ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


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名前は西谷の近くの席を借りて弁当を置く。
同じように席にかけた西谷と田中。
そこへ、縁下、成田、木下の3人も教室へやって来た。
怖いくらい黙り込んでいる田中と西谷を横目に、名前はゆっくりとした手つきで弁当の包みを広げる。


田中「 ─── 大地さんは春高に行くって言った」


迷いの無い、真っ直ぐな声。
田中の言葉に、名前ははたと動きを止める。


名前「……大地さんが?」

田中「ああ。日向と影山が初めてバレー部に来た日にな」

名前「……」


ドクン、と名前の心臓が大きく跳ねる。
それは、自分が最も望んでいたことであったからだ。


西谷「春高…一次予選は8月だっけか…」

田中「俺達でもう一回行くって言った。敗戦に浸ってる余裕、無えよ」


自分達がやるべき事は、練習のみ。
そう言っているかのような、強い口調だった。

澤村が嘘をつくはずがない。
途中で投げ出すこともない。
1年間彼の背中を見てきて、彼を信じているからこそ出た言葉であった。
そしてそれは、名前も同じ。


名前「……私もそう思う」


それまで黙って話を聞いていた名前が口を開くと、彼らの視線が一気に集中した。


名前「……スガさんと旭さんが、『絶対お前を全国に連れて行く』って私に言ってくれたの。大地さんもスガさんも旭さんも、約束破るような人じゃないよ」


そう言って、ニッと歯を見せて笑う名前。
昨日の試合前以降見ていなかった彼女の笑顔が、西谷達には随分と久しぶりに思えた。
まるでその笑顔につられるように、5人の瞳にも光が宿り、口角が上がった。


縁下「苗字もそう言うなら間違いないかもな」

田中「つか、スガさんにもそんなカッチョイイこと言われてたのかよお前…」

名前「ふははは、羨ましいだろー!」


ニヒヒ、と怪しげな笑みを浮かべながら名前は弁当箱に入っていた卵焼きを頬張る。
それはいつもと変わらない、甘い卵焼きだった。

今、自分達がやるべきことも変わらない。
春高に向けて、ただひたすら練習するのみ。
たとえ3年生がどんな決断を下そうとも、名前達には信じて待つことしかできないのだ。


西谷「貰った!」

名前「……はっ!?え、ちょっ、信じらんない!ノヤに卵焼き取られたんだけど!!」

西谷「お前ん家の卵焼き美味いんだよなー」

田中「じゃあ俺もっと」

名前「あーっ!!おいふざけんな、卵焼き無くなったじゃん!!」

田中「うまっ!お前も1個食ったんだからいいだろ」

名前「あんたが言うのそれ!?私のお弁当だっつーの!!」

縁下「声でかいよ苗字、もう少し抑えて」

名前「止めるな縁下、卵焼きの恨みは消えんぞ!!」


先程までの少し張り詰めたような空気はすっかり消え去り、いつものようにワイワイと騒ぎ出すバレー部2年。

彼らは元々、考えても分からない事をいつまでも考えている質ではない。
潔く、その時を待つ者達ばかりなのだ。

3年生が全員、"残る" という決断を下すことを信じて ───。

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