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田中に引きずられて体育館に入れば、バタバタとこちらへ集まってきてくれる2、3年生。
1番最初に上がった声は、愛しのマイエンジェルの声だった。
菅原「名前じゃん!! うわ、すっげぇ久しぶり!!よかった〜、やっと来てくれた〜!」
名前「愛しのマイエンジェルは今日も尊い!!!(スガさんんん!!お久しぶりです!!)」
田中「いや逆!本音と建前が逆!」
スガさんこと菅原孝支さんは、私が愛してやまないエンジェルである。
彼の優しさと笑顔は大天使様なのだ。
おいでおいで〜!とスガさんに呼ばれ、条件反射でピューッと飛んで行くと、スガさんは私の頭をなでなでしてくれた。
なでなでしてくれた!!(大事だから2回言った)
菅原「足はもう大丈夫なのか?」
名前「はいそれはもう完治しました!なのでいつでもスガさんの所に飛んでいけますグヘヘヘヘ」
縁下「顔と笑い方やばいぞー」
スガさんのなでなでに、私の表情筋は緩みまくりである。
仕方ないだろ、こんな爽やかイケメンマイエンジェルに撫でられたら誰だってこうなるだろ!
澤村「名前」
次に声をかけてくれたのは大地さんだ。
名前「あ、大地さん!おはようございます!」
澤村「おはよう。今日からもう大丈夫なのか?」
名前「えっとまあ、はい。本当にすみませんでした、長くお休みを頂いてしまって」
澤村「……そうか。いや、いいんだよ」
大地さんは何か察してくれたようで、頭をぽんぽんしてくれた。
流行ってるの? 私に触るの流行ってるの?
全然嫌とかじゃないし、むしろもっと触ってください。←
すると、大地さんは何かを思い出したような表情になった。
澤村「そうだ、お前にも1年を紹介しなくちゃな」
名前「おお?」
そうだそうだ、4人入ったんだっけか?
キョロキョロしてみると確かに知らない顔が見える。
そして大地さんは彼らに集合をかけた。
澤村「あー、1年と名前は初めてだから、一応自己紹介してもらおうか」
名前「はーい!マネージャーで2年の苗字名前です!料理が好きなので差し入れ係みたいになってます!差し入れババアとか言ってた某田中はあとでお尻ペンペンしまーす」
田中「ギクゥッ」
菅原「某田中て笑」
名前「好きな食べ物はビーフシチューで、好きな色は黒と白と青、得意な料理は」
澤村「もういい、長い」
名前「いでっ!」
ズビシィッ、隣にいた大地さんから脳天チョップを食らった。
私と大地さんにとってこれは通常の掛け合いなのだが、初めて見るせいか1年生(特に眼鏡の背の高い子)がドン引きしてるように見える。
澤村「まあ、こんな感じで田中みたいにうるさいヤツだけど、ちゃんといいマネージャーやってくれてるから」
田中「」
名前「いやん大地さん大好き」
菅原「前半はスルーすんのかよ(笑)」
縁下「都合のいい耳だな……」
田中みたいにうるさいとか言われたけど、いつもの事なので気にしない。
田中とノヤと一緒に騒ぎすぎて大地さんに怒られるなんて、今までに何回あったことか。
澤村「じゃあ1年も頼む」
日向「はっ、はい! いいい、1年の日向翔陽ですっ!!よろしくお願いしゃすっ!!」
影山「……影山飛雄っす。お願いしゃす」
月島「…月島蛍です。よろしくお願いします」
山口「山口忠です、よろしくお願いします!」
名前「おー!よろしくね!」
田中が言っていたオレンジくんは日向、北川第一のセッターは影山というらしい。
そして背の高い眼鏡君は月島、ヒョロッとしていてユルい雰囲気の漂う子が山口。
みんな特徴的な4人なので覚えやすい。
自己紹介が終わったところで、大地さんが声を上げた。
澤村「よーし、じゃあ始めるぞ!月島達の方には俺が入るから ─── 」
日向「ええっキャプテンが!?」
どうやら日向&影山&田中チームと、月島&山口&大地さんチームで試合をやるようだ。
キャプテンが入るという事実を聞き、日向は焦ったような声を上げた。
澤村「ははは!大丈夫だよ!攻撃力は田中の方が上だから!でも手は抜かないからな〜!」
そう言って笑う大地さん。
確かに攻撃力だけなら田中の方が強いが、大地さんが相手チームにいるとなると、日向チームは相当やり辛くなるだろう。
月島「あー、オホンッ」
すると、月島がわざとらしく咳払いをした。
月島「小さいのと田中さん、どっち先に潰…抑えましょうかあ……?あっそうそう、王様が負けるとこも見たいですよねえ」
日向チームを見ながら、大地さんに耳打ちをする月島。
耳打ちと言ってもわざとやっているようで、完全に丸聞こえである。
わー、月島ってば性格悪ぅ……。
なるほど、君はそういうタイプなのね。
田中「ねえねえっ今の聞いたあ?あ〜んな事言っちゃって……月島クンてばもうホント、 擂り潰す!! 」
物凄い形相で月島を睨みつけている田中。
挑発に乗りやすい田中のスイッチも入ったようだ。
これはなかなか面白くなりそうな予感……!
しかし私は試合が始まるその時、何となく影山の様子がおかしいのが気になった。
チラリと影山を見た時に、彼は若干ではあるが眉間に皺を寄せており、なんだかそれが思い詰めたような表情に見えたのだ。
何だろうと影山を見ていると彼も私の視線に気付いたらしく、バチッと目が合った。
こちらを見た影山には眉間に皺など寄っておらず、目をパチクリさせて私の方を見ている。
……気の所為だったのかな?
私が首を傾げていると、影山はなんだか不思議そうな表情で私を見ながらも軽く会釈をしてくれたので、私も会釈を返しておく。
すると、ぽんぽんと肩を叩かれた。
清水「名前、久しぶり」
名前「はうわあああっ!!潔子さんお久しぶりです( ゚∀゚):∵グハッ!!」
振り返るとそこにいたのは烏野排球部の女神である清水潔子さん。
潔子さんの美しさと聖なるオーラを久しぶりに浴びた私は身悶えた。
そんな私に潔子さんは不思議そうな顔をしながらも、小さく微笑んでくれる。
清水「足、もう平気?」
名前「は、はい!すみませんでした、長く休んでしまって」
清水「ううん、いいの。戻って来てくれて良かった」
名前「( ゚∀゚):∵グハッ!!」
女神の微笑みに私は再びノックアウトされた。
潔子さんの微笑みで昇天してしまいそうだ。
清水「復帰してすぐで申し訳ないんだけど、ノートお願いしてもいい?」
名前「はいもちろんです準備万端です!!」
清水「(……ノートとペン、今どこから出したんだろう……)」
私と潔子さんは普段から2冊のノートを取っている。
1つは試合の様子を記録するもの、もう1つは個人技や個人のステータスを記録するものだ。
試合記録は潔子さんが、個人技の方は私が担当している。
ササッとノートとシャーペンを取り出して見せれば、潔子さんは目をパチクリさせてこちらを見ていた。
そして大地さんの声で、いよいよ試合が始まった ───。
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