ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


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─── 火曜日、放課後。

いよいよ今日は、青城との練習試合の日である。
授業が終わるなり急いでジャージに着替えて集合し、バスへと向かった。
運転をしてくれる武ちゃんに全員で挨拶をしてから、私はみんなと一緒にバスに乗り込む。
もちろん潔子さんの隣の席に座るため、潔子さんにくっついてバスに乗った。

1つ前の席にはスガさんと大地さん、隣には潔子さん。
幸せかよこの座席。
座席に座るなり、私はバッグからお菓子の袋を取り出す。
カントリー〇アムとア〇フォートだ。


名前「潔子さん、これどうぞ!みんなに回すんで1個ずつでお願いします!」

清水「ありがとう、名前」

名前「( ゚∀゚):∵グハッ!!」


袋を差し出せば、ふわりと微笑みを向けてくれる潔子さん。
軽く吐血した。←


名前「大地さん、スガさん!これ1個ずつどうぞ!」

菅原「おっ!おやつ番長〜!ありがと!」

澤村「サンキュ、名前」

名前「いえいえー!あ、縁下!これ1個ずつ取ってみんなに回してー」

縁下「おー、ありがと」


普段から差し入れをしていてお菓子を持ってくることに慣れているのもあってか、こういう時にも私はお菓子を持ってきては全員に配る。
昨日も今日も平日で時間が無かったから、今回はたまたま市販のお菓子だが。
そこで時々呼ばれるあだ名が「おやつ番長」だ。

大地さんとスガさんにお菓子を手渡し、後ろの席に座っていた縁下に袋を託す。
隣では潔子さんがモグモグとカン〇リーマアムを頬張ってて、綺麗だし可愛すぎてしんどい。
すると、前の席のスガさんに「名前ー」と呼ばれた。


菅原「名前はカント〇ーマアムはバニラ派?」

名前「バニラ派です!」

菅原「お、仲間じゃん。ちなみにたけのこ派?きのこ派?」

名前「たけのこ派です!」

菅原「俺も!よし、同盟組むか」

名前「組みましょう!」


私の前の席なのに、わざわざこっちを振り返って話しかけてくれるマイエンジェルが今日も尊くて愛しい。
そして私とスガさんはバニラ&たけのこ同盟を結んだ。


清水「……名前、じゃ〇りこ好きだよね?食べる?」

名前「うひゃあ良いんですか!!飾って家宝にします!!」

清水「うん、食べてね」


なんと、隣の潔子さんが私にじゃが〇こをくれました。
結構前にじゃ〇りこが好きだと私が言ったのを覚えていてくれたらしい、嬉しすぎる。
家宝にすると言ったらめちゃくちゃ苦笑いされた。
これから練習試合だけど、やっぱりこういうバスの時間って楽しいよね。

……しかし。
潔子さんと一緒にじゃが〇こを食べていた時、事件は起きた。


田中「うわああああ!!止めて!!バス止めてえええ!!」


突然後ろから聞こえてきた大絶叫。
そしてすぐさま「名前ー!!」と田中に名前を呼ばれる。
一体どうしたのかと、バスが停まったのを見計らって潔子さんの隣の席から立ち上がり、田中の元に向かうと……。


