ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


3

《東峰 side 》


─── 俺は一体、何をやっているんだ。

その日の放課後。
俺は、後悔に苛まれながら帰路につこうとしていた。
脳裏にあるのは先ほどの光景。

─── 遠くからでもわかった、あの子の泣きそうな表情。
やっと訪れた、あの子に謝るチャンスだと思ったのに。
いざあの子を目の前にすると声が出なくて、足が動かなくなってしまって。

……つい、目を逸らしてしまった。


"東峰「来るなっ!!!」"

"東峰「しつこいんだよさっきから!」"

"東峰「俺をわかったように口を利くな!!」"



俺は一体、何度あの子を傷つけてしまうのだろう。

─── そんなことを考えながら歩いていると、懐かしいボールの音がした。
気づけば俺は体育館への渡り廊下で足を止めていて。
無意識のうちに、体育館を覗いていた。
そこにいたのは、昼休みにやってきた一年生の2人。


日向「おっしゃ!対ネコ戦も速攻決めるぞーっ!!」


……ネコ?ネコって、音駒高校のことか?
まさかあの音駒と、試合!?


澤村「 ─── GW最終日に練習試合なんだ」

東峰「げっ!」


突然後ろから聞こえてきた声に、思わず声を上げた。
慌てて俺はその場から逃走を図る。


澤村「げってなんだ!おい逃げるな!」

東峰「だってお前、怒ると怖いんだもん!」

澤村「今別に怒ってないだろ!」


……ちょっと怒ってるだろ。
今のは怒ってる時の声だ。
俺は逃走をやめて、大地の話に耳を傾ける。


澤村「……まあ俺達からすれば音駒のことって昔話見たいな感じで聞いてたし、今の代の烏野と音駒に何か因縁がある訳じゃない。でも、"ネコ対カラス、ごみ捨て場の決戦" !よく話に聞いてたあのネコと今、俺達が数年ぶりに再戦ってなると、ちょっとテンション上がるよな」


音駒の話は何度か聞いたことがあり、知っている。
去年、烏養監督が戻ってきていた一時期に、楽しそうに語っていた監督をよく覚えている。
また一緒に試合ができたら監督が喜ぶだろうと考えたことも。

大地のその言葉は、まるで俺もその試合に参加すると思っているかのような……俺がまだ一緒にバレーをしているかのような、そんな口ぶりだった。
……だけど、俺は。


東峰「……けど俺は、スガにも西谷にも……何より名前に、合わせる顔がない」

澤村「……ったくお前は、デカイ図体して相変わらずへなちょこだな!西谷と対極にもほどがある!」

東峰「……も少し言葉をオブラートに包めよ……」


かなりダイレクトな物言いだ。
基本的にみんなに優しい大地だが、昔からなぜか俺にだけには厳しい。


澤村「安心しろ!スガはもちろん、西谷も問題ない!お前と違って懐が深いからな!」

東峰「……お前って基本優しいキャラじゃなかったっけ?」

澤村「お前は対象外だ、へなちょこだからな!」

東峰「……」


大地は相変わらず、俺への扱いがひどい。
大地はその場を去っていくが、途中でふと足を止める。


澤村「……ひと月もサボったこととか、なんか色々気まずいとか、来辛いとか、そういうの関係ないからな。……まだバレーが好きかもしれないなら、戻って来る理由は十分だ」


バレーが、好きなら……?

大地はこちらを振り返らない。
しかし何となくどんな表情をしているのかが想像でき、同時に大地の背中の大きさを思い知った。


澤村「それと、エースに夢抱いてる奴もいるんだからな」


こんな、俺に……?
今日来た、あの一年生のことだろうか。
思い返していると、ドスッといきなり肩を殴られる。


東峰「痛っ!」

澤村「……アイツだって、ずっとお前のことを待ってる。お前が来なくなってから、アイツが心から笑ってるのを見てないんだ」

東峰「っ!!」


大地は "アイツ" としか言わなかったけど、あの子のことだとすぐにわかった。


"名前「わっほーい旭さん!!お疲れ様でーすっ!!」"

"名前「旭さーーーんっ!!次の差し入れ、何がいいですかっ!?」"



いつも俺の背中に抱き着いてきていたあの子。
あの子の俺を呼ぶ声と明るい笑顔は、脳内で鮮明に蘇る。
なぜなら、あの子の事を思い出さない日は無かったから。

……それなのに。


"名前「旭さんっ!」"


名前が、笑ってない……?
名前が、俺を待ってる……?


東峰「……そんなわけ、ないだろ」


俺は、あの子を傷つけたんだ。
二度も。

大地は、何も言わずにその場を去って行ってしまった……。

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