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名前「 ─── ノヤ、待って!」
外に出れば、ズカズカと大股で去っていくノヤの背中を見つけた。
何とか追いついてパシッとノヤの腕を掴めば、彼は足を止める。
だが、こちらを振り返ってはくれなかった。
西谷「……なんでだ?」
名前「え……?」
西谷「何で黙ってたんだよ、旭さんが戻ってねえこと」
名前「……ごめん」
いつもよりも低い、怒ったような声。
私はただ、謝ることしかできなかった。
謝って、視線を地面に落とす。
……ノヤ、私は……。
名前「……ごめん、ノヤ」
ノヤの腕を掴む手に、力を込める。
私はただ、あんたに戻ってきてほしかっただけなんだ。
名前「だけどお願い、戻って来て。……私、あんたがあそこに居ないと嫌。ノヤがコートに居ないと……すごく、寂しいの」
西谷「っ!?……名前、」
私の言葉に、勢いよくノヤは振り返る。
驚いたような、困惑したような薄茶色の瞳と目が合った。
彼の瞳に映る私は今、どんな顔をしているのだろう。
……しかし、その時だった。
日向「レシーブ教えてください!」
突然後ろから聞こえてきた明るい声。
振り返れば、見慣れたオレンジ色がふわふわと風に靡いていた。
どうやら、いつの間にか日向が私達を追いかけて来ていたらしい。
日向の目は、いつものようにキラキラと輝いている。
日向「ニシヤさん、リベロですよね!?守備専門の……」
西谷「ニシノヤだ」
日向「あっ、スミマセッ…」
西谷「何で俺がリベロだって思う?ちっちぇえからか?」
日向を警戒しているのか、普段よりも声色が厳しい。
しかし日向はそれに気付いているのかいないのか、そのまま言葉を続けた。
日向「えっ?……いや、レシーブが上手いから……」
西谷「……」
日向「だってリベロは小さいからやるポジションじゃなくて、レシーブが上手いからやれるポジションでしょ?…あっ、ですよねっ?」
西谷「!」
名前「…日向…」
西谷「お前…よくわかってんじゃねーか」
日向の言葉でノヤの警戒心が解れてきたようで、ノヤはフと小さく笑みを浮かべる。
日向「あと主将が守護神って言ってたし!」
西谷「守っ!?な、そん、なんだそれ……そんな大げさな呼び方されたって俺は別にっ……」
"守護神" という言葉を聞いて、途端に顔を赤らめてソワソワしだすノヤ。
……こうなったらもう大丈夫だろう。
単純なノヤは、面白いくらいに上手く日向のペースに乗せられてきている (日向は意図してないのだろうが)。
私は、掴んでいたノヤの学ランから手を離した。
西谷「…ホントに言ってた?」
日向「(コクコク)」
西谷「そっ、そんなカッコイイ名前で呼んだってなァー!俺は、そう簡単にはなァー!チクショー、大地さんめえええっ!」
……これは、完全に浮かれている。
昔から変わらない部分でもあるが、あまりにも単純な幼馴染みに私は小さく吹き出した。
しかしその一方で、日向は少し自信なさげな表情を浮かべていた。
日向「おれ…まだレシーブへたくそで…バレーボールで一番大事なトコなのに…」
少し落ち込んだトーンで話す日向。
恐らく、及川さんのサーブのことを思い出してるのだろう。
あの練習試合でもし及川さんが最初から試合に出ていたら、自分はきっとマトモな攻撃をさせてもらえなかっただろうと、身に染みて実感しているのかもしれない。
日向「だから、レシーブ教えてください!西 ─── ……西谷先輩!!」
西谷「なっ……!!!」
"西谷先輩" 。
その一言が決め手となった。
ガシッと日向の肩を掴むノヤ。
西谷「お前…練習の後で…ガリガリ君奢ってやる…」
日向「えっ!?」
西谷「なんつっても俺は ─── 先輩だからな!!」
日向「っ!それじゃあ、」
西谷「でも部活に戻るわけじゃないからな!お前に教えてやるだけだからな!」
日向「あざーっす!!」
ノヤは張り切ったような顔で鼻息を荒くし、意気込んでいる。
日向って、実は天然おだて上手なのかな。
びっくりするくらいノヤを乗せるのが上手い、無意識のうちにツボを心得ているというか。
何にせよ、日向には助けられてばかりだ。
名前「…ありがとね、日向」
日向「え?何がですか?」
名前「んー、いろいろ」
日向「いろいろ……?」
日向に感謝を伝えるが、もちろん彼はよくわかっていないようで、口をパクパクさせていた。
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