名前「ひ、日向!?大丈夫!?」

田中「名前!早く!ビニール!」

名前「わわわ、わかった!田中それ脱いで!!」


ぐったりとしている日向に、汚物まみれのジャージを着て嘆く田中。
日向が田中の股間に向けてリバースしたらしく、バスの中は大パニックになったのである。


澤村「(あれ……?)」

菅原「(なんか……)」

影山「(予想以上に、)」

澤村・菅原・影山「「「(((ヤバい……!!?)))」」」


名前「日向、水飲んで!ゆっくりね!」

日向「う、あ……あざ、す……」

名前「田中、この袋使って!みんな、窓開けてくださーい!!日向、こっち座りな」

日向「は、ハイ……うっぷ、」


予備で持ってきていた袋を何枚か田中に渡し、みんなに換気を促す。
そして青城に着くまで、私はひたすら日向の背中を摩っていた。
吐くだなんて大丈夫か、日向……。




日向「 ─── すみません。田中さん、すみません」

田中「いいっつってんだろうが!そんなことより、おめーは大丈夫なのかよ!?」


なんとか青葉城西高校に着いた頃、日向の吐き気はようやく落ち着いたようだった。
顔色は相変わらず悪いけれど。

バスを降りてから日向は田中に謝り倒しているが、田中はこう見えて心も広いしめちゃくちゃ良い奴だから、全く怒ってなどいない。


日向「ハイ…途中休んだし、苗字さんが背中摩ってくれたし…バス降りたら平気です」

田中「そうか、ならいい!今日の試合はお前の働きにかかってるかんな!3対3の時みたく、俺にフリーで打たしてくれよ!」


そう言ってバシバシと日向の背中を叩く田中。
田中は完全に無意識のようだが、その言葉は日向にプレッシャーを与えてしまい、再び日向は震え上がった。

田中あああああ!!!
日向は緊張してるんだから追い討ちかけないであげて!!
スガさんも小声で「プレッシャー駄目!!」って言ってるけど、田中は全く気づいていない。


日向「トッ…トイレ行ってきますっ…」

田中「上の次は下か!忙しい奴だな!」

名前「田中あんた馬鹿なの!?」

田中「なんだよ急に!?」


田中はメンタル鬼強人間だから、日向の気持ちなど理解し難いのだろう。
無自覚に日向を追い詰める田中を見て、またやっちまったと私は溜息を吐いた。
一方で、トイレに行こうとする日向に今度は影山はイラついている。


影山「アイツ、また…!情けねぇな!!一発気合い入れて、」

名前「何言ってんの影山!?あんたも実は馬鹿なの!?日向そういうの効くタイプじゃないから絶対ダメだよ!!」

菅原「田中!この単細胞押さえろ!」

田中「お、オス!」


日向を追いかけようとする影山を、必死に押さえるスガさんと田中。
その光景に、私とその隣にいた大地さんは大きな溜息を吐いたのだった……。



─── そして、みんなで体育館に向かっている時。
どこからか、話し声が聞こえてきた。


「 ─── 烏野つったらマネが美人なことくらいしか覚えてないし」

「マジッスか!?」

「そーなのよ、ちょっとエロい感じでさ〜。あと、確か二人いるんだよ。もう一人はザ・美少女って感じで、150センチあるかないかくらいちっこい」

「えっ!!ちっさ!可愛いっすね」

「な、可愛いよな」


どうやら潔子さんと私の話をしているらしい。
……一応153cmですが!!?
ピキッと私のコメカミに青筋が立つ。


「……でもガラの悪い奴が居てな〜。ボーズで目つき悪くてさ〜、アッタマ悪そうな顔した ───」

田中「ん〜〜???」

「「!?」」


曲がり角から顔を覗かせ、話し声の主を見る田中。
そんな田中に気づいたらしく、話をしていた青城のバレー部らしき二人はぎょっとしたように黙りこんだ。
田中を先頭に、ぞろぞろと背の高い影山やツッキーが歩いていく。


「あっ、え―っと」

田中「…ウチを…あんまナメてっと…喰い散らかすぞ」


その途端、周りにいた烏達が鳴き始めてバサバサと飛んでいき、不吉な空気を漂わせる。
青城のバレー部らしき人達は、田中の威嚇顔にビクリと震え上がっていた。

うはは、いいぞー田中!
私も田中の隣にズカズカと歩いて行って並び、田中の真似をして威嚇顔をする。


名前「私は153cmなんだよ、150より3cmもデカいぞコラ」

月島「そんな威嚇しちゃダメですよ〜、田中さ〜ん、苗字さ〜ん…。ほらぁ、"エリートの方々"がびっくりしちゃって、可哀想じゃないですかあ」

「べ、べつにビビってねえよ!」

田中「おう、そうだな。イジめんのは試合中だけにしてやんねーとな」


私たちに加勢し、ここぞとばかりに相手を煽るツッキー。
うん、さすがだ。嫌味のレベルが違う。
こんな所で彼の煽りスキルが活きるなんて。

すると、バタバタと走ってくる足音が聞こえた。


澤村「あっお前らっ!ちょっと目ぇ離したスキにっ!」


やって来たのは大地さんである。
こちらへ向かってくるなり、大地さんは私と田中の頭を押さえつけて無理やり頭を下げさせた。


澤村「失礼しました!!田中、名前!!その顔止めろ!!」

名前「うぬぬ……」


青城の奴らめ、私の身長をいじった罪は重いぞ!!
そんな脅迫も込めて2人を睨みつければ、さらに大地さんに怒られた。
同じく威嚇顔を継続していた田中も怒られた。

そして私は大地さんに襟首を掴まれ、田中と共に連行されて行ったのである。
しかしその途中、


「…久しぶりじゃねーの、王様」


立ち去ろうとする影山を呼び止める声。
影山は、ピタリと足を止めた。
……影山の中学でのチームメイトだろうか。


「そっちでどんな独裁政権敷いてんのか、楽しみにしてるわ」


その言葉に私と田中は同時に拳を握り締めて食ってかかろうとするが、大地さんにしっかりと襟首を掴まれて止められてしまう。
影山は少しの間俯いていたが、すぐに顔を上げる。


影山「……ああ」


そう返した影山の声と瞳は、真っ直ぐだった。
戻ってきた影山の肩をスガさんと田中が、背中を私がバシッと叩く。
「何するんスか!」と影山に睨まれるが、私たちはニコニコと笑っていた。
大人になったね、影山。

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