ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


2

澤村「挨拶!!」

「「「お願いしあーす!!」」」

日向「でっ…でかいっ…!体育館もっ…人もっ…!」


さっそく日向が呑まれているようで、カタカタと震えていた。
全員の能力が高くて他所の高校ならエースになれるような人が揃っており、ブロックが強力なところだと、大地さんとスガさんが少し緊張した面持ちで話している。

すると、そんな2人に田中が言った。


田中「どうしたんスか、二人とも!それ引っ掻き回す為の日向じゃないですか!…なあ!」


おいいいいい田中ァァァーーーっ!!!
またもや日向に無自覚にプレッシャーを与える田中。
私は慌てて田中の腕を掴むが、


田中「まあ、お前が下手くそなのはわかってっから、カバーは任せろ!」

日向「っ!」

名前「え」

澤村・菅原「「((おっ!))」」


……あれ?さっきとは違い、なんだかいいことを言ってる。
大地さんとスガさんも同じことを思ったようで、目を見開いて田中の方を見ていた。
心做しか日向の顔色も良くなった気がする。


田中「あっでも、サーブ打つ時だけは一人だからな!孤独だからな!ミスんなよ!サーブミスは即失点だからな!」

名前「!?」

澤村・菅原「「((ばっ……!))」」


アホーーーッ!!!
どうしてコイツはこうもデリカシーが無いのだろう、私も人のことあんまり言えないけど。

「冗談だ冗談!サーブミスなんて、なんてことねえ!」と豪快に笑う田中だが、時すでに遅しである。
再び真っ青な顔になって、慌てたように体育館から出ていく日向。
それを見た私は思い切り田中の背中を叩いた。


田中「いって!!何すんだよ急に!!」

名前「田中、一言余計だっつの!せっかく途中まで日向もいい感じだったのに!」

田中「つうか日向どこ行った!?」

名前「トイレ」

田中「またかよ!!」

名前「あんたのせいでしょうが!!」


……そして、その後田中が日向を迎えに行ったが。
結局日向の緊張はとれないまま、試合の始まる時間が着々と近づいていた。
トイレから戻ってきた日向を見た私と大地さんはサッとアイコンタクトを交わし、早速日向に声をかける。


澤村「日向、緊張しなくて大丈夫だから!リラックス!」

日向「ハイッ!リラックスがんばりますっ!!」

名前「日向、体に力入っちゃってるよ。そんなに心配しなくても大丈夫だからさ。ちょっと深呼吸とかしてみたらどうかな?」

日向「は、ハイィッ!し、深呼吸、がんばりますっ!!」


……こりゃダメだ。
日向を落ち着けるつもりで言ったのだが、もはや今の日向には私や大地さんの言葉すらプレッシャーになってしまうようだ。

すると、大地さんが近くにいた潔子さんに声をかける。
何か気の利いた一言がないかと助けを求めているようだ。
潔子さんは目をパチクリさせて顔面蒼白の日向を見た後、スタスタと日向に近づいていく。


清水「……ねぇ、ちょっと……」

日向「えっ、」

清水「……期待してる」


─── ボフンッ!!


清水「えっ!?」


肩をぽんと叩かれて囁くように送られたエールに、日向が爆発した。
その光景に、私と大地さんは思わず固まる。
どうやら日向にトドメを刺してしまったようだ。

だけどよく考えてみれば、それはそうだろう
潔子さんからエールを送られたら、誰だって爆発する。
私なんて天に召されるわ。


清水「……名前、どうしよう」

名前「……すみません、これはもう手遅れかと……」


最終的に誕生したのは、さっきよりもさらにカチコチになった日向であった……。




「 ─── 烏野高校対青葉城西高校、練習試合始めます!」


ついに始まった練習試合。
そういえば、幸運にもこの間のナンパのサポーター野郎はバレー部ではなかったらしい。
あの人の姿はどこにも見えないのだ。

しかし、"岩ちゃん" さんらしき人はバレー部だったようで、コートに立っていた。
"岩ちゃん" さんは私に気づいたらしく、目をぱちくりさせてこちらを見てきたので、小さく会釈をしておく。
何はともあれ、サポーター野郎がいないのなら安心だ。

