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澤村「……おい…今…日向…目え瞑ってたぞ」
「「「……はああっ!!?」」」
大地さんの言葉に、全員が目を見張った。
大地さんによると、今のスパイク……。
日向はジャンプする瞬間からスイングするまでの間、目を瞑っていたらしい。
つまりそれは、ボールを全く見ていない日向の手に、影山がピンポイントでトスを上げたことになる。
スイングの瞬間に合わせて、寸分の狂いもなく……。
そんな事が可能なのかと疑うが、今目の前でそれが行われたのだ。
現に日向は、球が手に当たったことに大喜びしている。
というか、日向も日向でとんでもない事をしている気がする。
日向は、影山のトスが絶対にここにくると信じた。
目をつぶって手をフルスイングできる程に、影山を信じて飛んだのだ。
それからは何度か失敗して顔面にボールをぶつけたりもしていたけど、日向が機能してきたことで田中もスパイクを決められるようになってきた。
あの速すぎる速攻は、まぐれでは無くなってきたのだ。
日向の驚異的な瞬発力とバネ、運動量。
そして、影山の恐ろしいほどに精密なトスがあるからこそできること。
日向が影山のセッターとしての本領を引き出した結果なのだ。
そして日向チームは、ついに1セット目を先取したのである。
田中「どうだオラァァァ!!月島ァコラァァ!!俺と日向潰すっつったろうがァァ!!やってみろやおらァァ!!」
菅原「なんでお前が一番威張ってんの田中〜」
縁下「そうだー!1年のおかげて打ててるくせにー!」
菅原「態度デカいぞー!」
木下「脱ぐなーハゲー!」
田中「今フツーに悪口混ぜたの誰だコラァ!!」
名前「うはは!言われてやんのー!」
田中「笑ってんじゃねー名前!」
また上裸になってジャージを振り回す田中へ次々と飛んでいくヤジに、私はゲラゲラと笑う。
もはや田中って、バレー部のいじられキャラのような気がする。
そこから少しの休憩を挟み、そして第2セット。
日向のミスもありつつもそこは影山と田中がカバーして、あの速すぎる速攻が決まり……2セット目も日向チームが取った。
日向チームの勝利である。
しかし、やはり日向の運動量と影山の神経のすり減らしようは凄まじいようで、試合終了後は2人とも息を切らしてぐったりとしていた。
私は慌ててスクイズボトルとタオルを2つ手に取ると、日向と影山の元へと駆け寄る。
名前「お疲れ!大丈夫?凄い動いてたもんねぇ、置いておくからゆっくり飲んでね」
影山「う、ウス……あざっス……」
日向「ぅぐえ……あざ、す……」
名前「にしても凄かったよさっきの!ビックリしすぎて顎外れそうになったわ!」
日向・影山「「あざーすっ!!!」」
ついさっきまでぐったりとしていた日向と影山だったが、私が興奮しながら感想を伝えれば、2人とも途端にシャキッと起き上がって頭を下げてお礼を言ってくる。
り、律儀だ……。
田中「大地さんもスガさんも……アイツらにあんな攻撃が使えるって見抜いてあんな事言ったんスか!?」
一方で田中は、興奮した様子で大地さんとスガさんに詰め寄っている。
後で聞いた話だけど、初日早々大地さんは日向と影山を体育館から締め出したらしい。
こっちの話も気になったけど、とりあえず私は他のみんなにもタオルとドリンク持っていってあげねば。
私は月島と山口の方へと向かった。
そこでは、既に回復した日向が月島と握手をしようと揉めていた。
結局無理やり握手をさせられたようで、月島の表情が物凄いことになっている。
その横でオロオロする山口。
山口「大丈夫か、ツッキー!?」
名前「やっほー!月島と山口もお疲れ様ー!」
月島「っ!べ、別に……」
名前「……?頑張ってたじゃん」
私が首を傾げれば、月島はそっぽを向いてしまった。
するとそこへ大地さんもやってくる。
澤村「月島!どうだった?3対3は」
月島「……別にどうでも。エリート校の王様相手だし、僕ら庶民が勝てなくても何も不思議じゃないです」
澤村「…ふーん…その割にはさ、ちゃんと本気だったじゃん。なぁ、名前」
名前「はい!ツッキーもぐっちーも良かったよ!」
月島「その呼び方やめてください」
名前「えっ、なんで!?いいじゃん!」
さっき、山口が月島のことを「ツッキー」と呼んでいたことを思い出して同じように呼んでみるが、物凄く嫌そうな顔をされた。
しかし私はこの呼び方を気に入ってしまったので変えるつもりはない。
名前「それよりも、ツッキーはブロックが上手いんだね!」
月島「だから、止めてくださいその呼び方。あと先輩が小さいからそう思うんデショ?」
名前「お尻ペンペンすっぞ」
ツッキーがお尻ペンペンって何かシュール……。
でも本当に、ツッキーと私が並ぶとすごい身長差で、まるで大人と子どもみたいだ。
すると、
日向「キャプテン!!」
という大きな声が響く。
そちらに目を向ければ、日向と影山が大地さんに入部届を差し出していた。
2人の手に握りしめられてくしゃくしゃになっている入部届を、澤村が受け取る。
澤村「清水!アレ、もう届いてたよな?」
清水「うん」
名前「……あ!私も手伝いまーす!」
大地さんが何のことを話しているのか瞬時に察した私。
潔子さんの後を私もついて行く。
そして潔子さんが持ってきてくれた段ボールから、烏野高校排球部のチームジャージを取り出して、1年生4人に渡した。
日向にとっては憧れのジャージらしく、飛び上がって大喜びしている。
澤村「これから、烏野バレー部としてよろしく!」
「「「よろしく!!」」」
この言葉には影山も嬉しかったようで、日向とそろって「おす!!」と答えている。
名前「潔子さん、私ドリンク片付けますね」
清水「うん。お願い」
名前「みんなー、ドリンク片付けるよー!飲むなら今飲むか、自分のボトルにあけちゃって!」
影山「あ、じゃあもらいます。そんで練習すんぞ日向!!」
日向「オオッ」
あれだけ動いたというのに、もう練習を再開するらしい。
かなりのスタミナお化けなのかもしれない。
しかしそこで、私はある事を思い出した。
名前「……あっ、そうだ!私今日差し入れ持ってきたんですよー!」
日向「差し入れっ!?」
私の言葉に反応した日向が目をキラキラさせててこちらへ詰め寄ってくる。
可愛い……第2のマイエンジェルが降臨した!!
私は持ってきていたトートバッグの中身をみんなに見せた。
名前「はいっ! 名前特性☆甘さ控えめ栄養たっぷりオカラドーナッツでーす!」
日向「ドーナッツ!!!」
田中「っしゃあ!!」
澤村「いつも悪いな、名前」
名前「いえいえ、このくらいしかできませんのでねぇ」
そう言って私はみんなにドーナッツを配っていく。
……だけど、バッグに一つだけ残ったドーナッツと、ラッピングされたサポーターを見ると、なんだかちょっと悲しくなった。
すると、ダダダダっと誰かが走ってくるのが聞こえた。
?「組めた!!組めたよーっ」
この独特な声は……!
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