4
しかし、清水が言葉を発するよりも早く聞こえてきたのは、バタバタと騒がしい足音。
菅原「やばいやばい、早く!」
日向「っ!!」
慌てたように駆け込んで来たのは、菅原と澤村、そして東峰だった。
やって来た3人を見て、日向はパッと表情を明るくした。
清水「うん。変わらない」
やっぱりそうだという確信と、本当に良かったという安堵感。
そんな思いに胸を支配され、名前は再び目を潤ませた。
菅原「行くぞ、春高!」
菅原の言葉で、体育館は歓喜の叫びで満たされる。
まだ終わりたくない、まだ皆と戦っていたいと願った昨日の試合。
そんな名前の願いが叶ったのだ。
名前「うああああんっ、旭さあああああん!!」
東峰「わっ、名前!?なんで泣いてんの!?」
名前「よがっだあああああ」
嬉しさのあまり、名前は顔を歪ませながら東峰の大きな体に突進して行き、そのまま飛びついた。
もちろん小柄な名前のタックルでは東峰はビクともせず、難なく名前を受け止めた。
東峰「……名前を全国に連れて行くって言ったのに、まだ果たせてないからな。約束破る訳にはいかねえべよ」
名前「ふえええええ旭さんイケメンんんんんんん」
東峰の優しい声が降ってきて、名前は彼に頭を撫でられる。
名前の涙腺は完全に崩壊した。
澤村「……なんでいつもお前なんだ、旭」
東峰「そんな冷たい目で見ないで!!」
菅原「名前ー、俺にはしてくれないのー?」
名前「スガさああああああん!!」
菅原「よーしよし、いい子だな。俺も約束したからな、絶対連れて行くからな」
名前「ふえええええスガさんもイケメンんんんんん」
田中「変わり身早っ!!」
名前「からの大地さああああんっ!!」
菅原「えー」
澤村「えーって何だ、スガ!…ほら、泣くな。名前」
名前「っ、ぅはい!」
3年生と順番にハグを交わし、名前は泣き笑いを浮かべる。
泣き笑いでも、それはやはり太陽のように明るい。
それにつられるように、体育館の中は笑顔で溢れたのであった。
─── その後練習をしていると、烏養が体育館へやって来た。
一応休養日だと言うのに様子を見に来てくれたらしく、烏養も部員達と変わらないのだと名前は小さく笑う。
その後は澤村によって招集をかけられ、ミーティングが始まった。
烏養「俺達は、優劣を決める試合で負けた。青城は強かった。俺達はそれに劣った。それは現時点の結果で事実だ。……で、今日のIH予選決勝、優勝は白鳥沢。準優勝は青城だ」
「「「!!」」」
告げられた内容に部員達は動揺し、全員息を飲んだ。
自分達が敵わなかった相手である青城。
その上に君臨する者達がいる。
さすが、"王者" と呼ばれているだけある。
烏養「県内でさえ、あの青城より上がいる。強くなるしかねえ。……次の目標はもうわかってると思うが、春高だ。高校バレーの大会ではIHと並んでデカイ大会だ。春高が1月開催になって3年も出られるようになってからは、出場する3年にとっては文字通り "最後の大会" だな」
"最後の大会" 。
その言葉に、名前はぎゅっと拳を握りしめる。
3年生にとっては今度こそ、負けたら次は無い。
これが最後のチャンスなのだ。
烏養「じゃあとりあえず、ここは主将に一発気合い入れてもらおうか」
烏養の視線が澤村へと移る。
澤村はしっかりと頷くと、すくっと立ち上がった。
澤村「昔、烏野が一度だけ行った舞台…東京、オレンジコートだ。
─── もう一度、あそこへ行く!」
「「「っしゃああああ!!!」」」
澤村の言葉で、その場の盛り上がりは最高潮となった。
烏野高校排球部は、新たなスタートを切ったのである。
……そして。
武田「 ─── い…行きますよね!?東京!!」
新たな物語が、今始まる ─── 。
ハイキュー『君の隣で』第1章 【完】
<< >>
目次