そして、それよりも今は、


日向「ご、ごめんなさい!すみませんすみません!!」


日向の方が深刻である。

相手チームのサーブ。
大地さんが拾おうとしたボールを、なぜか横から奪うように日向が飛び出してきた。
縁下がカバーに入るがやはり乱れてしまい、そんな中で打った田中のスパイクは見事にブロックされてしまったのである。

その後も完全に呑まれている日向がミスを連発してしまい、24対13で青城のマッチポイントとなってしまう。
「一旦落ち着こう、1点ずつ返すぞ!」と仕切り直す大地さんだったが、次のサーブを確認して顔を強ばらせた。
そしてそれは、コート外にいる私とスガさんも同じである。

なんと、よりにもよってこのタイミングで、未だ緊張が解けていない日向にサーブの番が回ってきてしまったのだ。


名前「……練習試合でこんなに不安になるの、初めてかもしれないです」

菅原「うん、俺も……。日向、ちゃんと息してんのかな、あれ」

名前「止まってますよね絶対」


見るからにガチガチで青ざめている日向は、強ばった表情でボールと睨めっこをしている。
その瞬間、ピッと合図の笛がなり、その音にビックリした勢いで日向はサーブを打った。

そしてそのサーブは、
─── まっすぐ影山の後頭部に。

バチン、とボールが当たる鈍い音。
日向のサーブが影山の頭にヒットしたことにより、25対13で第1セットは青城が取る。
静まり返る体育館内、そして燃え上がる影山の怒りのオーラ。
張り詰めた空気の中で、影山を宥める大地さんの声が響いた。


澤村「ま、待て、影山!気持ちはわかるが抑えるんだ!」

影山「……まだ……何も言ってませんけど」


恐ろしいほど無表情な影山にその場の空気が凍り、大地さんですら後ずさる。
スガさんは影山が暴れるのではないかと危惧したらしく、すぐにでも動けるようにスタンバイしていた。

……しかし。


田中「…ぶ、ォハーッ!!ぅオイ、後頭部大丈夫か!!!」

月島「ナイス後頭部!」

菅原「煽んなっつーの!!」

澤村「ヤメロお前らっ」

名前「っ、ちょ、止めなよ田中もツッキーも!ぶふっ、……」

澤村「お前は笑いながら怒るな!」

菅原「竹〇直人か!」


ゲラゲラと笑う田中に煽るツッキー。
そんな2人を咎めるものの、私も思わず吹き出してしまう。
こんな状況だけど、後頭部サーブは正直面白かった。

するとそんな中で、影山がゆっくりと日向の元へと歩いていく。


影山「………お前さ」

日向「ッ………ハイ」

影山「一体何にビビってそんなに緊張してんの?相手がデカイこと…?初めての練習試合だから…?」


日向の体から一気に冷や汗が吹き出ている。


影山「俺の後頭部にサーブをブチ込む以上に、恐いことって……なに?」

日向「……とくにおもいあたりません」

影山「じゃあもう緊張する理由は無いよなあ!もうやっちまったもんなあ!一番恐いこと!」


感情の無い表情で、スパァン!スパァン!と自身の後頭部を叩く影山。


影山「……それじゃあ……」

日向「!!?」

影山「とっとと通常運転に戻れバカヤロー!!!」

日向「………?アレ?今のヘマはセーフ!?」

影山「は!?なんのハナシだ!」


そう言って元の位置へと戻っていく影山。
どうやら日向は、ミスをすると交代させるれると思っていたらしい。
そのせいで必要以上に緊張とプレッシャーを感じていたようだ。

ようやく日向の顔色が戻った。
……うん、ひとまずよかったのかな?


田中「おいコラ日向ァ!!」

菅原「あっ田中!」

名前「あっ、大丈夫ですよ、多分」

菅原「…え?」


目をつり上げてズカズカと日向に歩み寄る田中。
それを見て止めに行こうとしたスガさんを、私は引き止めた。
なんだか、今の田中は止めなくてもいいような気がしたんだ。

田中が日向に問いかけると、日向はちゃんとやらないと交替させられてしまう、だが自分は最後まで試合に出たいと本音を零した。
すると、それを聞いた田中は声を張り上げる。


