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─── 翌日の昼休み。
私は三年生の教室へと向かっていた。
手には、ラッピングされたサポーターを持って。
あの人に会うのはいつぶりだろう……。
受け取ってもらえなかったら、また拒絶されたら、とか考えると凄く怖い。
だけど、今のままでいる方が嫌だ。
バクバクと大きな音を立てる心臓を無視し、歩いていく。
……が、私は途中で足を止めた。
名前「っ!!」
三年三組の前に、旭さんが立っていたからだ。
しかも、旭さんは一人ではなかった。
名前「日向……影山……?」
旭さんとは面識のないはずの二人が、何かを話していた。
東峰「けど、悪いな……俺は高いブロック目の前にして、それを打ち抜くイメージみたいなのが全然見えなくなっちゃったんだよ……」
名前「 ─── っ!!」
日向と影山が何を話しに来ていたのかはわからなかったが、ふいに聞こえてきた旭さんの言葉。
それは紛れもなく、バレーの話で。
─── まるで、バレーを拒絶するかのような言葉で。
彼の言葉に、目の前が真っ暗になるのを感じた。
……もしかして。
旭さんはもう、部活に戻って来るつもりはない……?
その後も日向や影山が旭さんに何か言っていたようだが、私の耳には全く入ってこなかった。
旭さんが、部活を辞める……?
あの力強いスパイクも、スガさんとの連携も見られなくなるの?
いざという時にとても心強いあの大きな背中を、見ることはできなくなるの……?
……目の前が、ぼやけた。
こみ上げてくるものを抑えるのに、必死だった。
そして気づけばチャイムが鳴っており、日向達はその場を去っていて。
東峰「 ─── っ!!」
名前「っ!!」
……こんな状態なのに。
振り返った旭さんと、目が合った。
名前「……あ、……」
彼の名前を呼びたいのに、声が出ない。
彼の元へと走り出したいのに、足が動かない。
すると ─── 。
東峰「……っ、」
旭さんが何か言いかけて、
─── 気まずそうに、そして苦しげに、私から目を逸らした。
……ああ。もう遅いんだ、全部。
私の中で、何かが崩れる音がした。
─── ダッ……
私は、その場から逃げるように走り出す。
東峰「っ!!まっ……!」
旭さんが何か言いかけたような気がしたけれど、振り返らずに私はそのまま走り去る。
そして自分の教室まで逃げてきて自分の席に着くなり机の中にサポーターを突っ込み、私はそのまま机に突っ伏した。
……もう、苦しいよ。
どうしたらいいのかわからないよ。
旭さんの苦しげなあの顔が、頭から離れない。
ズキズキと、胸が痛かった。
西谷「……名前?おい、どうしたんだ?泣いてんのか?」
突然降ってきた声にハッとして顔を上げる。
いつの間にやって来たのか、2つ前の席のノヤが目の前に来ており、心配そうに私を見下ろしていた。
名前「……んーん。寝てただけ」
西谷「寝てたって……お前、さっき戻って来たばっかじゃねえか」
名前「寝てたの!一瞬で寝た!」
西谷「?」
涙が零れなかったのが幸いだった。
何でもないと言って無理やり笑顔を貼り付け、ノヤを席に追いやる。
机に突っ込んだサポーターは、強く握りすぎたせいかラッピングがぐしゃぐしゃになってしまっていて。
まるで、私の心の中を表しているみたいだった。
……このままなんて、いやだよ。
旭さん ─── 。
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