ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


1

─── IH予選 3日目。

名前には、いつもと変わらぬ月曜日が訪れていた。
呆気ないほどに終わってしまった2日間。
昨日の熱気は未だハッキリと体に刻み込まれていて、訪れた日常が不自然に思えてしまう。

朝起きた時からぼんやりとしていて頭が働かず、学校に着いてからも気分は晴れない。
教室に入る前に買ったリンゴジュースを吸っていると、フラリと教室に入ってきた人物。


白間「……おー、名前。おはよ」

名前「おはー」


隣の席の白間美紀だ。
白間はドサッと机の上にリュックを下ろし、一息吐いた。


白間「1限何だっけ」

名前「数学」

白間「……(白目)」

名前「ちょ、顔www」

白間「白目はね、睡眠確定演出」

名前「ガチャじゃん、レア度は?」

白間「星2」

名前「ひっくwww」

白間「排出率79%だから」

名前「多いな!www」


いつもと変わらぬ、他愛無い会話。
しかしお互いに、部活の話題には決して触れなかった。

名前は男バレ、白間は男バスのマネージャー。
IH予選の日付は被っていたため、今日学校にいる時点で結果は言わずともわかるのである。

そしてお互いに、腫れぼったい瞼。
何があったかなんて、明らかであった。
だからこそお互いに余計なことは言わず、馬鹿話に花を咲かせて笑い合う。
相手を思いやり合っているからこそ成り立つことであり、名前も白間も互いに相手のそういう部分が好きであった。

……だが、会話をしていないと直ぐに昨日の試合に浸ってしまう部分も同じようで。
今日の午前の授業はお互いに上の空であった。
内容なんて全く頭に入ってこなくて、ただ機械的に板書を取る。
何の内容をやっていたかなんて全くわからない。

あと一歩で及ぶはずだった、昨日の試合。
最後にボールが落ちた瞬間は、今でも脳内で鮮やかに再生される。
"悔しい" という一言には収まりきれないほどの悔しさだった。

そして、3年生の "引退" 。
彼らが今後どうするつもりなのかは何も聞いていない。
聞けばわかることだが、怖くて聞けなかったのだ。

もちろん覚悟はしていた。
……いや、していた "つもり" になっていたのかもしれない。
いざその局面に立たされると、現実を受け入れられない。
"覚悟" という面の皮だけ被り、実際には何の覚悟もできていなかったのだと名前は実感したのであった。


─── 気付けばチャイムが鳴っており、午前中の授業が全て終わっていた。
昼休みになり、生徒の出入りが始まって一気に教室が賑やかになる。


白間「……名前ー」

名前「ん?」

白間「……めっちゃ寝てた、さっきの日本史のノート見して」

名前「あーいよ」


チャイムが鳴った途端、ムクリと顔を上げた白間。
そんな彼女にノートをひょいと差し出した時、名前にかかる2人の影。


名前「……ノヤ、田中」

田中「名前、飯食うぞ」

西谷「白間、今日はコイツ借りていいか?」

白間「どうぞどうぞ、今なら貸し出し自由ですよ」

名前「私は図書館の本か」


やって来たのは、西谷と田中であった。

─── 昨日名前は、西谷の腕の中で泣いた。
涙が止まらなくて、西谷のTシャツを涙で濡らした。
声を上げて悔し泣きをするなんて、本当に久しぶりだった。
そしてあの時、一瞬自分の肩に降ってきた雫が雨ではなく、西谷の涙だったことにも気付いている。

しかし目の前に立つ西谷は、昨日の事など何も無かったかのように真っ直ぐな目で名前を見ていた。
それは田中も同様で、何かを決意したような真剣な表情をしている。


名前「いいよ、どこで食べんの?」

西谷「俺の席」

名前「あいよ」


スクールバッグから弁当箱を取り出して、ガタッと椅子から立ち上がる。
そして、


名前「……帰ったら、今日はちゃんと寝なよ」

白間「……ん。ありがと」


名前は、ペンを走らせて黙々とノートを書き写す白間の頭をポンポンと撫でた。

午前の授業中、ほとんどの時間を机に突っ伏して過ごした白間。
もちろん名前は彼女が寝ているわけではなく、悔し涙を堪えていることに気付いていた。
そして薄らと目元に残るクマから、彼女が一晩中泣き明かして徹夜状態であるということも。

たまたま持ってきていたア〇フォートを2つ白間の机に置き、名前は西谷達と共に窓際の席へと向かう。
顔を上げずに礼を述べた白間であったが、3人が立ち去ってから、白間の広げていたノートには数滴の雫が染み込んでいった。

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