ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


2

─── 3月に行われた県民大会。
対戦相手は伊達工。
"伊達の鉄壁" と呼ばれるほど、優秀なブロッカーが多い学校である。

伊達工との試合は白熱していたが、東峰のスパイクが何度もブロックに捕まった。
それでも俺に持ってこいとトスを呼び、何度もスパイクを打つ東峰。

……しかし、試合終盤。
第2セット24対15で、伊達工のマッチポイントとなった時。
─── 東峰は、トスを呼ばなかった。
彼から闘志が消えてしまったのが、観客席にいた名前にもわかった。
結局その試合は烏野の敗北となり、県民大会は終了した。


─── 学校に戻ってきて、意気消沈しながら体育館の掃除をする部員達。
そんな彼らを気に掛けながらも、名前は調理室で一人、おにぎりを作っていた。

正直、名前も泣きたいくらい悔しい。
だけど、観客席で応援することしかできないマネージャーの自分以上に、直接対決をしてきたみんなの方が悔しがっているのを知っていた。

マネージャーは、そんな選手たちが前に進むための手助けをしなければならないのだ。
今名前にできることは、皆が大好きなおにぎりを作って食べてもらって、少しでも笑顔になってもらうこと。

きっとこれを食べれば、少しは元気も出るはず。
時間はかかっても、また笑顔が戻ってくるはず。
今の悔しさをバネに、皆が今後も練習に励むための力になりたい。
そんな思いを込めて、名前はせっせとおにぎりを作っていた。

─── 体育館では、あんなことが起こっているとも知らずに。


*******


西谷「 ─── くそっ」


西谷はそう吐き捨てて、モップを壁に叩きつける。
カランッと無機質で空しい音が響いた。


西谷「ブロックのフォロー……全然できなかった……!!」

東峰「 ─── !?なんでだ!!」


悔しそうに西谷が言った瞬間、黙っていた東峰がそう怒鳴った。
東峰は、見たことも無いような形相で西谷を睨みつけていた。


東峰「なんで責めない!?俺のせいで負けたんだろうが!!お前がいくら拾ったってスパイクが決まんなきゃ意味ないんだよ!!」

澤村「旭!!」


澤村の制止を物ともせず、東峰はそう吐き捨てる。
……そんな東峰の表情には、苦痛の色が浮かんでいた。


西谷「…意味ないって何ですか…」


そんな中、西谷はゆっくりと口を開く。


西谷「じゃあ何で最後トス呼ばなかったんですか。打てる体勢でしたよね」

菅原「や、やめろよ西谷!俺が旭にばかりボール集めたから疲れて……」

東峰「……俺に上げたってどうせ決めらんねーよ」


その言葉を聞いた瞬間、西谷は怒りで顔を歪ませ、勢いよく東峰の胸倉に掴みかかった。


西谷「打ってみなきゃわかんねーだろうが!次は決まるかもしれないじゃねーか!」

菅原「西、!」


西谷に押されて後ずさった東峰は先ほど西谷が倒したモップを踏み、それはバキッと音を立てて真っ二つに折れる。
止めに入ろうとした菅原だったが、その光景を見て思わず言葉を切ってしまう。


西谷「俺がつないだボールを、あんたが勝手に諦めんなよ!」

田中「やめろノヤ!」


止めに入った田中が西谷を羽交い絞めにして抑え込むが、それでも西谷は暴れた。


西谷「俺はリベロだ!守備の要でチームの要だ!けど!……俺に点は稼げない」


そう言って悔しげな顔をする西谷。
そこで彼は、ようやく暴れることをやめた。


西谷「…俺は…攻撃ができない。でも、どんなにスパイクが決まんなくたって責めるつもりは微塵もねぇ」


その口調は先ほどとは違って静かであり、穏やかにすら聞こえる。
だが、ぐっと東峰を見上げた西谷の瞳には強い意志が宿っていた。


西谷「 ─── だけど、勝手に諦めんのは許さねぇよ」


それを聞いた東峰はスッと息をのむと、みんなの制止も聞かずにその場から立ち去ってしまう。
皆が東峰を呼ぶ中、西谷だけは彼を呼び止めず、ギュッと力いっぱい拳を握りしめていた。

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