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西谷「 ─── だからよー、サッと行ってスッとやってポンだよ」
部活終了後、ノヤは早速レシーブ苦手組に指導をしていた。
しかしノヤの説明に、日向、ツッキー、ぐっちーは頭に?を浮かべて首を傾げている。
それを遠くから眺めていた私の隣で、田中は溜息を吐いた。
田中「…だめだ、本能で動く系の奴は何言ってんのかさっぱりわからん」
名前「相変わらず擬音語が多い……」
すると、隣にいた影山が目をパチクリさせて私と田中を見てきた。
影山「そうですか?俺何となくわかりましたけど」
田中「ちなみにお前がなんか説明するときも何言ってんのかわかんねえからな!バッ!とかグワッとか」
影山「え」
名前「影山もなの?なんか意外〜」
影山の試合中の頭の回転の速さには目を見張るものがあるけど、どうやら理屈ではなく本能で動いているらしい。
本能とか、野生児かよ……。
さて、私はノヤの通訳でもしにいくかな。
西谷「てめえさっきからデケえな、何センチだ!」
山口「ツッキーは、」
月島「山口うるさい」
山口「ごめんツッキー」
名前「あはは、ツッキーはぐっちーに厳しいねぇ」
ひょいとノヤ達に混ざれば、ノヤはツッキーに身長を聞き、ぐっちーが代わりに答えようとしてツッキーに睨まれているところであった。
ツッキーとぐっちーって、昔からこんな感じだったのかな。
そんな事を考えていると、ツッキーの視線が私とノヤに移る。
月島「……苗字さんと西谷さんって、どういう関係なんですか?」
名前「え?ああ、言ってなかったっけ?ノヤは私の幼馴染みなの。しかも幼稚園の時からずっと同じクラスでさ、面白くない?」
山口「へえ、そうなんですね!凄い偶然!」
名前「でしょ?」
月島「……ふうん。それだけですかぁ?」
名前「ん?」
なぜかニヤニヤしながら私たちを見下ろすツッキー。
それだけかって言われても……。
小さい頃からずっと一緒だということ以外、特に思いつかない。
名前「えー?ねえ、他に何かあったっけ、」
と言ってノヤの方を振り返ると、
西谷「〜〜〜っ!!!///」
名前「……え、何。どしたの」
ノヤはなぜか顔を真っ赤にしてツッキーを睨みつけていた。
そういえばツッキーも、私というよりノヤを見てニヤニヤしている気がする。
一体何事だ?
名前「ねえ、ホントにどしたのノヤ」
西谷「う、うるせえ!お、お前はちょっと黙ってろ!!///」
名前「いや急に理不尽!!」
月島「えー、もしかして苗字さん、気づいてないんですかぁ?」
名前「え、何を?さっきから何の話してるの?」
月島「西谷さんって、」
西谷「月島コラァ!!てめ、それ以上喋んな!!」
名前「え、ちょ、何!?ノヤが何!?」
西谷「聞くんじゃねぇ!!」
名前「いやめっちゃ気になるんだけど!?気になって気になって夜も眠れないかと思いきや眠れるんだなこれが」
西谷「いや眠れんのかよ!!」
田中「まあまあ名前、あんまり詮索してやんなよ(笑)」
名前「えー……」
澤村・菅原「「……今日も平和だ」」
何だったんだろう。
ノヤに聞いても怒られるし、ツッキーは相変わらずニヤニヤしてるし、挙句の果てには田中に止められた。
気になるが、これ以上詮索しても無駄そうなので私は渋々引き下がる。
するとそこへ、日向が「あの、」と声を上げた。
日向「西谷先輩、さっき言ってた旭さんって誰ですか?」
名前「っ!」
一瞬にして、その場の空気が張り詰めた。
……その名前を聞くたびに、未だに私の心臓は大きな音を立てて跳ね上がってしまう。
田中「バカッ、不用意にその名前を出すな!」
西谷「……烏野のエースだ、一応な」
焦ったように日向を止める田中だったが、ノヤは少しだけ眉間に皺を寄せて日向の質問に答えた。
一応、という部分を強調して言ったノヤだったが……。
エースに憧れを抱いている日向は、ノヤの言葉にキラキラと目を輝かせていた。
日向「おれ、エースになりたいんです!」
西谷「……あ?エース?その身長で?」
ノヤの言葉に、日向は悲しげに肩を落とした。
きっと、今までに何度も言われてきた言葉なのだろう。
その身長でエースなど、夢のまた夢だと……。
しかしノヤは、ポンッと日向の肩を叩いた。
西谷「いいなお前!だよな、かっこいいからやりてぇんだよな!いいぞなれなれ、エースなれ!今のエースよりよっぽど頼もしいじゃねぇか!」
その言葉に、私の胸はズキリと痛む。
……やっぱりもう、戻れないのかな。
西谷「 ─── けどよ、試合中会場が一番ワッと盛り上がるのは、どんなすげえスパイクより、スーパーレシーブが出たときだぜ。……高さ勝負のバレーボールで、リベロはちっちぇえ選手が生き残る唯一のポジションなのかもしんねぇ。けど俺は、この身長だからリベロをやってるわけじゃねぇ。たとえ身長が2メートルあったって、俺はリベロをやる」
ノヤは、自分のポジションに誇りを持っている。
そんなノヤは、キラキラと輝いていて眩しい。
彼は、目がくらむほどにかっこいい。
西谷「スパイクが打てなくても、ブロックができなくても、ボールが床に落ちさえしなければ、バレーボールは負けない。─── そんでそれが一番できるのが、リベロだ」
日向「かっ!かっこいいーーーっ!!」
西谷「ばっ、バカヤロウ!そんなハッキリ言うんじゃねえよ、んニャロー!ガリガリ君2本食うか、ナシ味とソーダ味!」
日向「オス!」
─── ああ、この二人はいいコンビになりそうだ。
わいわいと騒ぐ2人を見て、私は笑みを零す。
ノヤの力強い言葉に、みんなが今までどれだけ助けられてきたことか。
……それに比べて、私は。
脳裏を駆け巡る記憶に、思わず左腕の袖を掴む。
─── 私は、あの人を傷付けた。
やっぱり私には、みんなを支えることはできないのかもしれない。
澤村「……名前、どうした?何かあったのか?」
名前「!…いえ、何でもないです大丈夫!今日の夕飯何かなーって!」
澤村「……そうか」
突然、ポンと肩に手が置かれて驚いて顔を上げれば、大地さんが少し心配そうな顔で私を見ていた。
慌てて首を横に振り、いつものようにニヒッと笑ってみせる。
……だけどやっぱり、このままじゃダメだ。
ちゃんと謝りに行こう、旭さんのところへ。
(待ってるばかりじゃダメだ)
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