田中「お前が下手糞なことなんか、わかりきってることだろうが!わかってて入れてんだろ、大地さんは!」


それからもガミガミ説教を続ける田中。
交替させられたときのことは、交替させられたときに考えろって……なんとも田中らしい。


武田「た…助けなくて平気?」

菅原「あ、ハイ多分。苗字が大丈夫だと言っているので」

武田「そ…そお?」


田中「良いかァ!バレーボールっつうのはなあ!ネットの"こっちっ側"に居る全員!もれなく "味方" なんだよ!!」


そうだ。
同じコートにいる人たちは、全員自分の味方。
それが、バレーボールだ。
田中の言葉に、持っていたノートを思わずぎゅっとノートを抱き締める。


田中「下手糞上等!!迷惑かけろ!!足を引っ張れ!!それを補ってやるための "チーム" であり、"センパイ" だ!!」


……んん?
ドヤ顔で言った田中の最後の言葉に引っ掛かりを覚えるが、日向の方は目をキラキラと輝かせていた。


田中「ホレ、田中先輩と呼べ!」

日向「田中先輩!」

田中「わはは!もう一回!」

日向「田中先輩!!」

田中「わはは!!」

名前「……いや "先輩" ってよばれたいだけかい」

菅原「そうだね(笑)」

澤村「うん…でも、田中が居て助かった…ああいうことは絶対裏表無さそうな奴が言うから効果があるんだよな…」


まあ確かに、大地さんの言う通りだ。
田中の言葉はいつでも真っ直ぐなのである。
田中のおかげで、日向もモチベーションを取り戻したようだ。

そして日向の顔色も戻ったところで、第2セットが始まった。
2セット目、最初の速攻は失敗に終わったけど……。


影山「悪い、今のトス少し高かった」


自分のミスを認め、素直に謝る影山。
この調子なら大丈夫だろう、影山なら絶対に修正して合わせてくれるはず。

思った通り、次はあの速すぎる速攻が決まった。
敵はもちろん、味方ですら一瞬目を離しただけで置き去りにされるあの速攻だ。


「「っしゃ!!!」」

月島「でたよ…変人トス&スパイク…」


ツッキーの言う通り、周りは初めて見るトンデモ速攻に驚いている。
そうだろうそうだろう、あんな速攻は誰も見たことがないはずだ。


「オォ―――ッシ!!!」


と、円になってガッツポーズをとるみんな。

そこから烏野の反撃が始まった。
日向にブロックが跳んだのを狙い、田中がスパイクを決める。
作戦通りに、日向の囮がしっかりと機能しているのだ。
ツッキーと影山はまだ相変わらずで、試合中なのに言い争いをしているけど……。
その闘争心によるブロックは脅威的でもある。

田中のスパイクに、ツッキーのブロック、大地さんのレシーブに、影山のトス、日向の速攻……。
それぞれが機能して、烏野は第2セットをものにしたのだ。
あの4強から1セットをもぎ取ったのである。


田中「おっしゃあああ!!このまま最終セットも獲るぜええ!!」

名前「いったれー!!」


元気よくベンチに戻ってきた田中とハイタッチをする。
田中や日向がこのまま逆転勝利だと意気込んでいる隣では、スガさんと大地さんが真剣な表情をしていた。

影山のようなサーブを打つ選手がいなくてよかったとスガさんが言うと、意外にも影山が油断しない方がいいと零した。
その言葉に、全員の視線が顰めっ面の影山に集まる。


影山「…多分…ですけど…向こうのセッター、正セッターじゃないです」

「「「えっ!?」」」


正セッターじゃ、ない……?

頭に思い浮かぶのは、あのナンパ男の顔。
……嫌な、予感がした。

なんだか雲行きが怪しくなった時、第3セット開始の笛が鳴る。
しかしその時、体育館全体にいきなり黄色い歓声が響いた。


「きゃーーーっ!!及川さ〜〜〜ん!!」

「やっと来たぁーっ!」


ギャラリーから口々に叫ぶ女子達。
……"及川さん"?
んんん?なんだか聞いた事ある名前だぞ?

全員が体育館の入り口を振り返る中、私はギギギッ…と錆び付いたロボットのようにみんなよりも遅れてそちらに体を向ける。

視線の先には、観客に手を振りながら歩いてくる茶髪で長身の男。
無理しないでくださーい!という女子の甘い声援にニコッと笑顔を振りまいている、あの男は。



サポーター野郎だああああああああぁぁ!!!!





(なんでだよおおおおおおおおおおおお)← 藤○竜也風に

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