ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


1

《名前 side》

─── その後の授業を何とか乗り切り、部活の時間となった。
正直気が重いけど、休むわけにはいかない。
今日は潔子さんが部活に少し遅れるらしいし、私が休めばまたみんなに心配と迷惑をかけてしまう。


名前「ちわーっ!お願いしゃすっ!!」

菅原「おー、お疲れ名前」

名前「お疲れ様でーすっ!」


大丈夫、笑えてる。
零れる寸前だった涙は、もうとっくに引っ込んだ。


田中「 ─── ノヤっさん、あんたマジかっちょいいやつ!」


隅の方にバッグを置いてドリンクの準備をしようとすると、聞こえてきた声。
そちらを見れば、なぜか田中が泣いていた。


名前「え、何泣いてんの田中」

西谷「いや、よくわかんね」


近くにいたノヤと一緒に頭に?を浮かべる。
するとガラガラッと扉が開いて、武ちゃんがやってきた。


武田「おつかれさまー!」

澤村「!集ご……えっ!?」


いつも通りに大地さんの号令がかかりかけて、その声が途中で途切れた。
私たちも呆気にとられてそちらを見る。

武ちゃんは、一人ではなかったのだ。
……いやもちろん、彼女を連れてきたとかそういうのではなく。


武田「紹介します!今日からコーチをお願いする烏養君です!」

澤村「コーチ!?本当に!?」


なんと、武ちゃんが私たちのコーチを務めてくれる人を連れてきてくれたのである。
しかし武ちゃんが紹介したコーチとは、どう見ても坂ノ下商店の兄ちゃんだ。

でも武ちゃんいわく、この人は烏野高校排球部のOBで、おまけにあの名将烏養監督のお孫さんだという。
ひえぇ、身近にすごい人がいたもんだ。


烏養「時間ねぇんだ、さっさとやるぞ!お前らがどんな感じか見てぇから18時半から試合な!」


しかも、いきなり練習試合をするという。
えっ、そんな急に!?


烏養「相手はもう呼んである。 ─── 烏野町内会チームだ」

全員「「「!!」」」


みんなは驚きで目を瞬かせており、一気に緊張が走る。
今日は潔子さん遅れてくるのに……。
とりあえずドリンクと必要な物を用意しなければと、私は慌てて準備に取り掛かるのだった。



─── それから暫くして。


烏養「くっそー、やっぱこの時間に全員は無理か……」


携帯をパタンと閉じ、眉を顰める烏養コーチ。
その一方で体育館には続々と町内会チームの人が集まっており、彼等には「急に来てもらって悪いな!」と声をかけている。

……あれ、思ったよりもみんな若い。
町内会っていうから自分の親と同じくらいの年齢の人達が来ると思っていたが、コーチと同じくらいの年齢な感じがする。
コーチと仲良さげだし、同級生とかなのかな?

すると、体育館の壁際で突っ立っているノヤに烏養コーチは目を付けた。
旭さんが戻るまでは部活に戻れないと言ったノヤだったが、町内会チームのリベロが仕事で来られないらしく、ノヤは町内会チームへ入ることになった。
何も言わずにコートに入ろうとするノヤをスクイズボトルを抱えながら見ていると、


日向「 ─── アサヒさんだっ!!」

名前「っ!!」


─── ガタンガタンッ!

ふいに耳に入ってきた日向の声に、抱えていた数本のボトルが私の腕から滑り落ちた。


名前「あっ、ごめんなさっ……」


とっさに謝るが、みんなは体育館の入り口の方に釘付けになっていて、私がドリンクを落としたことには気づいていないようだ。
……近くにいたノヤだけが私の様子に気づいたようで、こちらに駆け寄ってきて床に転がったボトルを拾ってくれる。


名前「……ご、ごめん。ありがと」


ノヤからボトル受け取り、お礼を言う。


烏養「なんだ遅刻かナメてんのか!ポジションどこだ!」

東峰「あっ、えっ、WS……」

烏養「人足んねえんだアップとってこっち入れ、すぐ!!」


入り口ではそんな会話が繰り広げられている。
ノヤは何も言わず、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。

……だけど今、彼の視界に映っているのは私ではなく。
─── 黒いジャージに身を包み、手にはシューズを持って体育館に踏み入る、旭さんだった。

……ああ、心臓がうるさい。息が苦しい。
ドリンクを置き、興奮している様子の田中と日向を横目に、私は胸を抑える。
しかし私とは違い、ノヤは真っ直ぐに旭さんを見ていた。


烏養「あとはセッターか…。俺やりてえけど外から見てなきゃだしな…。お前らの方からセッター1人貸してくれ」

菅原・影山「「!」」

烏野にセッターは2人しかいない。
どちらが行くのだろうかと、視線をノヤからスガさんと影山へ移す。
コーチの言葉に反応したスガさんと影山だったが、動いたのはスガさんだった。
まるで、何かを決意したような表情だった。


影山「……俺に譲るとかじゃないですよね?菅原さんが退いて俺が繰り上げ……みたいなの、ごめんですよ」


スガさんを呼び止め、影山は鋭い目付きで言い放つ。
ピリッと空気が張りつめて、口出しする者はおらず、誰もがその光景を静かに見守っていた。

すると、スガさんは少し苦しそうな表情になった。


菅原「……俺は、影山が入ってきて……正セッター争いしてやるって反面、どっかで……ほっとしてた気がする。セッターはチームの攻撃の "要" だ。一番頑丈でなくちゃいけない。でも俺は、トスを上げることにビビってた…。俺のトスでスパイカーがまた何度もブロックにつかまるのが怖くて、圧倒的な実力の影山の陰に隠れて。安心、してたんだ……!」


スガさん……。
旭さんがブロックを恐れたように、トスを上げるスガさんも、怖かったんだ。
未だ鮮明に思い出せるあの試合は旭さんだけではなくて、スガさんの心にも傷を負わせていたんだ。

初めて聞くスガさんの本音に、私は思わずジャージの胸元を握りしめる。


菅原「……スパイクがブロックにつかまる瞬間を考えると、今も怖い。……けど、」


それまでずっと俯いていたスガさんが顔を上げる。
その瞳は、真っ直ぐに旭さんを見ていた。


菅原「もう一回、俺にトス上げさせてくれ、旭」


……ずっと、待ってた。
この時を。

「ナイスレシーブ頼むよ」とノヤに声をかけるスガさん。
ノヤは「当然ッス」と力強く頷く。

……ずっと、待ってた。
また、スガさんのトスで旭さんがスパイクを打つのを。
ノヤが、旭さんと同じコートに立つのを。


─── そして、練習試合が始まった。
試合形式でスガさんのトスを見るのは久しぶりな感じがする。
スガさんから上がったトスを町内会チームの滝ノ上さんが打ち込み、点が決まった。


日向「菅原さんの速攻……!」

澤村「そらお前、スガだってれっきとしたセッターなんだからなっ」


相手チームの得点にも関わらず、日向は初めて見るスガさんのセットアップに目を輝かせている。
感動している日向をら見た大地さんは、得意げに語る。

……ああ、大地さんも嬉しそうだ。
私だって、コートに立つみんなを見れるのはすごくうれしい。

─── あの時は、もう元に戻らないんじゃないかってすごく不安だった。

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