東峰。
名前は思わず、彼の名前を口にしていた。
東峰は高く跳び上がる。
今までに何度も見てきたそのフォームが、酷く懐かしく感じられた。
しかしそのスパイクは、惜しくも影山とツッキーと田中の3枚ブロックに止められてしまう。
東峰が空中で、悔しそうに顔を歪めた、その時であった。
名前「……あ!!!」
名前は目の前の光景に、思わず声を上げていた。
飛び出してきた小さな手が、ボールと地面の間に滑り込んできたのである。
─── 上がった!!!
西谷がブロックフォローに入り、スーパーレシーブを繰り広げたのであった。
名前「ノヤっ!!」
田中「ノヤっさァァァん……!!(涙)」
田中なんてもう半泣きだ。
部活停止期間中にブロックフォローの練習していた、と西谷から聞いたのを思い出したのである。
目の前で繰り広げられる展開に、名前はぎゅっとノートを握りしめる。
─── 俺の仕事は、ただひたすら繋ぐこと。
"空" はスパイカーたちの領域で、俺はそこで戦えないけど、
繋げば、繋いでさえいれば、きっとエースが決めてくれる。
壁に跳ね返されたボールも、俺が繋いでみせるから、
だから、
西谷「 ─── だからもう一回、トスを呼んでくれ!!エース!!」
拳一枚、厚さ約2cm。
ボールと床の間のたった "2cm" が、
エースの命を、
烏野の命を、
─── 繋ぐ。
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