ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


3

─── あっという間に午後の授業が終わり、チャイムが鳴った。


西谷「名前、行くぞ」

名前「あーいよ」


SHRが終わるなり西谷が名前のもとへやって来て部活へと誘う。
名前もそれをわかっていたのか当然のように頷けば、隣の白間が不思議そうな顔をした。


白間「あれ、バレー部は今日もあんの?」

名前「いや、一応休みなんだけどさ」

西谷「じっとしてらんねーんだよ」

白間「あはは、バレー馬鹿だ」

名前・西谷「「知ってる」」


腫れぼったい目でへらっと笑った白間。
名前も西谷も自他共に認めるバレー馬鹿であるため、2人揃って彼女の言葉に頷いた。


白間「頑張って」

名前「ん、ありがと!」

西谷「おう!」


のんびりと片付けをする白間にヒラヒラと手を振り、名前は西谷と共に教室を出た。

途中で西谷と別れて名前は女子更衣室に向かったが、入ってみればそこには誰もいない。
着替えながら少しの間待ってみても、清水はやって来なかった。

まさか、と嫌な予感が頭を過ぎる。
ドッドッ、と心臓の波打つ音が徐々に速くなる。
不安に駆られるように、名前は更衣室を飛び出した。


田中「……お、 名前」

名前「みんな……」


体育館へと急げば、ちょうど部室から出てきた2年生5人とばったり会う。


西谷「どうしたんだよ、そんなに焦って」

名前「……潔子さん、待ってても来なかったから……」


目を伏せた名前から告げられた内容に、5人は顔を見合わせた。


田中「……そんなわけねえよ。3年生はゼッテー来る」

縁下「そうそう。昼休みの自信はどこに行ったんだよ」

西谷「ほら、行くぞ」

名前「うん……」


自分でもわかるくらいに、名前は珍しく弱気であった。
田中達に促され、名前も歩き出した。
だがその表情は晴れず、不安でたまらないといった顔である。

……しかし、その時。

─── バシッ!!


名前「ほぎゃっ!!?」


名前の背中と頭に同時に衝撃が走った。
ちなみに名前の背中を叩いたのは田中と西谷、頭にチョップを入れたのは縁下である。


縁下「ほら、そんなに下向くなって。いつものうるささはどこに行ったんだよ」

名前「……うん」

田中「お前が言ったんだろ、3年生は約束破らねえって」

名前「……うん」


そう……そうだ。
3年生が、約束を破るはずがない。
こんなところで放り出すはずがない。
縁下と田中の言葉に顔を上げれば、真っ直ぐに名前を見つめる西谷と目が合った。


西谷「 ─── 名前、大丈夫だ」


それは、名前が何度も応援で口にした言葉。
時には薄っぺらい言葉なのではないかと不安になることもあったが……いざ自分が言われてみると、なんて心強い言葉なのだろう。


名前「……うん」


西谷の言葉に背中を押され、名前は今度はしっかりと頷いた。

いつの間にか止めてしまった足を動かせば、先程よりも体が軽く感じる。
まるで本当に背中を押されているような感覚だった。

そして、辿り着いた体育館。
ガラガラと重い扉を開く。
そこには既に着替えた日向と影山、床に散らばっているバレーボール。

─── そして。


清水「あれ、 名前?早いね、もう着替えたの?」


鈴の音のような声が聞こえて、反対側の入り口にいたのは探し求めていた人で。
名前は大きく目を見開いた。


田中・西谷「「潔子さん!あなたに会いに来ました!」」


一瞬反応の遅れた名前。
そのため先に飛び出して行ったのは田中と西谷であった。


田中・西谷「「貴方に一生ついて行きまァァァすっ!!!」」


叫びながら清水に飛びつく田中と西谷。
しかし清水はさらりとそれを避けたため、2人は勢い余って反対側の入り口から外へとダイブ。
ドーンッという派手な音がした。


名前「〜〜〜っ、潔子さああああんっ……!!!」

清水「わっ、どうしたの!?泣いてるの!?」

名前「泣いてっ、なんかぁ、……うわああああああっ……」


名前は安堵のあまり顔を歪ませて清水に突進して行き、彼女の華奢な体に抱き着いた。
今度は清水も避けずに受け止めてくれて、名前はよしよしと頭を撫でられる。

き、潔子さんになでなでされた!これはラッキー!!とこんな状況でも内心ニヤニヤしてしまったのは秘密だ。


縁下「清水先輩、そいつニヤけてます」

清水「えっ」

名前「縁下コラァ!バラすな!!」

縁下「泣きながらニヤけて更には怒るとか、器用だなお前……」


清水に抱き着いたまま、縁下に向かって猛抗議する名前。
その瞳には薄らと膜が張っている。

するとそこへ「ちわっす!」と挨拶が聞こえて山口と月島もやって来た。
月島は入ってくるなり、清水に抱き着いている名前にジトッとした視線を送る。


月島「……何やってるんですか、苗字さん」

名前「潔子さんとの再会を喜び合っています」

月島「本音は」

名前「潔子さんを堪能してます」

清水「えっ」

名前「ってツッキー!!私に何てことを言わせるんだ!!」

月島「自分で言ったんデショ」


ハッと小馬鹿にするように鼻で笑った月島を見て、「腹立つ…でも可愛くて憎めない…!」と名前は地団駄を踏んでいる。
そんな彼女に縁下や成田、木下が呆れたような視線を送っていると、外からボロボロになった田中と西谷が戻ってきた。


西谷「あとは3年か」

縁下「でも…今日は元々部活無いし…」

名前「そういえばそうじゃん」


部活に行く前、名前は白間に「部活は本当は休みだが行く」と告げている。
しかし、自分も含めてあまりにも普段通りに部員達がやって来るものだから、名前は今日が休みであることをすっかり忘れてしまっていたのである。

すると、田中が「オイオイオイ!」と声を上げた。


田中「3年が引退なんかするわけねえだろ!」

名前「そうだよ!さっきは私に『下向くな!』ってチョップかましてきたクセに〜」

縁下「それはまあ、そうだけど……」


名前の中で不安が全て拭い切れたかと言ったら嘘になる。
しかし先程の田中や縁下、西谷の言葉で、名前が勇気をもらったのは事実だ。

そして何より、清水が今ここに居る。
それが名前の自信に繋がっていた。

先程のお返しのように名前が縁下を軽く揶揄えば、彼は小さな笑みを見せてくれた。
その顔にはやはり、まだ不安は残っているようであったが。

しかし、田中と名前の言葉を聞いて「えっ」と声を上げたのは日向であった。


日向「どういうことですか…?3年生は、残りますよね!?春高に行くって言ったの、変わらないですよね!?」


不安気に清水の方を見る日向。
名前もようやく清水から離れて、彼女の顔を見上げる。

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